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がん研究会とNEC、全ゲノム解析による新たな個別化ネオアンチゲンがんワクチンの開発に向けた基礎研究の成果を確認
~新規タイプのネオアンチゲン候補を米国がん免疫療法学会 SITC 2025で発表~2025年11月7日
公益財団法人がん研究会
日本電気株式会社
公益財団法人がん研究会(本部:東京都江東区、理事長:浅野 敏雄、以下 がん研究会)と日本電気株式会社(本社:東京都港区、取締役 代表執行役社長 兼 CEO:森田 隆之、以下 NEC)は、全ゲノムデータ(注1)を用いた新たな個別化ネオアンチゲンがんワクチンの開発に向けた基礎研究において、乳がんおよび軟部肉腫(サルコーマ)を対象とし、NEC独自のAI技術を活用した解析を行った結果、通常のネオアンチゲン(注2)に加えて、ゲノムの配列における機能や役割がまだ解明されていないダークゲノムに由来する多くのがん特異的抗原(クリプティック抗原、注3)を予測することに成功しました。これを用いたワクチンを開発することで、今までは治療が困難だったがん種に対しても新たな治療法の選択肢として提示できる可能性が示唆されました。
両者は本成果を、2025年11月5日(水)~9日(日)に米国・メリーランド州で開催される米国がん免疫療法学会(SITC:Society for Immunotherapy of Cancer)の年次総会において発表します。
なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「がん・難病全ゲノム解析等実行プログラム」における「がん全ゲノム解析等の臨床的有用性の検証、および、患者還元の体制構築に関する研究」の枠組みの中で実施しています。
背景
近年、患者一人ひとりのゲノム情報や遺伝子発現プロファイルに基づき、より効果的で最適な治療を目指す個別化医療が注目を集めています。中でも、患者それぞれのがん細胞に特異的なネオアンチゲンを標的とする個別化がんワクチンを用いた免疫療法は、高い治療効果と副作用低減の可能性から実用化への期待が高まっています。日本でも、厚生労働省による「全ゲノム解析等実行計画2022」(注4)が策定されるなど、全ゲノムの解析データを活用した研究・創薬を促進させる取り組みが加速しています。こうした背景のもと、がん研究会とNECは、2024年から全ゲノムの解析データを活用した新たな個別化ネオアンチゲンがんワクチンの開発を目指し、共同研究に取り組んできました。
今回の基礎研究の概要と成果
ネオアンチゲンが出現する頻度の多寡は、がん種毎に傾向があることが知られています。今回、がん研究会とNECは、ネオアンチゲンの出現頻度が比較的低いと言われる乳がんおよび軟部肉腫の全ゲノムデータを解析しました。本研究では、ダークゲノムを含むすべてのゲノム領域を解析対象としており、ネオアンチゲンの一種でダークゲノムから生み出される新たなタイプのがん特異的抗原「クリプティック抗原」の探索を、NEC独自のAI技術を活用して行いました。
両者による研究の結果、従来知られていたネオアンチゲンに加えて、多くのクリプティック抗原の存在を予測することができました。これを用いたワクチンを開発することで、これまで個別化ネオアンチゲンがんワクチンでの治療が難しいとされてきたがん種に対しても、新たな治療アプローチが拓かれることが期待されます。
本件に関するコメント
このたび、「全ゲノム解析等実行計画2022」(厚生労働省)に基づくAMED研究班において、全ゲノムデータとNEC独自のAI技術を活用し、新たな個別化がんワクチンの開発に向けた基礎研究の成果を発表できることを大変嬉しく思います。本研究により、従来はネオアンチゲンの発現が限定的とされてきたがん種においても、ダークゲノムに由来する多様ながん特異的抗原(クリプティック抗原)の存在する可能性が示されました。今後はこれらの抗原の免疫原性を確認し、個別化がんワクチンの開発を進めることで、次世代のがん免疫療法の実現を目指してまいります。
公益財団法人がん研究会 顧問 野田哲生、研究本部長 大津敦
このたび、AMEDの推進するプロジェクトのもと、がん研究会とともに全ゲノムデータとNEC独自のAI技術を活用したクリプティック抗原に関する研究成果をSITCの年次総会で発表できることを大変嬉しく思います。NECグループは今後も、AIを活用した革新的な医療を世界中の患者に届けるというミッションの実現に取り組んでまいります。
NEC 執行役 Corporate EVP 兼 CTO 西原基夫
発表の詳細
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- アブストラクト番号:162
- アブストラクト番号:
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- タイトル:A Whole-Genome-Informed Pipeline for Neoantigen Discovery in Solid Tumors: Integrating SNV, Splice Variant, and Exon-Transposon Junction Analysis to Enable Personalized Cancer Vaccines
- タイトル:
