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【アーカイブ配信】最前線のデータサイエンティストが語る、需要予測AIのリアル

オンラインセミナー山口雄大の需要予測サロン #2

ビジネスにおける重要性が高まっている需要予測について、ゲストや視聴者の皆さまとの対話を通じて学びあう新番組『山口雄大の需要予測サロン(デマサロ!)』。
SCM専門家へのインタビューやディスカッション、生産現場の見学やグローバルでの需要予測研究の最新情報など、毎回異なるテーマで「需要予測」を深掘り。これを見れば、需要予測について新たな気づきがある、ビジネスのヒントになる番組をお届けします。

第2回のテーマは「需要予測AIのリアル」です。ゲストにNECで活躍するデータサイエンティスト2名を迎え、「需要予測AIは本当に効果があるのか?」や「実際の現場ではどのような価値を生み出しているのか?」などのディスカッションを通じて、需要予測AIの実情、需要予測におけるデータサイエンスの価値に深く切り込んでいきます。是非ご期待ください。


#MC山口雄大からのメッセージ
今回は様々な企業で取り組みが行われている、需要予測AIの”実際”に迫っていきます!NECでは100名以上のデータサイエンティストが、各専門業界において、様々な製品、サービスの需要予測AIを構築し、その有効性を検証して、一部では実務活用が進んでいます。そこにはどんなハードルがあり、どんな価値を生み出しているのか、みなさんのビジネスにも参考になるお話を引き出そうと思います!

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視聴者の皆さまから頂いたご質問への回答

QS&OPの目的や導入方法
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不確実性の高い環境下でも、需給情報を基に経営のかじ取りをし、利益を確保し続けることを目的とします。結果、ROEや市場シェアを拡大し、企業価値を高めることを目指します。
導入方法として、最初に重要なのが、経営層にこの必要性を腹落ちいただくことです。S&OPはトップマネジメントが主導すべきオペレーションであり、ボトムアップでプロセスをつくっていってもS&OPにはならず、需給調整の延長になってしまうことがわかってきています。そのうえで、標準的なS&OPのフレームワークをベースに、各社の戦略、組織、既存の会議体、サプライチェーン構造などに合ったプロセスをアレンジすることが重要です。

Q経営層への予測結果の提示
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経営層など、投資の意思決定を担う人たちは、必ずしもデータサイエンスの知識が豊富なわけではありません。一方で、各業界、業務領域の知見は、一般的な実務担当者と比較するとかなり豊富に備えています。そこで、需要予測や予測精度を、その背景を踏まえて解釈し、ビジネスの文脈で整理して伝えることが重要になります。
具体的には、予測精度をMAPEやBias、FVAで語るのではなく、事業やブランド、リージョンなどのビジネスセグメントで比較し、差異の要因をマーケティングの成否や外部環境の変化などで説明します。さらに、それがサービス率や在庫金額、さらには市場シェアなどにどのように影響しているのかを、仮説で構わないので論理的に伝えることが重要になります。
これを定期的なしくみにするのがデマンドレビューであり、供給サイドの情報と統合して、分析し、経営にとって有益な示唆を発信するのがS&OPの本質的な役割です。これを経営層に理解してもえらえると、需要予測やS&OP領域への投資が承認されやすくなります。

Q需要予測AIの成功例と失敗例
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製造業においては、new window資生堂が先行して新製品の需要予測AIで成功し、以降、相模屋食料、 new window不二家、花王などでも同様の事例がメディアで発表されています。新製品の需要予測は属人的になりやすく、既存品需要予測と比較して、精度改善の余地が大きいと言えます。基本的には精度改善によるサービス率の向上、余剰在庫の削減などが実現されています。
小売業においては、new window原信やフレッセイ、ヤオコーなどで需要予測AIを使った発注の効率化が実現されています。店舗での発注業務の時間短縮につながった他、店舗ごとにばらつきの大きい発注精度の平準化も図れたと言われています。
こうした事例から、需要予測AIは精度向上だけでなく、業務効率化、スキル平準化にも貢献しますし、中長期のマネジメント目線で捉えると、実務担当の暗黙知をデータ、アルゴリズム化することを通じて、組織パフォーマンスの再現性を高めることに寄与することがわかります。
一方で失敗の理由もいくつか指摘されていて、代表的なものは学習データの質と量の未整備です。データではなく、モノでビジネスを推進してきた製造業や小売業では、需要予測のためのデータが十分に整備されていることは稀であり、半年~1年以上の時間をかけ、リソースを投入して需要予測AIの導入に取り組まないと成功しません。
また、AIの精度は時間とともに劣化するため、MLOps(Machine Learning Operations)と呼ばれる、AIの管理プロセスを整備しないと、継続的に成果を創出することは難しいことがわかってきています。
需要予測AIはデータとモデルの継続的な管理が必須となるため、運用負荷が低い時系列予測とうまく組み合わせてオペレーションを設計することが有効であり、こうした予測モデルポリシーの整備が成功への一つのカギになります。

Q需要予測用のデータ整理のポイント
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因果関係の適切な想定と、それをデータで表現することです。また、そのデータについて、私は3つのCでポイントを整理しています。
Coverage(網羅性):一部の製品やサービスについてだけでなく、基本的にはすべてを網羅していること
Consistency(一貫性):データの定義(例:質問の仕方)が長期にわたって同じであること
Continuity(継続性):PoC以降も少ない負荷で、将来にわたってデータを取得し続けられること
出所:『需要予測の戦略的活用(日本評論社)』第11章 需要予測のためのデータマネジメント

