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被災状況の効率的で正確な情報収集を支援
生成AIを活用し、画像や映像から小さく写る情報も精度よく検索する技術

NECの最先端技術

2026年10月14日

近年、災害激甚化が進むなか、被災状況の効率的な把握は重要な課題となっています。NECでは2026年10月にこの課題に対応する技術を開発し、プレスリリースを発信しました。画像と言語を統合的に理解するAIモデルであるVLM(視覚言語モデル)を活用することで、膨大な情報のなかに小さく写り込んだ被害も高精度に捉えられるようになるほか、VLMが既知の知識を損なうことなく追加学習できるようになるという技術です。この技術の社会的な価値と技術的な詳細について、研究者に話を聞きました。

特定状況で情報収集にかかる時間を従来比で約7分の1に

サイバーフィジカルインテリジェンス研究所
主幹研究員
船田 純一

― 今回発表した技術の概要と、どんな社会課題を解決するものなのかを教えてください。

船田:災害時に集まる膨大な画像や映像をVLMによって高精度に認識し、迅速かつ正確な状況把握を支援する技術です。これまで見逃されがちであった画像内に小さく写り込んだ被害も認識できるほか、追加学習時に過去の知識を忘れてしまう現象を抑えることができるので、場所や用途に合わせてVLMを育てていくことができるようになります。

近年、日本でも多くの災害が起きていますが、世界中で災害の激甚化が進んでいます。こうしたなかで迅速な対応が求められる自治体などでは、被災状況をいち早く正確に把握する必要があります。昨今はスマートフォンやドローンなどの新しい技術の台頭によって情報は大量に集まるようになりましたが、膨大な映像を全て確認することは現実的ではなく、せっかくの情報を上手く活用しきれていない状況です。そこで、必要な情報や注目すべき情報を迅速かつ効率的に収集できるようにするという目的で本技術を開発しました。VLMをベースに独自の改良を加えることで、正確性と実用性を大きく向上させています。私たちの試算では、特定の被災状況の把握にかかる時間を従来と比べて約7分の1にまで短縮できると見込んでいます。

これにより、より少ない人数で状況把握が可能になるほか、より広範囲を把握できるようになるといった効果が生まれます。被災状況の正確な把握が速くなる結果、より素早い対処も期待できるようになることが本技術の大きな社会的価値として想定していることです。

小さく写った重大な被害も認識

サイバーフィジカルインテリジェンス研究所
主任
枌 尚弥

― 今回の技術は、具体的にどのように実現しているのでしょうか?

枌:新しく開発した2つのコア技術がカギとなっています。1つ目のコア技術は、画像や映像の中の小さい事象も高精度に認識する技術です。先ほど、船田さんからの話にも少しあったように、これまでは小さく写り込んだ被害は見過ごされてしまう傾向がありました。AIは小さい領域よりも大きく写り込んだ領域を重要視してしまうのです。


船田:災害発生時に撮影・収集するカメラ映像やドローン映像は、通常のスナップのように人やモノをメインの被写体にして撮るわけではありません。広範囲を全体的に撮り続けることが一般的です。このような映像では対象が全体的に小さくなりますから、これまでの認識技術では精度を出しづらいという課題もありました。


枌:そこで、今回はVLMが画像中の重要な部分を決定する仕組みである「アテンション機構」に独自の工夫を加えました。VLMは小さい領域についても情報自体は保持していますので、この情報を強調する処理を加えることで、うまく認識できるように設計しています。はじめは画面上の面積や統計値を利用したアプローチを検討していたのですが、それでは良い結果が得られなかったため、当時この課題にはあまり使われていなかった主成分分析という手法を試しに使うことにしました。これが意外にも上手くはまり、調整を重ねていった結果、本技術を生み出すことができました。

本技術によって、私たちの実験では画像面積の10%以下の小さな被写体でも、30~40%を占める箇所と同等の精度を実現できることを確認しています。

新しいことを学習すると、昔のことを忘れてしまうAI の性質を抑止

― 2つ目のコア技術は、どんなものだったのでしょうか?