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- 発表者:Jun Masuda
- 発表者:
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- 著者:Jun Masuda1, Kazuma Kiyotani2, Kazuhide Onoguchi3, Per Brattås4, Hugues Fontenelle4, Angelina Sverchkova4, Sumana Kalyanasundaram4, Pierre Machart5, Yuki Tanaka3, Daiki Miura3, Noboru Nagata3, Koji Yoshino1, Mingyon Mun1, Yasuji Miyakita1, Hiroki Mitani1, Souya Nunobe1, Yu Takahashi1, Hiroyuki Kanao1, Takashi Akiyoshi1, Keisuke Ae1, Kengo Takeuchi1, Junji Yonese1, Masayuki Watanabe1, Seiichi Mori6, Seiya Imoto7, Ippei Fukada1, Shunji Takahashi1, Takayuki Ueno1, Noboru Yamamoto8, Kaïdre Bendjama4, and Shigehisa Kitano1
- 著者:
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- 所属:1) The Cancer Institute Hospital of Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan. 2) National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition, Osaka, Japan. 3) NEC Corporation, Tokyo, Japan. 4) NEC OncoImmunity AS, Oslo, Norway. 5) NEC Laboratories Europe GmbH, Heidelberg, Germany. 6) Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan. 7) The Institute of Medical Science, the University of Tokyo, Tokyo, Japan. 8) National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan.
- 所属:
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- 発表日:2025年11月8日
- 発表日:
以上
- (注1)ゲノム解析には1.コード領域と呼ばれる一部のゲノム領域のみを対象にした解析手法と、2.コード領域・非コード領域の両方を対象とした解析手法がある。今回の研究ではがん患者から提供を受けた検体について、2.に該当する全ゲノムデータ解析を実施している。
- (注2)がん細胞の遺伝子変異によって新たに生じる「がん特異的な抗原(目印)」を指す。正常な細胞には存在せずがん細胞にのみ現れるため、免疫系が異物として認識し攻撃対象とすることができる。
- (注3)ネオアンチゲンの一種であり、ゲノムの中でもタンパク質をコードしない領域(非コード領域)を由来とするがん抗原。
- (注4)主に医療分野におけるゲノム解析の推進を目的とし、国家戦略として策定された計画。がんや難病・希少疾患などに対する新規診断や治療法の開発に加え、個別化医療の実現を推進することを目的としている。
がん研究会について
がん研究会は1908年に日本初のがん専門機関として発足して以来、100年以上にわたり日本のがん研究・がん医療において主導的な役割を果たしてきました。基礎的ながん研究を推進する「がん研究所」や、新薬開発やがんゲノム医療研究を推進する「がん化学療法センター」「がんプレシジョン医療研究センター」、さらに新しい医療の創造をする「がん研有明病院」を擁し、一体となってがんの克服を目指しています。
ウェブサイト:
https://www.jfcr.or.jp/
NECについて
NECは、125年の歴史を持つ、ITサービス事業・社会インフラ事業をグローバルに展開する企業です。AI・生体認証・セキュリティ・ネットワークなどの技術を強みとし、革新的なソリューションの提供や新事業開発への積極的な取り組みを行っています。業種横断の先進的な知見と最先端技術を結集し体系化した価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」を中核に、社会や企業のDXを推進。誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指しています。
本件に関するお客様からのお問い合わせ先
NEC AI創薬統括部
E-Mail:contact@aidd.jp.nec.com
NECは、安全・安心・公平・効率という
社会価値を創造し、
誰もが人間性を十分に発揮できる
持続可能な社会の実現を目指します。
https://jpn.nec.com/profile/purpose/