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65歳以上の家探しお助け起業「共創すれば、できる!」 NEC社会起業塾で学んだこと
2022年9月22日

若い起業家を育てる「NEC社会起業塾」は、20周年を迎えました。今年も2団体を選出し、9月から約7か月の研修プログラムがスタート。NECの取り組みは、企業による社会起業家育成の先駆けとして知られ、昨年度までに68団体を送り出しました。いま社会問題となっているシニアの家探しをサポートする「R65不動産」もその一つ。社長の山本遼さん(32)に、起業塾で学んだことを尋ねました。
社会起業家育成の先駆け、NEC社会起業塾 NECの本業と起業家の連携も
2022年度のNEC社会起業塾の塾生には、潮流を利用した海洋ごみ回収法の開発・調査をする「NPO法人クリーンオーシャンアンサンブル」と、社会保障制度からの排除を防ぐ、人間中心設計の福祉 DX 事業を運営する「NPO法⼈Social Change Agency」が選ばれました。
NEC社会起業塾は2002年、NECとNPO法人ETIC.が協働でスタート。今は多くの企業や大学が起業家育成に関わっていますが、20年前は育成の仕掛けは限られており、当時NECの取り組みは先駆的なものでした。
応募者数は多い年で60件超。約7カ月のプログラムでは、一流の起業家からの講義、先輩を交えた事業戦略会議や事業計画づくりなど実践的な学びを重ねます。NECはこのプログラムの間の活動資金や場所を提供し、情報発信などの広報的な支援も行います。卒業後のフォローアップにも力を入れており、社員のスキルを活用してNPOや社会起業家を支える「NECプロボノイニシアティブ」を中心に、中期経営計画づくりやシステムの導入の支援などのノウハウを提供。NECグループの事業と連携するケースも生まれています。
塾の卒業生には、ニューズウィーク「世界を変える100人の社会起業家」に選ばれた、認定NPO法人フローレンス(病児保育など育児支援)など、著名となった起業家もいます。多くの卒業生が医療や教育、障がい者支援や貧困問題など幅広い分野で活躍しています。
NEC社会起業塾では、何を学び、その学びを事業にどう生かし、社会課題の解決につなげていくのでしょうか。卒業生の取り組みを紹介します。

ひとつひとつ課題をときほぐして解決する「広い視野を学べた」
山本遼さんの出発点は「高齢者の住まい探しサポート」です。
高齢者の孤独死や家賃未払いのリスクを気にする不動産会社や家主からは、高齢者の契約を断られるケースが多々あります。65歳からの部屋探しを支援するサービスを山本さんが思い立ったのは、不動産会社勤務時の経験がきっかけでした。「どの不動産屋でも門前払いされて5か所目」という80代の女性を担当したところ、物件200件をあたって、紹介可能なのはわずか5件。「営業の効率だけ考えると高齢のお客様を断る営業マンの気持ちもわかりました。でも、不安になったんです。自分が老後を迎える時もこんな社会だったらどうしよう」
社内で高齢者向け事業を提案したものの「儲からないよ」と一蹴され、25歳のときに独立。2016年、社会起業塾の門を叩きました。特にNECに興味をもったのは、「難しい社会課題の解決に取り組んでいる起業家の先輩たちをたくさん輩出していたから」です。
起業塾では「広い視野を学べた」といいます。家探しが難しい高齢者に賃貸住宅を仲介したい。でも、それだけを考えても進めない。そもそも高齢者OKの物件が少ないなら増やしたい。どうやって?大家さんや不動産会社の孤独死への不安をどう減らす?その解決法は「見守りサービス」や「保証事業」かもしれない。ハードルの要因を一つずつ解きほぐしていく。「そういうアプローチは一人では考えられなかった」と山本さんは振り返ります。

見守り・保証…「共創」することで事業拡大し課題の解決に
卒業から6年、起業塾で描いたビジョンを一つずつ実現してきました。見守りサービスでは、NECグループの会社と組み、照明器具を使って見守りをする新事業に挑戦。この協業は、NEC社会起業塾のスタッフの仲介で実現しました。今は電気の使用量を確認できるスマートメーターを使い、異常があれば通知する見守りサービスを販売しています。
家を借りる時の保証人の問題については、保証会社と連携して、万が一のことがあったときに、大家や不動産が対応しやすいような仕組みをいれています。広島市には、行政に相談に来た人に紹介する業者として認められました。行政との連携も進んでいます。
不動産会社約40社、家主約600人と協力関係にあり、これまでの仲介は300件を超えます。
「NECの起業塾で、特に印象に残っているのは『共創』という言葉です」。起業したときは、自分の力でやることだけを考えていました。でも、見守りや保証、物件集めなどの事業やサービスについて、様々な協力先を組むことで、目指す未来像がぐっと現実的になる。「共創」すれば、社会の課題を解決していける。それを今、山本さんは実感しています。