Japan
サイト内の現在位置
Transgene社とNEC、個別化がんワクチンTG4050ががん腫瘍に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導することを示す新しいデータを報告
2023年4月18日
Transgene SA
日本電気株式会社
- TG4050は、Transgene社とNECが共同で開発した個別化ネオアンチゲンがんワクチンで、現在は卵巣がんと頭頸部がんの第I相臨床試験を行っています。今回両社が発表した最新の臨床試験データでは、TG4050の有望な免疫原性と有効性プロファイルが確認されました。
- 特に頭頸部がんの臨床試験では、TG4050で治療されたすべての患者さんについて、投与前は好ましくない全身の免疫状態と腫瘍微小環境を有していたにも関わらず、治療後から本年3月時点まで無再発状態を維持しました。
- Transgene社とNECは、頭頸部がんでの承認に向けて適切な道筋を検討しており、2023年後半に第Ⅱ相臨床試験を開始する予定です。
がん治療向けウイルスベース免疫治療のデザインおよび開発を手掛けるバイオテクノロジー企業であるTransgene SA(トランスジーン、注1、以下 Transgene社)と日本電気株式会社(以下 NEC)は、米国・フロリダ州オーランドで開催された米国癌学会(AACR: American Association for Cancer Research)の年次総会で、個別化ネオアンチゲンがんワクチンであるTG4050(注2)の新しいデータを本日発表しました。TG4050は、Transgene社のmyvac®プラットフォーム(注3)に、NECの最先端AI技術(注4)を活用したワクチンです。
今回の良い成績は、TG4050を評価している2件の第I相臨床試験に登録されたHPV陰性頭頸部がんと卵巣がんの患者さんのデータです。
TG4050の患者さんの標的抗原に対する強力な免疫応答を誘発する能力が確認され、これにより寛解期間が延長されることが期待されています。
両社のコメント
今回の結果は、TG4050が手術を受けたがん患者さんの寛解期間を延長する可能性を秘めていることを示唆しており、注意深い経過観察以外に現在利用できる治療の選択肢がない患者さんたちに新たな希望を与えるものです。私たちは、新しい個別化免疫療法の利点をサポートするために、強力で説得力のある臨床データセットの構築を続けています。またNECと協力し、10億ドル以上の市場規模となる可能性があるTG4050の頭頸部がん治療薬としての承認に向けた活動の一環として、早ければ2023年後半開始を目指し第Ⅱ相臨床試験の準備を進めています。なおTG4050は、他の固形腫瘍に対しても、再発防止の適応を取得できる可能性があります。
Transgene SA, CEO, Hedi Ben Brahim
患者さんの有効なプロファイルとともに、有望な臨床効果と免疫応答データを確認できたことは非常に喜ばしいことです。これは、TG4050の製品開発において大きなモメンタムとなります。私たちはTransgene社と密接に協力し、TG4050を次の開発段階へ進め、患者さんに提供できるようにしたいと考えています。TG4050の開発により、私たちの個別化免疫療法による治療が世界中の患者さんの健康に役立つと確信しています。
NEC Corporate SVP 兼 ヘルスケア・ライフサイエンス事業部門長 北瀬聖光
本発表の詳細
今回の新しい免疫データにより、免疫状態の悪い患者さんの免疫系を効果的に活性化するTG4050の効果が確認されました。
AACR2023で発表した新しい一連の包括的な免疫学的データは、通常治療に対して限定的な反応を示す患者さん、具体的には免疫チェックポイント阻害剤に対する治療抵抗性と関連するとされる全身の免疫状態と、腫瘍微小環境に困難な背景を有する患者さんにTG4050による治療を行ったところ、評価可能なすべての患者さんの複数のがんネオアンチゲンに対して特定の免疫応答を生じ、無再発状態を維持したことを示しています。
これはTG4050が、通常免疫細胞が枯渇した状態(免疫砂漠の状態)として特徴づけられるか機能しない免疫細胞を有する腫瘍微小環境、あるいはPD-L1(注5)の発現量が低いか陰性である患者さんの免疫システムを増強できることを示唆しています。
さらに今回のデータは、評価可能なすべての患者さんが複数の標的ネオアンチゲンに対して強力なT細胞反応を示したことを裏付けています(約30の標的を対象とし、患者さん1人あたり9つ(中央値)の標的で陽性反応を示しました)。T細胞反応は、de novo応答(注6)と既存の応答の両方を増幅し、クラスIとクラスIIのエピトープで観察されました。
