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幸せってどう分析するの?~NECのウェルビーイング分析~ 前編

2022年11月22日

はじめに

閲覧ありがとうございます。NEC AI・アナリティクス事業統括部ウェルビーイングプロジェクトチームです。
突然ですが、最近巷で最もホットな話題といえば、何を思い浮かべますか?
…そうです!もちろんウェルビーイングですね(諸説あり)。
ということで今回から前編・後編の2回に分けて、「ウェルビーイング×AI・データサイエンス」というテーマでブログを書きたいと思います。前編の執筆は、ブログのイントロが強引な2022年度入社の境が担当いたします。

さて、ウェルビーイング(Well-being)は日本語に直訳すると「幸福・健康・福祉」という意味になります。最近では働き方改革や健康経営と同様にこの概念に注目する企業が増えてきており、2022年はウェルビーイング元年と言われています[1]。私たちのグループはこれに先駆けて2020年より活動を開始し、実証を通してAIチャットボットやデータサイエンスによるウェルビーイング維持・向上支援の可能性を探ってきました[2]。今回のブログでは、ウェルビーイングの定義を紹介したのち、私たちが取り組んだ実証の概要についてお伝えします。実証の具体的な内容と結果については次回のブログにて紹介予定ですので、ご期待ください!

ウェルビーイングとは

少し堅いお話になりますが、厚生労働省ではウェルビーイングを「個人の権利や自己実現が保証され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と定義しています。つまり、幸せな状態を維持するためには心身の健康と社会的な健康の両方が必要なのですね。また、近年では企業経営においてもウェルビーイングの考え方が重要視され始めており、幸せな社員は不幸せな社員より生産性が3割高いという研究結果もあります[3]。社員の幸福は企業経営においても非常に重要であり、ウェルビーイング向上に向けた取り組みが求められています。

図1 幸せの4因子

さて私たちは、このウェルビーイングに関する学問、「幸福学」の国内第一人者である慶應義塾大学の前野隆司教授と共同研究を実施しました。前野教授は、幸せとはどんな状態か、どんな状態にある人が幸せを感じているかを調査して、「幸せの4因子」を定めています[4] 。幸せの4因子は幸せの心的特性に焦点を当てた指標で、図1に示す項目で構成されます。個人の精神的な健康状態を表す因子だけでなく、社会的な健康状態を表す「ありがとう!」因子が含まれていることは、厚生労働省の定義とも共通していますね。
なお、各因子をどの程度満たしているかはアンケート調査によって測ることができます。例えば「やってみよう!」因子の場合、以下4つの質問について7件法(1:全くそう思わない~7:とてもそう思う)で回答し、その数値を合計することでスコアを算出できます。

質問1.私は有能である
質問2.私は社会・組織の要請に応えている
質問3.私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた
質問4.今の自分は「本当になりたかった自分」である

なお、他の因子に関してもそれぞれ4つの質問が設定されており、同様の手順でスコアを算出できます。最終的には得られた4因子のスコアを合計することで、その人の幸福度を測ることができます。

ここで重要なのは、幸せの4因子は全て自分自身で改善が可能であるという点です。「幸せ」を自分でコントロールするというのは無茶な話に聞こえますが、実はそうではないのですね。例えば「やってみよう!」因子の質問3では、人生における変化、学習、成長の程度が問われています。この項目は日々意識的に小さな学びを得たり、成長を目指して行動することで改善が可能です。少しの意識で自分自身のウェルビーイングが向上するなら、やらない手はないですね!(私はずっと敬遠していた包丁でのリンゴの皮むきに挑戦し、やってみよう因子の劇的な向上に成功しました。)

AI・データサイエンスとウェルビーイング

さてここからは、AI・データサイエンスを活用し、働く人々のウェルビーイング向上を手助けすることを考えます。
ウェルビーイング向上に関する記事やセミナーは既に数多くありますが、自分に不足している要素を把握したり得られた知識を自分の行動に反映することは、思いのほか難しかったりします。そこで私たちはAI・データサイエンスを活用し、利用者のアクションに直結するようなアドバイスの提示を目指しました。NECではAI活用の流れを「見える化→分析→対処」の3ステップに分けて考えており、今回もその流れに従ってデータ活用を進めていきます(図2)。

図2 NECの考えるAI活用の流れ

各ステップの具体的な内容は以下の通りで、全てのステップを通して「利用者の負担は最低限に、メリットは最大限に」を意識した設計となっています。

  1. 見える化:利用者の負担を軽減しつつ個人の特性データを収集する
  2. 分析:日常業務における、ウェルビーイングの具体的な変動要因を分析する
  3. 対処:利用者に対し、ウェルビーイング向上につながるアドバイスをする

