コワーキングスペース「BASE」
今までにない文化を生む “象徴の場” をデザインする
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世の中の変化がスピードを増し、私たちを取り巻く環境も刻々と変化しています。企業が競争力を発揮する集団であり続けるには、社員一人ひとりがより柔軟に、自分らしく働き、能力を最大限に発揮できる環境が必要です。オフィス空間は、そうした力を引き出してくれるツールのひとつといえるでしょう。
2019年5月、NECは本社ビル3階に、NECグループ社員の能力を最大限に発揮し、新たな価値創造を継続的に推進するためのコワーキングスペース「BASE」をオープンしました。
座席数は200以上。ゆったりとしたソファが置かれ、打ち合わせやリフレッシュができるスペース、長机やカウンター席、ホワイトボードなどが常設されたオープンワークスペース、ワークショップや上映会、軽く体を動かすプログラムなど幅広いニーズに対応した多目的スペース、知的・美的好奇心を刺激するライブラリー、一人集中席や会議室などから構成され、NECグループ全社員が利用しています。
「BASE」は、単なるコワーキングスペースではありません。NECの経営や仕事のやり方を根本から変える社内変革プロジェクト「Project RISE」のスマートワークの一環として設けられたもので、社員が心身のコンディションを整えながら自律的に仕事のしかたをデザインする場、組織間のコラボレーションを促し、より創造的な仕事ができる場を目指しています。
NECのデザイナーは、「BASE」のコンセプト策定やレイアウト検討をはじめ、什器や備品の選定、サイン(標識)デザイン、ライブラリーの選書、植栽の選定など多岐にわたり関わっており、オープン後の改善活動のほか、現在進められている他拠点展開も実施しています。
「NECでありながら、NECらしくない、新たなNECを象徴する場」を生み出すため、細部までこだわった質の高い空間作りを目指したという本プロジェクト。担当デザイナー3人に、デザインのプロセスやこだわり、苦労を聞きました。
左:
コーポレートデザイン本部
寺永有希
中央:
コーポレートデザイン本部
アートディレクター
友岡由輝
右:
コーポレートデザイン本部
エキスパート
吉村義崇
左から、コーポレートデザイン本部 寺永有希、アートディレクター 友岡由輝、エキスパート 吉村義崇
新しい働き方、新たな文化を生み出すための象徴の場
これまでNEC本社のオフィス設計に、NECのデザイナーが関わることはありませんでした。今回なぜ深く関わることになったのか。きっかけは、BASEプロジェクト直前に実施された「次世代オフィスデザイン」にあるといいます。
吉村:
2018年、我々のオフィスがあった本社ビル5階をリニューアルする計画が立ち上がり、デザイナーが担当することになりました。自分たちでデザインしてもいいということだったので、これまで抱えていた「こういう場で働きたい」「こうしたら仕事がしやすくなる」といった思いをカタチにしました。できあがった新オフィスを見たカルチャー変革本部の担当者が、「今度は3階でコワーキングスペースを作るので、一緒にやりましょう!」と声をかけてくれたことがきっかけです。
友岡:
カルチャー変革本部が目指していた“カルチャーの変革”というのは、今までの仕事のやり方の延長ではなく、社員一人ひとりが自分たちの能力を発揮するため、自分たちで積極的に働き方を選ぶ文化を根付かせようというもの。そのための「新たなNECを象徴する場」をBASEで作りたいという思いを強くお持ちでした。我々もその思いに賛同しました。ただ、一度作って終わりではなく、その後の改善活動も含め長期的に関わりたかった。その点も快諾いただけたので「ぜひやりましょう」となったのです。
世にあるものから必要なものを徹底的に選び抜く
吉村:
まずは、カルチャー変革本部を中心としたプロジェクトの関係者に、自身が目指すオフィス空間のイメージに近い写真を持ち寄ってもらい、目指す世界観の意識統一を図りました。その後、自分たちで図面を引き、什器や備品、植栽の選定、ライブラリーの選書もしていきました。
一般的にオフィスの設計は什器メーカーさんが行うため、その什器メーカーさんの什器が置かれ、どうしても什器メーカーさんのショールームのような場ができあがってしまいがちでした。そのため私たちは自身ではじめから設計を行い、目指すBASEの世界観を実現することにしました。
友岡:
選定に際しては、BASEに置いたときに、本当にその世界観と合うのかどうかに徹底的にこだわりました。今回は「NECらしくない、新たなNECを象徴する場」を目指していましたから、グループ社員がBASEに行ったときに、今までのオフィスとは全く違う、心身共にリラックスできる場になっていると感じてほしかった。そういう空間にしたいという思いで、机や椅子をはじめ、照明器具や植栽、ゴミ箱に至るまで、世にあるものを徹底的に調べながら選んでいきました。
吉村:
