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被災情報の把握を容易にする大規模言語モデル(LLM)と衛星データ解析の融合技術
NECの最先端技術2025年2月28日

近年、低コストな小型衛星の打ち上げ技術などが広まったことにより、衛星データを活用する解析技術に注目が集まっています。被災状況把握などの領域で大きな期待が寄せられている技術ですが、衛星データの解析には高度な専門知識が必要とされるという課題がありました。今回、NECの日米チームが共同で開発した技術では、衛星データと大規模言語モデル(Large Language Model、以下「LLM」)を組み合わせることで、この課題を克服。高度な専門知識がなくても衛星データから専門家レベルでの分析ができるようになりました。
高度な専門知識がなくても専門家レベルの衛星情報解析が可能に

プロフェッショナル
戸田 真人
― 大規模言語モデル(LLM)と衛星データの融合技術について、概要とメリットを教えてください。
戸田:衛星画像の解析技術とLLMを組み合わせることで衛星画像から得られる情報を言語化し、利用者に分かりやすく提示できる技術です。利用者は質問を入力するだけで、高度な解析情報を得られるようになっています。
Eric:直感的で自然な言語を使えることが大きな特長です。シンプルなユーザーインターフェースにしているので、トレーニングをほとんど、あるいは全く受けていないユーザでも利用することができます。一般的に、このようなデータ分析ツールは複雑で、学習時間が必要になるものですが、私たちのシステムでは利用者は質問を入力するだけでよいので、専門的な知識は不要です。
Murugan:本システムには、大きく分けて5つのメリットがあると考えています。1つ目は、衛星データの高度な解釈を通じて、災害やインフラの変化などの事象を深く理解できる点です。2つ目は、衛星データに加えて地上データ(注1)を融合させることで、さらに正確な状況認識が可能になることが挙げられます。
さらに3つ目として、ユーザーインターフェースを通じてインタラクティブに質問ができるため、ユーザは自分の疑問を解決しながら柔軟に意思決定ができることがあります。
特に強調しておきたいのが4つ目で、テキストや画像から情報を検索できるようになるという点です。これにより、植林・伐採やインフラ建設・解体などの地上の状況変化があっても、より迅速で正確に情報を入手することが可能となります。
最後に5つ目として、さまざまな産業応用への高いポテンシャルがあることが挙げられます。被災状況把握をはじめ、保険金額算定やカーボンクレジットの価値訴求など、さまざまな産業分野に向けてカスタマイズしたソリューションをサポートすることが可能です。
- 注1:現地で撮影した写真などの地上データ

プロフェッショナル
先崎 健太
― この技術を開発した背景を教えてください。
先崎:衛星画像は数十キロメートル平方の範囲を一度に観測できるため、地域全体を網羅して把握することが可能ですが、このような広域を人手で解析するためには膨大な時間とコストがかかります。特に、衛星データの一種である合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)の画像は、その解釈に高度な知識と熟練した技術が必要です。このような解析の複雑さが、衛星画像の幅広い活用を制限してしまう原因になってきたのです。そこで私たちは、衛星画像に不慣れな方でも簡単に情報へアクセスできるよう、LLMと融合した技術を開発しました。
Biplob:近年の気候変動や自然災害の増加、インフラモニタリングの必要性の高まりなどの状況に対応するソリューションを提供するためには、正確でタイムリーな意思決定をサポートする高度で拡張可能な技術が不可欠です。従来の衛星画像は貴重なデータを提供する一方で、必要な情報の深さが欠けていることが多いという課題がありました。
膨大な量の衛星データは、アナリストに過度な負荷をかけてしまうため、解釈するのが困難です。これに対して、NECの技術では様々な分野のニーズに合わせて特別にカスタマイズするほか、検索拡張生成(Retrieval-Augmented Generation、以下「RAG」)によって、これらの問題に対処しています。LLMによって複雑な情報を解釈して関連する知見を抽出し、相互の分析を可能にすることで、これまでの技術で生じていたギャップを埋めているのです。
被災状況把握、保険補償、カーボンクレジットなど多様な用途