枌:追加学習時に、過去の知識を忘れてしまう現象を抑える技術です。実は、AIは新しい知識を学習すると、過去の知識を忘れてしまうことがあります。その詳細な仕組みはまだわかっていないというのが実情なのですが、例えば水害の画像を新たに学習すると、AIがもともと知っていた「川」という知識を水害と混同してしまい、川を忘れてしまうというようなことが起こり得るのです。いかに既に持っている知識を忘れずに学習するかということが、AIを現場導入するうえでの大きな課題となっていました。


船田:VLMはもともと汎用AIの知識をもとにしているので、幅広い知識を持っています。その知識のおかげで多彩なシーンに対応できるのですが、それでも使う場所やシーンによっては独自の現象やモノがあり、導入時には学習する必要が生じます。加えて、近年では地震と豪雨等の複数の災害が組み合わさった複合災害も目立つようになっており、継続的に追加学習を行うことが必要です。こうした状況に対応するためにも不可欠な技術でした。


枌:検討の結果、行き着いたのは、もともと持っている知識を整理して追加学習に活用するというアプローチでした。具体的には、追加する画像データにVLMの機能を使ってキャプションを付与し、そのキャプションを利用します。例えば、先ほどの水害画像で言えば、新しく学習させる水害画像に対して学習させたいAIでキャプション生成させると、既に持っている知識から「川」というキャプションを引き出すことができます。この既にある知識「川」と新しい知識として「水害」を両方学習させることで、忘却を防ぎながら追加学習を行うことができるのです。

これは、VLMのモデル自体が更新されて、できることが増えてきていたので実現できたアプローチと言えるかもしれません。キャプション生成ができたことで、比較的シンプルな方法で実現することができました。

これらの2つの技術は、その先進性をアカデミアからも高い評価をいただいており、コンピュータビジョン分野で著名な国際学会ECCV(European Conference on Computer Vision)で採択され、発表を行っています。1つ目の小さい領域も認識できる技術はECCV 2024、2つ目の継続的な学習を可能にする技術はECCV 2026で発表を行いました。

フィジカルAIへの応用も視野に

― 本技術の今後の展望を教えてください。

船田:まずは防災の現場で活用いただけるように仕上げることを目指していきたいですね。実際にご活用いただくことでブラッシュアップしていくことができますし、さらなる技術の発展も考えることができます。

他にも、本技術はあまり世の中には流通しておらず、その現場にしかないものがたくさんあるような領域への応用にニーズがあると考えています。AIの汎用的な知識では対応しきれない事象があり、継続的な学習が必要になるからです。例えば、工場ではその場所独自の部品や工具を扱いますから、これらを見分けながら作業効率化につなげるような仕組みは、つくれるかもしれません。


枌:工具や部品は小さいですし、細かい差異のあるものがたくさんありますから、映像内の小さい領域でも高精度に認識できる今回の技術が活かせそうです。継続的な学習も活用すれば、製品の入れ替わりにも柔軟に対応できそうです。

また、NECはもともと画像認識・映像認識技術をたくさん持っていますから、そうしたものと組み合わせていくことで、さらに可能性が広がっていくと思っています。


船田:そうですね。今回は効率的に被災状況を把握するという技術でしたが、ゆくゆくは対処まで含めて実現できるようなことも目指していきたいです。特に、フィジカルAIと連携して上手く対処できるような未来も可能性として思い描いています。画像・映像認識の精度をもっと高めることで、わずかな違和感や予兆のようなものまで推定するロボットも実現できるかもしれません。加えて、他のロボティクス技術と連携して、何をすればいいのか自分で理解したり、必要な対処をを自ら行うなど、その場に応じて気を利かせることができるロボットが実現するというような可能性も広がっていると思っています。そういった領域にもこれからチャレンジしていきたいです。

本技術は、VLMを活用して高精度に画像や映像を認識し、迅速かつ正確な状況把握を支援する技術です。コア技術は2つあります。1つ目の技術は、画像や映像の中の小さい事象も高精度に認識する技術です。一般的なVLMには大きく写り込んだ領域を重要視し、小さく写り込んだ被害は見過ごしてしまう傾向があります。本技術の第一のユースケースとして想定する被災状況把握では、これは致命的な問題になり得ますから、NECではVLMのアテンション機構を工夫して小さい領域も強調して同等に扱うような独自の調整を実現しました。

2つ目の技術は、追加学習時に過去の知識を忘れてしまう現象(破滅的忘却)を抑える技術です。AIは新しい知識を学習すると、しばしば過去の知識を忘れてしまいます。これを抑え、継続的な学習を支援する技術を開発しました。試行錯誤の末たどり着いたのは、もともと持っている知識を整理して追加学習に活用するというアプローチです。追加する学習データ(画像)に対するキャプション生成を利用し、そのキャプションを利用することで従来の知識も維持できるようにします。例えば、新しく学習させる水害画像に対して学習させたいAIでキャプション生成させると、既に持っている知識から「川」というキャプションを引き出すことができます。この既にある知識「川」と新しい知識「水害」を両方学習させることで、忘却を防ぎながら追加学習を行うことができるのです。

これらの技術はアカデミアでもその独創性や先進性を認められており、それぞれの論文は世界的な国際学会ECCV(European Conference on Computer Vision) で採択され、発表を行っています。

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