私が空間の図面を検討し、友岡は什器や備品の選定を行い、どんな場所にするのか、どんなファブリックを選んだらいいのかなどの検討を進め、設計/施行を担当するNECグループ会社や什器メーカーのサポートをいただきながら、BASEをデザインしていきました。連日夜遅くまで作業したり、通勤中の電車内でもスマートフォンで備品を調べたりするなど、地道な作業や苦労が続きましたが、最終的には皆が思い描いた空間を作り上げることができたと自負しています。
友岡:
オープン初日には、人が来なくてガラガラだったどうしようと心配もあったのですが、フタを開けてみると大盛況で一安心しました。
吉村:
これまでにない場所にみなさん困惑するかなと思っていたのですが、社員の皆さんが自然に「BASE」を活用しているのを見て、「あ、ハマッたね」と(笑)。メンバー皆で喜んだのをおぼえています。
既存のルールや習慣を超え実現した“NECらしくない”空間
BASEプロジェクトでは、既存のルールや習慣を超えたオフィス空間作りが行われました。「これまでなかった新たなものを生み出す試みは、多くの課題が伴い、多大なエネルギーを要した」と、吉村と友岡はプロジェクトを振り返ります。
吉村:
一番難しかったのは「天井をスケルトンにする」試みです。オフィス空間の印象を変えたいなら、やはり従来の低い天井を抜いてスケルトンにする必要がありました。そうしないと、いくら什器や備品にこだわっても印象は変わりません。
友岡:
BASEプロジェクトの前に実施した5階の次世代オフィスデザインでも天井をスケルトンにしたいという思いはありました。ただそのときはいろいろな事情が重なり実現しなかった。
吉村:
それもあって、BASEでは何としてもスケルトン天井を実現したいと考えたのです。ただ、前例のない試みだったのでやはり合意を得るのは難しかった。法的問題やコスト面の問題をはじめ、さまざまな問題が出てくる可能性がありました。そこで全ての天井を抜くのではなく、天井を抜く範囲を慎重に選び、かつ多くの関係者にその必要性をカルチャー変革本部メンバーと共に説明し、何とか合意まで漕ぎつけることができました。
実際にスケルトン天井が実現したことで、これまでのNECのオフィスから、大きく雰囲気が変わったものができたと思います。今回の件で、数字で測れない体感的なことの重要性を皆さんも強く実感されたのではないでしょうか。こうしたことが、本社「BASE」オープン後の他拠点展開にもつながったと考えています。
若手がのびのびとチャレンジできる現場としても
NEC本社の開設を皮切りに、玉川事業場、府中事業場へとBASEの拠点が広がっています。そのサインデザインを担当している寺永は入社3年目の若手です。
吉村:
事業や製品のデザインを担当する際には、時間やコストなどさまざまな制約があり、全てデザイナーの思うように行くことは希です。ですがBASEの他拠点展開では、本社での実績による信用もあり、いろいろなチャレンジしやすい環境が整ったため、若手にはどんどんチャレンジしてもらうことにしました。その経験が事業や製品のデザインにつながればと思ったのです。
寺永:
今回はサインそのものをデザインするだけでなく、デザインしたものをどこにどう置いたらいいのかを検討する作業にも関わっています。設置する場所の実寸を測り、その長さに合わせて壁や床にマスキングテープを貼って仮想の設置場所を作る。そこに自分がデザインしたものを置いて、どう見えるかをチェックしていく。こうしたデザインの検討プロセスを体験できたことが一番勉強になっています。
あとこうしたサインをデザインするのも初めてで。例えばトイレのサインひとつとっても、什器の選定と同じように、商業施設や駅などいろいろな場所にあるサインを見て回りながら勉強しています(笑)。
いろいろ苦労はありましたが、実際にいろいろな拠点に自分がデザインしたサインが置かれているのを見ると、やはり大きな達成感がありますね。
「楽しむ」ことがポジティブな現場を生む
最後に、今回のプロジェクトで感じたことや今後の展開を聞きました。
寺永:
このプロジェクトで楽しいのは、ひとつの作業からいろいろと知識が広がることだと思います。什器や備品を選定することに関しても、例えばコロナ対策のパーティションひとつとっても、そもそもどのような目的で使われていて、どんなシーンで使うと有効なのかまで考えることになる。私たち若手にとっては、そうした知識の広がりも大きな糧になっています。
吉村:
BASEプロジェクトがきちんと形になった背景には、「NECを本気で変えるんだ」という関係者の強い思いがありました。また各々がプロ意識を持ち、自分の領域の仕事をきちんとしていったことで、しっかりと機能し、プロジェクトの成功につながったのだと思います。
メンバーに恵まれたこともあって、私自身も「楽しく」仕事をすることができたことに感謝します。
BASEの今後の展望については、このコロナ禍の中で、社員皆さんの働き方は変わってくると思います。ですので、私たちも一度立ち止まり見つめ直し、どういった働き方に変わっていくべきなのかを考えなければいけません。その結果、新たな場を創造できればと思います。