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世界初・大規模施設の3D点群データを実用的なモデルに
デジタルツイン導入を促進する3Dモデル変換技術

NECの最先端技術

2026年10月8日

人材不足が深刻化するなか、インフラ事業者や自治体では、老朽化が進む構造物の維持管理が問題となっています。対象物をデジタル空間に再現するデジタルツインは、効率化を進める手段として長く期待を集めてきた構想です。しかし、これまで大規模施設を3D化する際の主流となってきた点群データは、容量が膨大かつデータの見た目が現実と異なるため取り扱いにくいという課題がありました。NECが今回開発した技術は、大容量の点群データを軽量で高精細な3Dモデルに自動で変換。デジタルツインの実用化を促進することが可能です。本技術の詳細について、研究者に話を聞きました。

持て余していた大規模施設の点群データを実用的な3Dモデルへ

サイバーフィジカルインテリジェンス研究所
主任研究員
小倉 一峰

― 3D点群データを軽量で高精細な3Dデータに変換する技術とはどのような技術なのでしょうか?

小倉:レーザースキャナ(注1)から得られた点群の3Dデータをガウシアン・スプラッティングによる写実的な3Dデータへ変換する世界初(注2)の技術です。ガウシアン・スプラッティングとは近年注目を浴びている3D技術で、体積を持った粒の集合で3Dモデルを構成します。通常のカメラで撮影された画像群や映像をもとに、AIが撮影位置や距離を推定して写実的な3Dモデルにすることができる手軽さから、映像・クリエイティブ業界等での活用が進んでいます。


廖:膨大な点の集合で構成される点群のデータに比べると、ガウシアンの粒は広がりを持っていて、学習しながら数や位置と大きさを最適化することが可能です。そのため、データ容量を大きく削減できるというメリットがあります。私たちが行った検証では、元の点群データサイズの約90%の軽量化に成功しました。また、点群は対象を拡大すると点の間が透けてしまいますが、ガウシアン・スプラッティングではそうした違和感は生じません。実際の見た目に近い自然な印象のモデルを構成することができます。

サイバーフィジカルインテリジェンス研究所
主任
安倍 次朗

安倍:大規模なインフラ施設や工場を管理する事業者や自治体、もしくはそれらの施設の3D化を担う測量会社等、既に大規模な3D点群を持っているお客様はたくさんいらっしゃいます。しかし、データがあまりにも大き過ぎて一般的なPCでは動かせず、残念ながらせっかくの3Dモデルを持て余している場合がほとんどでした。今回の技術を使えば、そうしたデータを一般的なPCやタブレット端末でも動かせるほどに軽量化することが可能です。


小倉:専門家だけでなく、幅広い方々に3Dモデルに触れていただくようになることで、遠隔地からの保守・点検や意思決定者による確認など、様々な活用ができると考えています。例えば、遠隔地から管理者が現場の作業者に見てほしい箇所を3Dで拡大して映し出し、現場ではタブレットPCでその場所を見ながら比較・確認するということもできるでしょう。


安倍:また、開発面から言うと、ガウシアン・スプラッティングを取り巻く環境は急速に整備が進んでいるため、完全独自の3Dモデル形式を構築する場合に比べて、お客様の環境に即したシステム構築を行いやすいという利点もあります。巨人の肩の上に乗ることで、私たちは独自の機能開発に集中することができるのです。


小倉:私たちのチームでは、かねてより3Dモデルを通じたデジタルツイン実現を目指して研究開発に取り組んできましたが、大きな課題となっていたのがデータ容量でした。実世界は、とてつもない情報量を持っています。例えばこの部屋を全て忠実に表そうとするだけで、膨大なデータ容量が必要になります。しかし、そうすると今度は逆に、データが大きすぎてデジタルツインが機能しなくなってしまうという問題が生じます。データの忠実性と軽量性を上手く両立させる技術として、本技術は大きな役割を果たせると考えています。

  • 注1:
    レーザースキャナ:レーザー光を使った計測機器
  • 注2:
    NEC調べ

バーチャルカメラを使って、ガウシアン・スプラッティングを再現

サイバーフィジカルインテリジェンス研究所
リサーチャー
廖 柏維

― 点群からガウシアン・スプラッティングへの変換は、どのように行っているのでしょうか?

廖:変換にあたっては、点群のなかにバーチャルカメラを配置して複数の位置とアングルから画像を生成し、通常のガウシアン・スプラッティングが行うように、画像群から3D構成の最適化していくという手段を使っています。しかし、バーチャルカメラの方向や位置、どれだけの数を配置するのかというのは非常に難しいポイントでした。3Dモデル化した際に抜けや漏れがないように構成していくのはもちろんですが、対象の細部をどれだけ忠実に描くかという点も考える必要があります。対象物の近くにバーチャルカメラを置けば細部を確認することができますが、全体を把握するためには遠く離れた箇所に置く必要もあります。このバランスの追求には、何度も試行錯誤を重ねていきました。現在は、ここも含めて自動化し、最適なバランスで構成できるようにしています。

また、不連続に広がる点群の間を埋めて、いかに見た目を自然にするのかという点も苦労したところです。ただ点だけに注目するのではなく、対象の範囲を見ながらAIで画像を再構成することで自然な見た目になるように調整しています。

― 通常のガウシアン・スプラッティングと比べて、点群から変換したガウシアン・スプラッティングならではのメリットはあるのでしょうか?

