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光通信衛星コンステレーション構築に向けた
転送遅延/遅延変動を抑制するネットワーク制御技術

NECの最先端技術

2026年5月13日

次世代通信として期待されているBeyond 5G / 6Gでは、地上だけでなく衛星などを介した空からのネットワーク(非地上系ネットワーク、NTN: Non-Terrestrial Network)の活用が想定されています。世界では既に衛星を活用した通信サービスも提供されていますが、瞬断が発生したり遅延が変動したりするベストエフォート型であり、自動運転や機械の遠隔制御、安全保障などのミッションクリティカルな領域で使用するためには、まだ安定性に課題がある状況です。今回NECが開発したネットワーク制御技術は、衛星を使用したネットワークで生じるデータ転送遅延や遅延変動を抑制する技術であり、通信の安定性を大きく改善するものだといいます。本技術の詳細について、研究者に話を聞きました。

転送遅延を半減、遅延変動を1/30に抑制

コネクテッドインフラストラクチャ研究所
主幹研究員
有吉 正行

― 光通信衛星コンステレーション構築に向けたネットワーク制御技術とは、どのような技術なのでしょうか?

有吉: Beyond 5G / 6G通信での活用が期待される衛星コンステレーションのネットワークを効率的に運用する技術です。ネットワークにおけるデータ転送遅延と遅延変動を抑えて、安定的な通信を実現します。

コンステレーション(constellation)は「星座」を意味する英語で、衛星コンステレーションとは、複数の衛星を接続し、一体化したネットワークとして機能させるものです。通信の遅延を抑えるために地上からの距離が短い低軌道を周回する衛星を使います。低軌道衛星は1.5~2時間程度で地球を高速周回しており、十数分(※)で地上から見えなくなって接続が切れてしまうため、複数の衛星を時々刻々とつなぎかえながら通信経路をうまく制御していく必要があるのです。

衛星コンステレーションを使った通信サービスは既に存在していますが、遅延を許容するベストエフォート型であるのが現状です。山間部や島しょ部などのネットワークインフラが未整備な場所でも通信を提供できるという大きなメリットはありますが、通信品質の安定性という面ではまだ課題が残されています。そのため、災害時の状況把握や自動運転、遠隔での精密な作業を要する無人検査、安全保障などのミッションクリティカルな領域ではまだ利用できない状況です。

そこで、私たちは衛星コンステレーションの通信品質をより高め、安定的なサービス提供に寄与する2つの技術を開発しました。最適な通信経路を制御して転送遅延を削減する技術と、通信経路の切り換え(ハンドオーバー)を効率化し、遅延変動を抑える技術です。これにより、最大で転送遅延を半減、遅延変動を1/30に抑制できる効果を見込んでいます。

効率的な接続により、ミッションクリティカルな領域での利用が可能に

コネクテッドインフラストラクチャ研究所
リードリサーチエンジニア
長谷川 洋平

― 2つの技術の詳細を教えてください。まず、最適な通信経路を制御してデータ転送遅延を削減する技術とは、どのようなものなのでしょうか?

長谷川:移動し続ける衛星からのデータ転送遅延を簡易に計算できるモデルを作り、最適な経路探索と制御ができるようにした技術です。衛星とその軌道、ネットワークを協調設計することで碁盤目のようなモデルをつくり、軽量な計算で遅延を予測できるようにすることで、最短経路をすばやく導き出します。

現在でも最適な経路探索をする計算は可能ではありますが、衛星コンステレーションでは複数の軌道を動く数十から数百、千機以上の衛星がそれぞれ何時何分どこにあるかということを全て調べ上げ、さらにその全ての組み合わせを計算することで、ようやく最短経路を算出することができます。


有吉:これまでの衛星通信では1週間ほど前に事前予約して計算や準備を待たなくてはならないという問題がありました。しかし、将来的に本技術を使えるようになれば、各衛星の位置が容易に計算可能となるため、瞬時に接続が可能になります。


長谷川:本技術は地上ネットワークで用いられるマンハッタンストリートネットワークから着想を得ました。マンハッタンの街並みのようにネットワークが碁盤目に走り、どこを通っても距離が変わらないというネットワーク構成です。このようなモデルに衛星の周期的な変動特性をいかに上手くフィットできるかが今回のチャレンジでした。

コネクテッドインフラストラクチャ研究所
リサーチャー
荒木 航太

― もう一つの通信のハンドオーバーを効率化する技術とは、どのようなものでしょうか?

