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世界唯一の技術をもとにNECからスピンオフ
1/10の省電力化を実現するFPGA「ナノブリッジ」

2021年2月3日

2020年12月にNECからスピンオフしたナノブリッジ・セミコンダクター株式会社は、世界で唯一の原子スイッチ搭載型FPGA「ナノブリッジ」の回路設計・製造受託とIPライセンス販売を行うベンチャー企業です。技術の詳細とこれからの展開について、代表取締役の杉林氏に話を聞きました。

ナノブリッジ・セミコンダクター株式会社
代表取締役
杉林 直彦

電力性能を飛躍的に高められる組み換え可能な半導体チップ

― ナノブリッジとは、どのようなものなのでしょうか?

世界でも他に類を見ないFPGAです。半導体チップの中の金属配線を切り替えられる「原子スイッチ」を搭載することで、高い省電力性能を実現しています。まずは、FPGAが何かというところからお話ししましょう。FPGAとはField Programmable Gate Arrayの略称で、ユーザーが回路を自由に組みかえることのできる半導体チップです。昨今、さまざまな製品分野では顧客ニーズにきめ細かく応えるためにカスタム化が進んでいます。多品種少量生産型で高性能な部品が求められる自動車産業も、その一例です。こうした産業では、納品された後も自社で独自にカスタマイズできるチップの存在が非常に重要となります。
カスタマイズはチップの中のCPU+ソフトウエアでアプローチすることも可能ですが、カスタム演算に対してハードウエア(回路)が最適化されているわけではないので、どうしても消費電力が大きくなってしまいます。
また、微細化の限界が近づいているため、CPU単体での飛躍的な進化は望めない状況です。性能向上をクアッドコア、オクタコアというようにCPUを何個も並列化することで実現しているなかで、消費電力の抑制は大きな課題となっています。消費電力の削減は、近年多くの産業を悩ませている問題なのです。
そのような状況下において、最適化されたハードウエア(回路)によって省電力でカスタム演算を実現するFPGAを活用して、消費電力を抑えようという流れが生まれています。省電力で高性能なFPGAは、IoTやAIなどの技術においても重要な役割を果たすため、注目が集まっているのです。世界的なCPUメーカがFPGAメーカを買収するという事例も相次ぎました。
この流れに対応できるのが、高い省電力性能を誇るFPGAであるナノブリッジです。NECは2003年に固体電解質を使った原子スイッチの実証に成功しましたが、私は当時から研究者に対してFPGAに活用するというアイデアを提案するなどして、事業化に関わりつづけてきました。こうした経緯が、今回のスピンオフにつながっています。原子スイッチや類似の技術を活用したFPGAでの実証に成功しているのは、現在のところ私たちナノブリッジ・セミコンダクターだけだと認識しています。

原子スイッチにより、電力効率約10倍と放射線耐性を実現

― ナノブリッジには、どのくらいの省電力性能があるのでしょうか?

従来のFPGAに比べて、電力効率は約10倍になります。従来のFPGAは、回路を切り替えるスイッチにトランジスタを使っていますが、ナノブリッジでは、金属配線を切り換えられる原子スイッチという技術を使っています。原子スイッチはトランジスタよりも面積が小さく、配線も短くなるので、チップ全体での電力消費量は4分の1にまで抑えることができます。
チップの消費電力を下げるには動作電圧を下げるという選択肢もありますが、相応の電圧が必要となるトランジスタと違って、ナノブリッジ(原子スイッチ)は、金属でできているため、金属で直接配線をつなぐことができます。そのため、動作電圧を下げてもパフォーマンスが落ちることがありません。これにより、総合的な電力効率を10倍にまで高めることができるのです。
また、原子スイッチは不揮発性のスイッチであるため、データを維持するための電力が必要ありません。そのため、IoT機器などの間欠的に動作する機器には最適です。動作しないときには完全に電源を落として消費電力を抑えることができます。
加えて、金属製であることによって放射線に強いという特長も持ち合わせています。従来の半導体では、放射線が当たると一定の確率でデータが変化してしまうことがありましたが、金属製のFPGAであるナノブリッジにはそのようなエラーは発生しません。放射線が高くなるシーンとして想定される宇宙での実証実験は、既に成功しています。JAXAが2019年1月に打ち上げた「革新的衛星技術実証1号機」にナノブリッジを搭載して運用し、1年間問題なく動作することが確認できました。
放射線耐性については、宇宙以外でのニーズもあると考えています。たとえば医療現場や研究施設での粒子加速器でも放射線は発生しますから、活用の機会もあるでしょう。また、あまり知られていないことですが、通常の環境下でも1年に1度くらいエラーを起こす程度の少量の放射線は地表に届いています。幹通信網など、極めて重要なシステムを扱う事業者様では、そうした稀な事象であってもエラーへの影響を気にされますから、こうした場所でも活用できるのではないかと考えています。

不揮発性を活かしてロボット等で実証を開始

― 今後はどのような展開を考えていますか?

現在、すでにNEDOのプロジェクトなどを中心にして複数の実証実験が始まっています。そのうちの一つが、東京大学の稲葉研究室と連携したロボット義足の低電力化です。ロボット義足の低電力化というと、モーターに焦点がいきがちですが、人間はずっと歩きっぱなしではなく、実はほとんど休んでいるんですね。この間欠的な動きと、不揮発性スイッチをもつナノブリッジとの相性が良いんです。休んでいるときは電力を極力抑えつつ、動き出したときには高い性能を発揮するという切り換えを実現して、できるだけ電池が長くもつように取り組んでいます。
これからめざしていきたいと考えているターゲットは、2つあります。まず一つは自動車です。間欠的な動作に対応するナノブリッジは、運転と停止を繰り返す自動車の挙動にもその長所を活かせるのではないかと考えています。また、自動車は多品種を生産する産業ですから、書き換え可能なFPGAの特性を活かせるのではないかと考えています。
もう一つは、5Gへの応用です。5Gでは基地局の数が10倍から50倍に増えるといわれ、ハードウェアへの需要が高まっています。しかし、5Gは現在も標準化が進行中ですし、これからも進化しつづけていくでしょう。そういうなかで、組み換え可能な我々のFPGAが役立てられるはずです。
さらに今後は、国内だけでなく海外進出やライセンスビジネスを視野に入れて積極的にナノブリッジの実用化に取り組んでいきたいと考えています。

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