1つ目の「見える化:利用者の負担を軽減しつつ個人の特性を収集すること」にはAIチャットボットを利用します。チャットボットは「チャット」と「ロボット」を掛け合わせた言葉で、人間と同じような会話を自動的に行えるアプリケーションを指します。近年では機械学習などの技術を投入したAIチャットボットが活用され始めており、Microsoft社の「りんな」は、従来では困難だった「一人ひとりにカスタマイズされたメッセージ配信」を実現した代表的なサービスです[5]
さて話を戻しまして、一般的に、個人の特性データを収集するにはアンケート調査を実施します。しかしアンケート調査では一度に全ての設問に回答する必要があり、所要時間が膨大になることも少なくありません。このことはアンケート回答が必須のサービスにおいて、利用開始の大きな心理的障壁となります。ここで、AIチャットボットの利点が活きてきます。利用者側の視点では、AIチャットボットを利用し数日掛けてアンケートに回答することで、大量の設問に回答する心理的負荷の軽減が期待されます。実際、今回の実証では幸福度に関する設問だけでも計16問ありましたが、チャットボットで毎日1問ずつ配信することで、1回あたりの回答所要時間を大幅に削減しています(印象評価の結果については後編で詳述)。さらにサービス提供側の視点では、個々の回答状況に合わせて設問の再配信が可能であり、サービス提供に必要な情報を確実に取得できます。利用者のアンケート回答負荷が軽減されることはサービスの利用率向上に直結する上、情報を漏れなく取得することは充実したサービスの提供に繋がります。ウェルビーイング向上に向けた取り組みの裾野を広げる上で、AIチャットボットは非常に有効なツールといえます。

2つ目の「分析:日常業務における、ウェルビーイングの具体的な変動要因を分析すること」は、まさにデータサイエンスの得意とする領域です。アンケート調査の結果幸福度が高かった人と、そうでない人の業務スケジュールを比較することで、幸福度を高めるスケジュールの組み方を見つけ出します。抽象的な指標や主観指標ではなく、「早朝の会議時間」や「1日の予定数」などの定量的な指標を用いるため、利用者のとるべきアクションが明確になります。分析で得られた知見を社員に展開することで、幸福度向上を意識した個々のスケジュール策定が可能となります。

3つ目の「対処:利用者に対し、ウェルビーイング向上につながるアドバイスをすること」には見える化と同じくAIチャットボットを活用します。今回私たちが開発したチャットボットは、Microsoft社のチャットツールであるTeams[6]をベースとしており、対話を通してウェルビーイング向上につながる行動をユーザに提案します(図3)。

図3 チャットボット画面のイメージ

このような提案は一見人が得意とする領域のように思えますが、実はAIチャットボットの長所が発揮される領域でもあります。例えば上司が行動変容を提案した場合、そこには少なからず指示や指導に近い意味が含まれます。また、同僚が提案した場合でも、アドバイスを実施しなかった場合に罪悪感のような感情が生まれるかもしれません。しかしAIチャットボットであれば、上司や同僚に比べて負担のない距離感で行動変容を提案することができます。さらに、個々のライフスタイル等をチャットボットとの気軽な会話を通じて把握可能なため、アドバイスの内容を個々にカスタマイズすることもできます。
AIチャットボットの活用によって、一人ひとりに適した行動変容の指針を適度な距離感で提示することが可能となり、利用者のウェルビーイング向上が期待されます[7]

おわりに

今回は「ウェルビーイング×AI・データサイエンス」というテーマで、ウェルビーイングの定義とAI・データサイエンスを用いた検証の概要をお伝えしました。
皆様もウェルビーイング向上のためにリンゴの皮むき…ではなく、何か好きなことにチャレンジしてみてくださいね。
次回は実証の具体的な内容と結果について投稿予定です。ぜひご覧ください!

参考サイト

執筆者プロフィール

中野 淳一(なかの じゅんいち)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2007年4月、日本電気株式会社入社。データウェアハウスシステムの設計・開発・保守を経験したのち、データサイエンティストとしてCRM 領域のデータ解析を担当。現在はNEC のAI事業拡大に貢献する一方、データ分析を用いてWell-Being 向上の研究などにも取り組んでいる。プライベートでは2人の子供の育児に奔走中。

執筆者プロフィール

岩科 智彩(いわしな ちさえ)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2019年4月、日本電気株式会社入社。現在は官公庁や金融業のお客様を中心としたデータ分析業務及び提案活動に従事。プライベートではスイーツ巡りと野球観戦が趣味。

執筆者プロフィール

大堀 杏(おおほり あん)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2020年4月、日本電気株式会社入社。現在は小売業のお客様を中心に、分析BPOサービスの提案・分析活動に従事。スイーツを食べることが日々の幸せ。美味しいケーキ・スコーン・ワッフルのお店を募集中。

執筆者プロフィール

古木 大裕(ふるき だいすけ)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2020年4月、日本電気株式会社入社。現在は製造業、鉄道関係のお客様を対象したデータ分析業務及び提案活動に従事。プライベートでは筋トレが趣味。最近では放置気味の家庭菜園をどうしようか考え中。

執筆者プロフィール

境 辰也(さかい たつや)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2022年4月、日本電気株式会社入社。現在は小売業、官公庁のお客様を対象とした分析BPOサービスの提案活動・分析業務に従事。音楽と食事が活力の源泉。リンゴの皮むき練習中。

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