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地球の色は地球の顔色だ

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「しきさい」が撮影した2018年1月29日のオホーツク海周辺の疑似カラー画像(※)。オホーツク海上を日本に接近しつつある流氷の様子(© JAXA)

※:赤、緑、青にSGLIのSW3(波長1630ナノメートル)、VN11(868.5ナノメートル)、VN8(673.5ナノメートル)を使用

病気になった人を看る時、私達はまず顔色に注意します。ほっぺたが赤くなっていたら、熱が高いのかも知れません。あるいは、気分が悪いと血の気が引いて顔色が悪くなるかも知れません。

地球も同じです。地球上の気候がどのように変化しているかは、地球表面の色に表れます。雪が降れば地表は白くなります。雲が浮かんでいればその部分も宇宙からは白く見えます。

木や草が生えれば地表は緑色になります。ひとことで緑色といっても植物の種類によって違いますから、詳しく調べればどんな植物かも分かります。海水温が高くなってプランクトンが繁殖すれば、海面の色はプランクトンの色に変化します。赤褐色のプランクトンが繁殖した状態が赤潮です。宇宙から赤潮を観測すると、そこが赤潮のプランクトンが繁殖しやすい環境になっているということが分かります。

あるいは風で砂が巻き上げられると宇宙からは砂の色が見えることになります。春先に大陸から飛んでくる黄砂を宇宙から見ると、黄砂がどこで発生し、どのようにして日本までやってくるかが分かります。

人間に見える光だけではなく、もっと波長の長い赤外線という目には見えない光で観測すると、色だけでなく温度も知ることができます。物体は温度に対応した波長の赤外線を発するからです。国際空港の検疫では、赤外線カメラで発熱した人を識別しますが、同じ原理です。

赤外線で地球を見ると、地表や海水面がどれぐらいの温度かを知ることができます。宇宙からならば、暖流や寒流といった海流や、南極・北極の海氷がどう流れているかも調べることができるわけです。

国際的に広がる地球気候変動の観測網の一環

もちろん、地球の気候変動の全体を把握するためには地球の“顔色”を見るだけでは足りません。「しきさい」は、地球上の水の動きを調べる「しずく」(GCOM-W:2012年5月打ち上げ)と対になる衛星です。しずくは、マイクロ波という電波を観測することで地表の水分含有量や水蒸気などを調べる衛星です。

さらに、「しきさい」と「しずく」は、様々なセンサーを搭載した国内外の衛星とも組み合わせることで、さらなる地球気候変動への理解を深めることも目指しています。たとえば二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの分布を調べるアメリカの「OCO-2」や日本の「いぶき」、雲の分布を調べるアメリカの「クラウドサット」、ライダー(レーザー光線を使ったレーダー)で大気中の微粒子(エアロゾル)や雲を調べるアメリカ・フランス共同の「カリプソ」などの衛星です。2019度年中には、雲プロファイリングレーダ(CPR)を含む4つのセンサーを搭載する日欧共同の「EarthCARE」という衛星も打ち上げを予定しています。

これらの衛星から得られるデータを使って、最終的に知りたいのは「地球の気候がどんな仕組みで変動しているか」というメカニズムです。メカニズムが分かれば、コンピュータを使ったシミュレーションで、この先地球の気候がどのように変動していくかが予測できるようになります。

中でも「しきさい」のデータからは、陸上の大気中に浮遊するエアロゾルの分布データが得られることが期待されています。地球環境の温暖化には温室効果ガスをはじめとして様々な要素が関係してきます。それぞれの要素は働き方も様々です。たとえば温室効果ガスは増えると地球を温暖化させますが、雲は太陽光を反射するので、増えると地球は寒冷化します。エアロゾルは雲と同じく増えると地球を寒冷化させるのですが、これまで地上のエアロゾルは海上のエアロゾルに比べて計測が困難で、はっきりしたデータがありませんでした。「しきさい」が、地表のエアロゾルを計測することで、より高精度の地球気候変動のシミュレーションが可能になります。

さらに、「しきさい」では観測データを農業、漁業などの産業分野にも提供して、役立てることになっています。基礎科学の分野だけでなく、産業面でもデータを役立てようというわけです。