TG4050ワクチンは忍容性が高く、抗腫瘍効果の予備的な兆候が認められました。
2023年3月現在、Transgene社とNECによる頭頸部がんの臨床試験には32名の患者さんが無作為化(注7)され登録されています。今回、TG4050を投与された16名の患者さん全員が無再発状態を維持し(追跡期間の中央値は9.2か月)、これは同様の特徴を持つ2名の患者さんが再発した対照群に比べて良好な成績と言えます。これらの患者さんは、現在進行中の臨床試験で経過観察が行われています。
Transgene社では、今後数週間のうちに最後の患者さんの治療が行われる予定です。第Ⅰ相臨床試験の最終結果は、2024年中盤に出る予定です。
なお現在までのところ、本ワクチンの忍容性は良好で、TG4050と関連する重篤な有害事象は報告されていません。
2023年後半に第II相臨床試験が開始される可能性があります。
Transgene社とNECは、2023年後半に頭頸部がんの次の段階の臨床試験(第Ⅱ相臨床試験)を開始するために準備を進めています。
なお、今回の年次総会で発表した内容の要旨とポスターはAACRとTransgene社のウェブサイトからアクセスすることができます。
AACR:https://www.aacr.org/meeting/aacr-annual-meeting-2023/
Transgene社:https://www.transgene.fr/wp-content/uploads/Transgene_AACR2023_Immunogenicity_Activity_TG4050_poster.pdf
また、Christian Ottensmeier医師(リバプール大学・ラホヤ免疫学研究所)は、本年4月19日(12:00 pm ET; 6:00 pm CET)に開催されるLifeSci Eventsにおいて、頭頸部がんに苦しむ患者さんのアンメット・メディカル・ニーズ(注8)と現在の治療状況についてオンラインセミナーで説明します。本セミナーへの登録や録画の視聴は以下を参照ください。
Transgene: TG4050: Individualized Cancer Vaccine in HPV-Negative Head & Neck Cancers:https://lifescievents.com/event/transgene-event/
以上
- 臨床試験について
TG4050は、HPV陰性頭頸部がん(NCT04183166)および卵巣がん(NCT03839524)の患者さんを対象とした2つの第I相臨床試験にて評価されています。
1件目の第I相臨床試験では、HPV陰性頭頸部がんの患者さんにTG4050を投与しています。手術を終え、補助療法を受けている間に各患者さんにあわせた治療法が設計されます。半数の患者さんには補助療法終了後すぐにワクチンを投与します。残り半分の患者さんには標準治療(SoC)の追加治療として、再発後にTG4050を投与します。この無作為割付臨床試験は再発リスクの高い患者さんに対するTG4050の治療効果を評価するものです。フランス、イギリス、そしてアメリカで最大で30名の患者さんにTG4050が投与される予定です。本臨床試験の治験責任医師はクラッターブリッジがんセンターの腫瘍内科顧問であり、リバプール大学の免疫腫瘍学の教授であるChristian Ottensmeier医学博士です。フランスでは、パリのキュリー研究所薬剤開発イノベーション部門長Christophe Le Tourneau医学博士、およびトゥールーズのIUCTオンコポールのJean-Pierrre Delord教授によって臨床試験が行われています。アメリカでは、メイヨークリニックのYujie Zhao医学博士が主導しています。この臨床試験の評価項目は安全性と実行可能性、および治療ワクチンの生物活性になります。
これと並行して、TG4050の第I相臨床試験が卵巣がん患者さんを対象に行われています。この臨床試験では、手術および一次化学療法後に無兆候性の再発をきたした患者さんを対象としています。この臨床試験はメイヨークリニック(米国)の腫瘍内科顧問、免疫科顧問、そして腫瘍学の准教授であるMatthew Block博士が治験責任医師を務め、フランスではキュリー研究所のLe Tourneau教授および、IUCT-オンコポールの外科部副部長Alexandra Martinez博士によって臨床試験が進められています。臨床評価項目は安全性、実行可能性、そして治療ワクチンの生物活性になります。