小倉:距離情報を持っているという点です。実スケールの正確な情報を持っているということは、大きなメリットですね。


廖:1cmレベルの精度を持っているので、設備間の離隔を測ったり、機材の搬入シミュレーションを行ったりと、対象施設の3Dモデルを使用したい多くの業務に対して求められる精度を満たせると思います。


安倍:もう一つは、ノイズが生じにくいという点ですね。通常のガウシアン・スプラッティングでは、使用する写真に写った空や背景の影響で、雲やモヤのようなものが生じてしまうことがよくあります。これに対して今回の技術では、空や遠方の背景が映りこまない点群をベースにしているため、変換後にも対象物のみをくっきりと描き出すことができます。特に、ガウシアン・スプラッティングデータを俯瞰して見るとその差が顕著です。

廖:本技術をまとめた論文は、コンピュータビジョン系の国際的なトップカンファレンスであるCVPR(Computer Vision and Pattern Recognition Conference) 2026に採択され、発表を行っています。

フィジカルAIやデジタルツインの実用化を加速

― 本技術の今後の展望を教えてください。

安倍:5月のプレスリリース後、ありがたいことに非常に大きな反響をいただいておりますので、まずはお客様にいち早くご利用いただけるように事業化を進めていきたいと思っています。特に、3Dモデルへの変換時間はいまのところ数日かかってしまうという状況ですので、たくさんのお客様にご活用いただくためにも、これから数分レベルにまで短縮させていくことを目指して研究を進めているところです。

また、この技術の本質を考えてみたときに、私は当初、点群データはセンサやコンピュータに処理しやすいデータで、それを人が見やすいようにガウシアン・スプラッティングに変換するものとして捉えていました。しかし、最近では、軽量で見た目がいいガウシアン・スプラッティングのデータは、実はAIやロボティクスにとっても相性が良いのではないかと考えるようになっています。軽量であるほど処理も速くなりますし、現場の見た目と近い映像の方が3D空間とのギャップも少なくなります。正確なスケールも反映しているので、ロボットに持たせる3D地図としても良いのではないかと考えているところです。

廖:そうですね。フィジカルAIへの応用は、大きな可能性があると思います。点群から実世界の見え方に近い3Dモデルにすることで、実世界画像から学習した大規模な基盤モデルや様々な映像認識も機能します。先ほど安倍さんもおっしゃいましたが、レーザースキャナで取った精緻な点群を変換し、精緻かつ写実的な3Dモデルで使える基盤モデルやエージェント技術も使うことで、幅が広がるはずです。

また、自動運転の世界でもLiDARを利用した点群データをたくさん取得しています。こうした領域でも、上手く活用していければと思っています。


小倉:3D技術は、ガウシアン・スプラッティングのようなAIを活用したものが登場したことで、非常に大きな盛り上がりを見せています。センサも手軽になっていますし、繰り返し話に出ているような基盤モデルやソフトウェアのライブラリもここ数年で一気に充実してきました。なので、私たちは今回開発した技術が、これまで活用しきれていなかった大規模施設の点群データをガウシアン・スプラッティングの波に乗せる橋渡しのような役割を担えると思っています。そうすることで、大規模施設の正確な3Dモデル化を促すとともに、冒頭でお話ししたようなデータの忠実性と軽量性を上手く両立させて、デジタルツインの実用化も進めることができるはずです。

デジタルツインの実用化が、ついに見えてきたという気がしています。広域の膨大な情報のなかから異変を検知してアラートを出したり、経年劣化の情報を提示したりすることでAIが運用をサポートするような、そんな未来を描きながら研究を進めていきたいと考えています。

本技術は、レーザースキャナで撮影された大規模点群データをガウシアン・スプラッティングの3Dモデルに変換できる世界初の技術です。インフラ施設や工場等では保守のために点群データを所持しているケースが多くありますが、容量が大きすぎて一般的なPCでは扱うことができいため、これまでは必要に迫られた際に専門家が閲覧するのみにとどまっていました。

本技術では、ガウシアン・スプラッティングの3Dモデルに変換することで容量を約90%削減可能。また、点群のように拡大時に対象物が透けて見えることがないので、写実的な自然な見た目を再現することができます。さらに、点群データをもとにしているため、通常の画像や映像をもとにしたガウシアン・スプラッティングで作る3Dモデルよりもスケールが非常に正確(誤差1cmレベル)です。変換によるアーティファクト(意図せず発生してしまうノイズ)が発生しにくいというメリットもあります。

これにより、一般的なPCやタブレット端末で幅広いスタッフが3Dモデルを閲覧することが可能に。リモート保守等での活用が期待されています。また、現在大きな盛り上がりを見せているガウシアン・スプラッティング研究における最先端の技術やソフトウェア改善を取り入れることで、これまで点群では利用できなかった機能を付加し、活用できるようになります。

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