荒木:先ほどの話にもあったように、低軌道衛星は常に移動していくため、いつかは接続が切れてしまいます。そのため、地上の端末や基地局は衛星コンステレーションの仕組みを活用しながら、接続する衛星を順次切り換えていきます。この切り換えをハンドオーバーと呼びますが、これが上手くいかないと通信が不安定になってしまいます。低軌道衛星を利用する衛星コンステレーションでは、この点が大きな課題となっていました。


長谷川:補足すると、ハンドオーバーは地上の通信でも使われています。私たちが使っているスマートフォンも、普段何気なく歩いて移動している間に何回もハンドオーバーが行われているのです。ただ、衛星間でのハンドオーバーとなると、北海道上空の衛星から沖縄上空の衛星くらいの距離をハンドオーバーしなくてはならなりません。そのため、通信品質を保つことが非常に難しいのです。

荒木:この問題を防ぐためには一般的に、複数の経路を用いてデータを並列に転送する方法を使います。1つの経路で切り換えが一気に起こるよりも、2つの経路を使うことで、できるだけスムーズにハンドオーバーを行おうという考え方です。衛星が切り換わると、データ転送の遅延時間が変動します。安定した通信品質を確保するためにはデータ転送遅延を短く抑えることだけでなく、この遅延変動を抑えることが非常に重要です。

ただ、2つの経路を利用すると、到着するデータパケットの順番が受信側で入れ替わってしまうことがあります。順番が遅いはずのパケットが先に届いてしまうと、他のパケットを待ってから順番を並び替えなければならず、パケット受信処理においても遅延が発生してしまいます。そこで今回の技術では、先ほどの転送遅延を計算できるモデルを利用してパケットが届くまでの時間を予測し、正しい順番で受信側へ届くようにパケットを送る仕組みを開発しました。これにより遅延変動を抑えられることをシミュレーション評価で確認しています。また、碁盤目状の計算モデルを使いながら接続が切れてしまうような衛星へのパケット送信は徹底して避ける仕組みを加えることで安定性を確保しました。

有吉:これらの技術は、NECがモバイル通信や衛星通信の領域で長年にわたって築き上げてきた基盤技術や事業をさらに進化させるものだと思います。世界的に見ても、コンピューティングやAI技術まで含めて宇宙の通信ネットワークを構築できる企業は珍しいのではないでしょうか。


長谷川:1社の管理責任のもとでネットワークを構築できるというのは、セキュリティ上においても大きなメリットになると思います。

実証環境の整備を推進

― 今後の本技術の展開を教えてください。

長谷川:次のステップは検証環境の構築ですね。現在、事業部門と協力しながら衛星の試作機を打ち上げて試験環境を作るプロジェクトを進行中です。まずは実環境でしっかり動くことを検証で確認していきたいと思っています。

荒木:そうですね。実際に衛星上で動くようにする検証を進めていくと、地上では想像し得なかった問題が生じる可能性もあると思いますので、そうした点まで細かく実証していくということはこれからの挑戦だと思います。


有吉:実は、彼は入社2年目なんです(笑) 入社して最初の仕事でこの技術を開発してくれました。彼のようなフレッシュな力の活躍は、本当に心強いですね。

私たちのチームとしては、2人が言ってくれたような実証を経て、ミッションクリティカルな領域でも使えるような安全性の高いプライベートネットワークを構築していきたいと思っています。ベストエフォート型の衛星ネットワークとは一線を画す、ハイクオリティのネットワークというイメージです。

一方で、将来的には既存のコンステレーションとも連携して大きな統合ネットワークを形成し、安定品質や安全性が求められる通信は私たちのネットワークで担うような応用も技術的には可能になると思いますので、あらゆる想定をしながら宇宙のデジタルインフラとなるネットワークの構築を目指していきたいと考えています。

Beyond 5G / 6G通信での活用が期待されている低軌道衛星を用いた衛星コンステレーションは、山間部や島しょ部でも通信できるというカバレッジには優れているものの、これまで通信速度や安定性において課題を抱えていました。NECではこの課題に取り組み、①衛星の移動による遅延の変動の計算を容易にするモデル ②通信経路の切り換え(ハンドオーバー)を効率化し、遅延変動を抑える技術を開発。転送遅延を最大で半減、遅延変動を1/30に抑制できる効果を試算しています。これにより、災害時の状況把握や自動運転、遠隔での精密な作業を要する無人検査、安全保障などのミッションクリティカルな用途における衛星コンステレーションの活用が期待できるようになりました。

本技術は宇宙科学技術連合講演会やIEEEの国際会議でも発表しています。

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