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AIエージェント時代の行政サービスに係る考察(その1)
~ KYA(Know Your Agent) ~
デジタル・ガバメントコラム
2026年10月15日公開
INDEX
1. はじめに
2026年(令和8年)7月21日、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。この3ページの「住民・国民への行政サービス提供ロードマップ」に、行政サービスの将来像が示されています。

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https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/e57711d5/20260721_policies_priority_outline_01.pdfを加工して作成(赤枠は筆者追記)
赤枠で囲った箇所には、住民側と自治体側の両者に「AIエージェント」という要素が登場しています。AIエージェントとは、従来の生成AIと比べて、目標達成に向けた一連のタスクを自律的に遂行できるAIです。従来の生成AIはユーザーの質問や指示に基づいて回答やコンテンツを生成しますが、AIエージェントは自ら必要な情報を検索し、計画を立案しながら複数のタスクを実行することができます。図中の「AIエージェント(政策/事務/教育/技術)」は、行政側で各分野の専門業務を支援・実行する存在を指します。一方、「AIエージェント(個人)」は、住民本人の依頼や意向に基づき、情報収集や申請などの行政手続きを代行する存在です。両者が連携することで、住民からの相談や申請を行政内部の処理やサービス提供へ円滑につなげ、手続き全体の効率化・迅速化が期待されます。将来的には、住民・行政機関がそれぞれAIエージェントに自らの事務の委任を行い、AIエージェント同士が自律的にやり取りを行う時代になる可能性を示唆した内容です。
今回のコラムでは、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の図が示唆している「AIエージェント時代の行政サービス」をテーマに、どのような観点が必要か、またどのようなユースケースが想定できるのかを考察していきたいと思います。
2. 本人確認とKYA(Know Your Agent)
いわゆる「本人確認」の手法は、対面(リアル)から非対面(オンライン)へと進展してきました。対面の場合は、窓口で住民がマイナンバーカードや運転免許証、旅券等の身分証を提示し、職員が住民の顔と身分証の顔写真を目視で照合する手法が主流でした。
一方、インターネット等を利用したオンライン手続きでは、行政機関の場合、主にマイナンバーカードの電子証明書を利用した2要素認証(所有物認証と記憶認証)により、インターネットの先にいる住民が本人であることを確認しています。
これらは、いずれも行政機関が手続きを行う住民本人を確認する仕組みです。しかし、将来的に住民がAIエージェントに行政手続き等を委任するようになると、行政機関がやり取りする相手は、住民本人ではなく、その代理として住民から委任を受けたAIエージェントとなる可能性があります。そのため、従来の本人確認に加えて、そのAIエージェントが信頼できるのか、誰の代理として、どのような権限に基づいて行動しているのかを確認する必要が生じます。
AIエージェントの身元や権限等を確認する考え方は、一般にKYA(Know Your Agent)と呼ばれています。分かりやすく言えば、AIエージェントに対する「本人確認」と「代理権限の確認」を組み合わせた仕組みととらえることができます。
例えば、住民がAIエージェントに「転居に伴う行政手続きを代行してほしい」と依頼した場合、行政機関は、単にアクセス元が正規のAIエージェントであることを確認するだけでは十分ではありません。そのAIエージェントが、どの住民から依頼を受けたのか、どの手続きまで任されているのか、委任が現在も有効なのか、といった点を確認する必要があります。つまり、KYAは、住民本人の身元を確認する従来の本人確認を置き換えるものではなく、本人確認を前提として、その代理として動くAIエージェントの正当性と権限の範囲を確認するための考え方です。
このKYAについて、どのような要素を確認する必要があるかを整理します。
| 要素 | 確認する内容(例) |
|---|---|
| 認証 | AIエージェント自体が信用できるものか? |
| 同意 | AIエージェントは本人の同意に基づいた手続きを行っているのか? |
| 委任 | 住民がAIエージェントに何を(どのような事務を)委任しているのか? |
| 監査 | AIエージェントとのやり取りはどのようなログ(監査証跡)を残せばいいのか? |
「誰が」「どのようなAIエージェントを使って」「何を委任しているのか?」といった点を明らかにし、これらに係るログを確証として残していく必要があると想定されます。
3. VC(Verifiable Credential)を活用したKYAの実現例
前章で整理したように、KYAを実現するためには、AIエージェントの身元だけでなく、「誰から、どのような権限を委任されているのか」といった点を行政機関が確認できる仕組みが必要です。さらに、その確認に用いる情報には、発行元が明確であること、第三者による改ざんを検知できること、必要に応じて機械的に検証できることが求められます。
こうした要件を満たす技術の一つとして考えられるのが、VC(Verifiable Credential)およびDID(Decentralized Identifier,分散型ID)です。冒頭で紹介した図でも、AIエージェントを支える要素として、「各種VC」が示されています。VCとは、「Verifiable Credential」の略で、直訳すると「検証可能な認証情報」であり、発行者がデジタル署名を付して発行することで、情報の発行元や真正性を確認し、改ざんの有無を検証できるデジタル証明書の仕組みです。日本における活用例としては、デジタル庁の「新型コロナワクチン接種証明書アプリ(※2)」があります。
行政サービスにおいても、「誰が、何を、どのような権限範囲で」といった情報をVCとして発行・検証する仕組みを取り入れることでKYAを実現できると考えます。行政機関側で住民のAIエージェント登録からVC発行、アクセス要求、KYA検証、そして行政サービス提供に至る一連のフローが実装されれば、住民のAIエージェントが行政サービス利用における「住民本人の正当な代理」であることを暗号学的に証明することが可能となると考えられます。
こうしたVCを活用したKYAの仕組みは、現時点では将来の行政サービスを想定した一つの構想ですが、実現に向けた取組は既に金融分野で始まっています。例えば、みずほフィナンシャルグループ とNECは、新たなAIエージェント認証基盤「KYA」の構築に向けた共同実証実験を開始しています(※3)。 実証実験の結果は、行政サービスにおけるAIエージェント活用のあり方を検討する上でも、重要な示唆となることが期待されます。
- ※2
- ※3NECプレスリリース(2026年5月28日)
「みずほFGとNEC、AIエージェント時代の新たなAIエージェント認証基盤「KYA」構築に向けた共同実証実験を開始 ~AIエージェントの認証基盤確立により自律的な金融サービスの利用を促進し、日本の金融機関のグローバルな躍進をけん引~」
https://jpn.nec.com/press/202605/20260528_02.html
4. 行政サービスへの活用に関する考察
~マイナンバーカード(JPKI)とDID/VCの併用
前章では、VCを活用して、AIエージェントの身元や委任された権限を検証するKYAの仕組みを説明しました。では、KYAの仕組みを行政サービスに適用する場合、現在の本人確認基盤とどのように組み合わせることが考えられるでしょうか。
行政サービスでは、既にマイナンバーカードのJPKI(公的個人認証サービス)が、オンラインで住民本人を確認する基盤として利用されています。そのため、AIエージェントの利用に当たっても、JPKIをVCに置き換えるのではなく、JPKIによる住民本人の確認と、VCによるAIエージェントの身元・委任権限の確認を組み合わせることが、一つの実現方法として考えられます。
こうした考え方に基づき、住民がAIエージェントに行政手続きを委任する場合のKYAの適用イメージを整理したものが、以下の図です。これは現時点で想定される一例ですが、既存のマイナンバーカードやマイナポータルの仕組みに、AIエージェントの認証・権限確認機能を付加する構成が考えられます。住民が委任した内容を委任VCとして発行・提示し、行政側で検証することで、住民が意図した範囲を超えた手続きを行ってしまうことを防ぎます。