- (注1)本社:フランス・ストラスブール、CEO:Hedi Ben Brahim
Transgene社について:http://www.transgene.fr/ - (注2)TG4050:TG4050はTransgene社のmyvac®テクノロジーとNECのAIをベースとする個別化免疫療法です。このウイルスベースの治療用ワクチンは、NECのネオアンチゲン予測システムによって特定・選択されたネオアンチゲン(患者さん毎に異なる変異)をコードします。予測システムは20年以上にわたって培われたAIの専門知識に基づいており、正確に最も抗原性の高い配列の選択と優先順位付けを可能にする独自のデータによって訓練されています。TG4050は患者さん固有のネオアンチゲンに基づき、腫瘍細胞を認識し破壊することができるT細胞反応を引き起こすことを目的として、患者さんの免疫システムを刺激するよう設計されています。 この個別化免疫療法は患者さん毎に開発、製造されるものです。
- (注3)myvac®:myvac®は、Transgene社が固形がんをターゲットに開発したウイルスベクター(MVA-Modified Vaccine Akara)ベースの個別化免疫療法プラットフォームです。myvac®由来の製品は、患者さん自身の免疫システムを刺激し、患者さん自身のがん特有の遺伝子変異を用いて腫瘍を認識・破壊するようにデザインされています。Transgene社は、バイオエンジニアリング、デジタル・トランスフォーメーション、確立されたベクター化のノウハウ、独自の製造能力を組み合わせた革新的なネットワークを構築しています。Transgene社はmyvac®の開発のためにBpifranceより「Investment for the Future」基金を獲得しています。myvac®の最初のプロダクトであるTG4050は、現在臨床試験で評価中です。
- (注4)NECのネオアンチゲン予測システム:ネオアンチゲン予測にはNECが開発したグラフベース関係性学習を利用し、標的ネオアンチゲンを予測するために、複数の生物学的データを学習させています。頑健なT細胞応答を惹起する可能性を計算するため、NEC独自のHLA結合能および抗原提示能AIツールを含む機械学習アルゴリズムを用いて、標的ネオアンチゲンは慎重に求められます。これにNEC OncoImmunityが加わり、今後もNECは世界トップクラスのネオアンチゲン予測パイプラインの強化に務め、世界中の患者さんのために個別化がん免疫療法の治療効果を最大限に引き出すことを目指します。詳細はこちらをご覧ください。
NEC:https://jpn.nec.com
NEC OncoImmunity:https://www.oncoimmunity.com/ - (注5)PD-L1:PD-L1(Programmed cell Death ligand 1)はがん細胞やがんに浸潤している免疫細胞の表面に発現しているタンパク質で、免疫細胞の1つであるT細胞の表面にあるPD-1(Programmed cell Death 1)と呼ばれるタンパク質に結合し、免疫細胞の働きにブレーキをかける役割を果たします。PD-L1の発現の割合によって免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が異なることが知られています。
- (注6)de novo応答:de novoとはラテン語で「新たに」「初めて」を意味する言葉です。本文章では、今回初めて投与されたワクチンTG4050により、標的としたネオアンチゲンに対するT細胞の反応が増幅したことを、de novo応答として説明しています。
- (注7)無作為化(ランダム化):被験者を目的治療群(治験薬を投与して効果を調べる群)と対照群(対照薬などを投与する群)のどちらに割り振るかをランダムに決定する手法のことです。無作為化により、被験者を恣意的に特定の治療群に割り振るといったバイアスを無くし、公平に評価できます。
- (注8)アンメット・メディカル・ニーズ:いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズのことです。
NECの創薬事業について
本件に関するお客様からのお問い合わせ先
NEC AI創薬統括部
E-Mail:contact@aidd.jp.nec.com
NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、
誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します。
https://jpn.nec.com/brand/