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自然素材の木材と最新の防災ICTの融合

みんなのまちの「みちびき」センター試作へ至る共創活動
「みちびき」センター展示写真

環境と人にやさしい循環型の資源である木の活用が広がれば、森林保全と同時に人の生活も豊かになる。大正時代に木場で創業し、運河に浮かぶ丸太を引き上げていた頃よりおよそ100年間、木材問屋から始まり、加工、施工まで幅広い木材事業を手掛ける、株式会社 長谷川萬治商店(以下長谷萬)が、木を活用した新しい事業に取り組んでいます。
そのひとつが、「木育(もくいく)」。長谷萬では、木育を「木によって育てられ生活の質が向上すること」と考え、その実現に向けて様々な木育活動を進めています。暮らしの様々なシーンで 木が使われるような商品やサービスの紹介や、無垢の木のぬくもりを多くの方に体験していただく木工体験などのイベントを開催しています。 そして、もうひとつのとりくみが、今回NECと共創する事になった「ウッドトランスフォームシステム」 です。
ウッドトランスフォームシステムとは、日常生活で人々の役に立つものとして利用されながらも、災害発生時にはトランスフォームし、被災者の避難所生活や復旧活動を支援する木造のシステム製品というコンセプト。2016年に日本木材青壮年団体連合会で実施された「ウッドトランスフォームプロジェクト」から始まり、そこで製作された応急仮設小屋が、熊本地震の避難所に提供され、避難所生活を送っている皆様に大変喜ばれました。この経験により、多くの変形アイディアが、より多くの被災者を助けることができるのではないかと企画されたのが、全国からアイディアを募集するウッドトランスフォームシステムコンペティションです。そして、この取組みに賛同したNECは、木の家具の中に最新の衛星通信技術製品を保管し、災害時には、それらを活用して多様な防災ICTを提供する集いの場へとトランスフォームする、「みちびき」センターを提案。そして、このデザインが、かねてより木を使ってイノベーションが起こせないか?と、共に模索していた長谷萬によって試作品が作られたのです。

三つの「みちびき」で平常時も災害時も支援

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木の質感を生かしたブックシェルフとして利用される、平常時の「みちびき」センター

みんなのまちの「みちびき」センターは、ブックシェルフとして、さらには地域の情報発信やWi-Fiスポットとして、過疎地の体育館や避難施設に設置されます。災害時には、ゴムハンマーと木のダボだけで簡単にトランスフォームすることができ、保管されていたアンテナを設置して、準天頂衛星システム(みちびき)と直接交信。既存の通信インフラが遮断されても、衛星回線を活用した通信により、被災住民の安否情報の確認支援を行います(注1)。さらに医療施設のない過疎地の避難所と総合病院をつなぐことにより、避難者の遠隔医療や、こころのケアもサポート。

  • 注1:
    衛星安否確認サービス(Q-ANPI)避難所の情報を準天頂衛星(みちびき)経由で管制局に送信、収集する。2019年より、自治体に対して導入のための検討を促進する試行的な配備を開始。
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安否確認をはじめ、様々な災害支援を行う、トランスフォーム後の「みちびき」センターのイメージ。
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遠隔医療や、こころのケアを支援する、トランスフォーム後の「みちびき」センターのイメージ

このように「みちびき」センターは、衛星通信技術を活用した「ほしのみちびき」により、孤立した避難施設をつなぐ。「こころのみちびき」を通じて、被災者の健康管理やメンタル面を支える。さらには「木のみちびき」により、木の安心感をもたらすという、三つの「みちびき」効果によって、平常時、災害時を問わず、人々が集う場を提供します。

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「みちびき」センターが提供する三つの価値

未来に向けて、無垢材の新しい価値を考える

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木材の新しい利用価値を語る、長谷萬 長谷川泰治氏

戦後に住宅向けなどの需要が見込まれ植樹された杉が、70年を経て伐採期を迎えています。伐採期を迎えた人工林は、切って使って、そしてあらたに植林していかなければ、山が荒廃していってしまいます。しかし、現在の木材流通では安価な外材が普及し、国産材は使われにくい状況が続いています(注2)。以前 と比べれば少しは自給率が高まってきたものの、それでも、「もっと国産の木を使っていかなければいけないと思います」と、長谷萬の長谷川泰治氏は語ります。
最近、先進国を中心に木の良さが見直されてきました。若い世代が、生活空間に天然木材を取り入れた心地よい空間を好むようになり、サステナブルな社会を目指す動きに伴って、木材の新しい利活用が模索されているのです。

木の用途や価値観は時代の中で常に変わり続けていると、長谷川氏は歴史を振り返りながら。「もともと江戸時代なんかは、石油とか無かった時代ですから、主要なエネルギーが木で、みんな木を切って暮らしてたんですよね。で、どんどん切っちゃって江戸時代後期なんかは、ほとんど禿山になって。浮世絵なんか見ると、箱根とかは禿山なんですよ。わざとああやって抽象的に描いているんじゃなくて、本当に無かったみたいです。」
このように、エネルギーから戦後の住宅用建材として。そして最近では癒しを提供するサステナブルな自然素材として再評価されるなど。人々が木に期待する価値は、時代の変化に応じて変わり続けています。
そして、木の新しい利用価値を模索するには、やはり実際に木で作ってみて、無垢材の放つ香りや、木に触れることで得られる体験が大切です。デザイン開発においても同様に、短期間でプロトタイプを作りあげ、評価を繰り返すプロセスができたことについて、大きな手ごたえを感じています。

  • (注2)
    ピーク時の昭和30年には90%あった木材の自給率は、2018年現在30%にまで落ち込んでいる
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「みちびき」センターを作り上げた長谷萬スタッフ