上図の適用イメージを具体化するため、まず、住民本人の確認を担うJPKIと、AIエージェントの身元や権限の確認に活用し得るDID/VCについて、それぞれの特徴を比較します。

JPKIとDID/VCの比較から、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が提供する公的な本人確認基盤であるJPKIと、官民の多様な主体が発行・検証の仕組みを構築し得るDID/VCは、運営主体や仕組みの成り立ちには違いがあるものの、いずれか一方に置き換えるのではなく、それぞれの特徴を生かして組み合わせることが有効だと考えられます。
その具体例として、マイナンバーカードのJPKIを用いて住民本人を確認した上で、行政機関等が発行する必要な情報をDID/VCのウォレットに取り込み、官民のサービスで利用できるようにする「橋渡し」の仕組みが考えられます。特にマイナポータルAPIで民間企業に提供できない情報に活用できるのではないでしょうか。
さらに、こうした「橋渡し」の仕組みにAIエージェントを組み合わせることで、住民が本人同意と適切な権限管理の下で、情報の取得から提出までの一連の手続きをAIエージェントに委任することも想定されます。
例えば、
- 就職や不動産取引などで住民票に記載された情報の提示が必要な場合、AIエージェントが必要な情報をVCとして取得し、民間企業に提示する
- 大学等の在籍証明・卒業証明・資格証明に必要な情報をVCとして取得し、交通機関での学割適用や、就職手続きでの卒業証明の際に提示する
といったユースケースが考えられます。
同様の仕組みは、行政と民間のサービスをまたぐ様々な手続きにおいて活用できる可能性があります。AIエージェントへの委任により、官民のサービスを自動的に連携する世界感が、将来的にはやってくるのかもしれません。
執筆者紹介
小松 正人 (こまつ まさみ)
NEC官公インフラDX事業部門 常務理事
国際社会経済研究所(IISE) 研究主幹
NECにて国内の中央官庁・地方公共団体市場における営業、事業推進業務に携わる。2026年4月からNEC官公インフラDX事業部門 常務理事に就任。NECグループで、国内行政DXにおけるソートリーダーを務める。

- ※本コラムは、政府が公表している資料等に基づき、現時点での検討状況を整理したものです。実際の制度運用やシステム構成については、今後の政策決定や各団体の業務特性・環境により異なる場合があります。
https://www.digital.go.jp/policies/vaccinecert