Senior Researcher
Eric Cosatto
― 想定するユースケースを教えてください。
Eric:いくつかのシナリオを想定しています。1つ目は被災状況の把握です。地震発生後に現地の状況を迅速に把握したい場合、私たちの技術であれば衛星による地球観測や地上データ、ユーザから提供される映像、SNSの投稿など、複数のデータソースを統合して活用し、高度な解析を提供することができます。
例えば「最も被害が大きい地域はどこですか?」といった質問を入力するだけで、迅速に解析することが可能です。倒壊した家屋の数やその程度、深刻さの程度などを素早く推定することができます。災害後の損害保険の査定にも応用可能です。
2つ目として、カーボンクレジットの取引にも利用可能です。カーボンクレジットとは、温室効果ガス排出の削減量をクレジットとして主に企業間で取引できるようにする仕組みですが、排出量を相殺するための植林や新設した太陽光パネルなどをモニタリングすることで、信頼性を担保できます。植林の内容や面積、設置した太陽光パネルの発電量などを検証することができるようになるのです。
Biplob:3つ目として、保険業界への応用が挙げられます。衛星画像を分析し、自然災害前後の画像を比較することで物的損害を評価することが可能です。損害を迅速に特定できるので、保険会社が不正な請求を正確に発見するのに役立ちます。さらに、詳細な損害評価は、人員配置の最適化しや請求処理を迅速化につながり、効率を向上させることができます。

Senior Researcher
Murugan Sankaradas
― 他社や競合他社で同様の取り組みはありますか?
Eric:もちろん存在しています。おそらく多くの競争相手がLLMを利用することを検討し始めているでしょう。しかし、NECにはいくつかの強みがあります。その1つとして、AIモデルに関する幅広い知見が挙げられます。NECでは衛星の提供から画像解析、顧客へのデータサービスまで、一貫したノウハウの蓄積があります。そのため、私たちはこの分野において、大きなインパクトを与えられる立場となっているのです。
Murugan:私たちの技術は独自の視覚言語モデル(VLM)の能力と、革新的なRAG技術の使用によって、より優れた能力を提供できると考えています。
日本チームと米国チームの緊密な連携

Senior Researcher
Biplob Debnath
― 米国チームと日本チームが1つのチームとして連携し、新技術の開発を成功させるためのポイントは何でしょうか?
戸田:このプロジェクトでは、さまざまな個性を持ったメンバーが在籍していますが、メンバーそれぞれがビジョンや提供したい価値を共有できている点が大きいと思います。
Biplob:私たちのチームはお客様の問題点を深く理解するために、日本チームの専門知識を活用しています。オンラインで頻繁にコミュニケーションを取り、何度も顔を合わせて協力関係を強化し、理解を深めているのです。密接な交流を通じて、私たちはお客様がもつニーズにまつわる貴重な知見を得ることができています。
こうしてお客様の課題を特定してから、それらに対応する技術を開発できることもポイントです。さらに、提供したソリューションをお客様にレビューしていただき、フィードバックを集めることで改良を加えています。この反復のプロセスによって、私たちは継続的に製品を改良し、本当に使い勝手の良いソリューションを創出しようと取り組むことができるのです。
より多くのデータとの統合を目指す

―さらに技術を開発したい分野、あるいは次のステップとして計画していることはありますか?
先崎:より多くのデータソースとの統合を考えています。地上画像データの活用を加速させ、自治体や国、一部の企業が公開しているオープンドキュメントや、整備が進んでいる都市の三次元データの活用することも検討中です。一方で、これらのデータは非常に多様であるため、そこからユーザが求める情報を適切に抽出するためには多くの課題があります。これらの統合を実現することで、技術の可能性を広げたいと考えています。
Eric:次のステップは、お客様との本当の意味でのコラボレーションを実現することです。お客様に対し、私たちの技術で何ができるのか、私たちの製品やサービスでどのように支援できるのかを理解していただくことで、実際の製品やサービスにスケールアップするために協力すること。それが私たちの次の計画です。
Biplob:画像だけでなく、できるだけ多くのデータソースを統合して、お客様がより正確な情報にアクセスし、より迅速で十分な情報に基づいた意思決定を行えるようにしたいですね。例えば、文書や、Webの情報、分野固有の知識を衛星画像と一緒に統合すれば、包括的なデータプラットフォームを構築することができます。これらの統合が実現すれば、あらゆる種類のデータの長所を活用した統一フレームワークが利用可能になるため、お客様はより迅速な意思決定を行うことができるようになるでしょう。

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