地球の色と温度を見る衛星「しきさい」

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図:打ち上げを待つ「しきさい」(© JAXA)

「しきさい」は、地球の色と温度がどのように分布しているかを調べる地球観測衛星です。高度800kmで地球を南北に巡る軌道から、地球上を観測します。地球は東回りで回っているので、南北に回る軌道からは地球の表面のほぼ全部を見ることができます。

太陽電池パドルを開いた時の全幅は16,5mあり、衛星重量は約2トン。これは日本の地球観測衛星の標準的な大きさです。通信や電源、姿勢制御などの衛星の基本機能を担う部位(衛星バスといいます)は兄弟衛星である「しずく」と共通の設計を採用しています。「しずく」と「しきさい」は共通の衛星バスを使用しており、搭載しているセンサーが異なるのです。設計上の寿命は5年以上となっています。

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積分球という試験機器による検査を受けるSGLI-IRS(© JAXA)。
積分球は完全に一様な面光源で、この光をセンサーに当てることで、センサー受光部における各受光素子の感度差を測定することができる。得られた値を使って、実際の観測データを補正し、均一な観測結果を得ることができる

地球の色を調べるのは「多波長光学放射計」(SGLI)というセンサーです。前の代の環境観測技術衛星「みどり2」(ADEOS-II:2002年打ち上げ)に搭載した「グローバルイメジャ」(GLI)というセンサーをさらに発展させたもので、目には見えない近紫外線から、可視光、そして赤外線までの光を、19の波長域(バンド)で観測する機能を持っています。SGLIは可視・近赤外放射計部(SGLI-VNR)と赤外走査放射計部(SGLI-IRS)の2つの受光部を備えていて、それぞれSGLI-VNRが近紫外線から可視光を経て近赤外線まで、SGLI-IRSがさらに波長の長い短波長赤外から熱赤外で観測を行います。また一部の波長では、偏光という波としての光の振動の向きがそろった光を計測することが可能になっています。偏光の観測機能は陸上のエアロゾルの観測で威力を発揮すると期待されています。

地球全体の環境を調べる衛星なので、地表の物体を調べる地球観測衛星のように小さなものを見る機能は持っていません。その代わりになるべく広い範囲を一度に見ていくように設計されています。カメラの望遠レンズと広角レンズの違いと考えれば間違いないです。「しきさい」は広角レンズで地球を見ているわけです。「しきさい」は、地球の色を調べる衛星です。ですから「物体の輪郭はぼんやりでもいい。その代わりに正確な色を、なるべく広い範囲にわたって一気に調べる」という考え方で作られているわけです。

「しきさい」のSGLIは、さしわたし250m~1kmの物体が識別できる細かさで、一度に1,150km~1,400kmもの幅で観測できます。幅1,000km~1,400kmのカミソリで地表を剃っていくみたいなイメージでとらえるといいでしょう。これだけ広い幅で観測を行うので、「しきさい」は全地球の表面を2日に1回の割合で観測することができます。

衛星製造から運用・データ処理まで―NEC

NECは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との契約で、主担当社(プライム)として「しきさい」の開発に参加しました。衛星本体の製造だけではなく、「しきさい」の“命”というべき搭載センサーのSGLIの開発・製造、地上で衛星を運用するための衛星管制システム(固有部)の構築、センサーが得たデータを処理するミッション運用系システムの開発、さらには打ち上げ後の衛星運用支援を担当しています。

「しずく」と共通の衛星バスもNEC製です。「しずく」とは衛星の役割や製造時期が異なるので、姿勢制御系を高精度化したり、通信系のデータ転送速度を高速化したり、また製造中止になったバッテリーを新型のものに交換するなどの改造を加えています。「しずく」は打ち上げ後5年を経過、設計時の目標だった5年以上の寿命を達成し、観測データを地上に送り続けています。「しきさい」でも「しずく」同様の成果を出すことで、安定かつ確実な衛星開発・運用を通じて社会への貢献を目指します。

NECは衛星の製造から運用、データ処理に至るまでの衛星の全部に取り組み、安心感ある衛星の開発・運用を目指しているのです。

執筆 松浦晋也 2018年2月28日

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