Q外的要因のある需要予測に有効な手法
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外的要因の特性によりますが、それがサイクリックに繰り返すものであれば、時系列モデルでも精度を期待できます。一方、なんらかの意思によって不定期に発生する外的要因であれば、因果モデルの方が有効です。ただし、外的要因にも、自社でコントロールできるもの(例:マーケティングプロモーション)と、そうでないもの(例:気象や為替)があり、後者でもある程度、予測が可能なもの(例:短期の気象)と難しいもの(例:競合のマーケティング)があります。自社でコントロールできたり、予測ができたりする要素であれば、因果モデルでの予測で(データを整備できれば)精度を期待できます。また、予測が難しい要素でも、因果モデルを構築することによってシミュレーションが可能になり、シナリオ分析を行うことで、SCMでリスクヘッジすることが有効です。

Q特殊要因の需要予測への考慮
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2020年からはじまったCOVID-19のパンデミックなど、特殊な要因をどう需要予測に考慮するかは、様々な業界で悩みの種になっています。私の考えでは、短期的な影響に止まれば過去データを補正、または学習から除外、中長期的な影響が残れば原因含めて学習するのが良いです。ただし、因果関係がブラックボックスの時系列モデルと、因果関係を考慮するAIなどの因果モデルでは対応が異なることに注意が必要です。
まず、外部環境に関連する特殊要因の例としては、COVID-19や消費増税、競合の新製品発売などがあります。自社要因では、類似製品の発売によるカニバリ、大型プロモーション、欠品、大規模チェーンにおける棚落ちなどがあります。それぞれの影響期間を考慮して、過去データを補正するかを決めます。
つづいて予測モデルによる対応の違いです。時系列モデルでは、因果関係を考慮できないため、短期的な影響は過去データを補正、中長期的な影響は水準の補正を行います。季節性の変化には対応できず、1年程度は精度が悪化するため、人手での予測値の補正が必要になるでしょう。
AIなどの因果モデルでは、今後も繰り返し発生する可能性が高い事象であれば、その原因をデータ化し、過去実績と共に学習させます。一方、再度発生するとは考えにくい事象であれば、過去データを補正するのが良いでしょう。
どの予測モデルを活用している場合でも、こうした需要の背景を考慮した過去データの補正や管理は極めて重要になります。需要予測はロジックだけでなく、データ管理やこれを担う人材のスキル育成などを同時に整備していくことが必要です。

Q需要予測システム化のステップ
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いきなりパッケージを導入するのではなく、予測モデルポリシーを整備することから始めます。これは、各社の商材の需要特性やSKU数、展開地域、新製品の発売頻度や売上構成比などを踏まえ、どのセグメントにどんな予測モデルが有効かを検証し、整理するものです。
つづいて、現在活用しているSCP(Supply Chain Planning)システムやERPなどの需要予測機能を踏まえ、各セグメントの高度化方針を策定します。ここで新たな予測モデルが必要であれば、各社の商材に合った予測モデルを構築し、その有効性を検証します。
こうした現状把握と高度化方針の明確化の後に、システム実装に進みます。同時に、需要予測の高度化に必要な6つのファクターに沿って、システム以外にも、業務プロセスや組織設計、デマンドプランナーのスキル育成などを併せて考えていくことが重要です。

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Q追求すべき予測精度
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基本は、業界や扱っている商材によって異なります。また、需要予測のターゲット期間、物的粒度、時間的粒度など、フォーキャスティングポリシーと呼ばれる条件によっても異なります。
この前提を踏まえたうえで、様々な業界(新製品の多い業界も含めて)を対象としたグローバルの調査結果では、3ヵ月先・SKU別・月単位で、売上加重平均MAPE(平均絶対誤差率)は38%です(ただし、コロナ禍の20~22年)。同じ条件では、過去データの十分にある既存品では一桁~20%というのが一つの目安で、新製品は40%を切るのが一つの目安になる印象です。
ターゲット期間が近くなるほど(例:翌週)、精度は上がりますし、同様に物的粒度は大きくなるほど(例:ファミリー合計)、時間的粒度も大きくなるほど(例:年単位)、精度が高くなります。各社のビジネスモデルに合わせて、上記調査結果を柔軟に解釈しつつ、現在の精度を考慮して目標を設定することを推奨します。

QOEMの需要予測
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需要予測が必要かどうかは、受注生産か見込み生産かで決まります。OEMについて、受注生産で対応できるのであれば、需要予測は不要です。
需要予測が必要な場合、OEMの先の需要家の行動も想定し、因果関係を整理する必要があります。そうしたデータを自社で整備できそうであれば、需要予測は可能です。ただ、多くの業界でこれが難しく、OEMはフォーキャストや内示をもらい、それを使っている企業が多い印象です。この場合でも、予測精度管理は極めて重要で、取引先やカテゴリー別に、継続的に精度を管理し、在庫や生産計画を工夫することが有効になります。

出演者

NEC AI・アナリティクス統括部
河野 俊輔

NEC AI・アナリティクス統括部にて、製造領域、鉄道領域を中心にデータ分析案件にて業務適用コンサルティング、プロジェクト管理、分析リーダ等を担当。分析検証から運用まで幅広いフェーズを扱う。また、OJTによる顧客企業内でのデータ分析組織の立ち上げ支援、データ分析人材育成支援プロジェクトも担当。最近、分析検証フェーズから携わっている製造業のお客様向け需要予測プロジェクトが、ようやく運用入りを果たした。
著書に『紙と鉛筆で身につける データサイエンティストの仮説思考』(共著、翔泳社)がある。

NEC AI・アナリティクス統括部
長城 沙樹

データサイエンティストとして製造業・鉄道業界・エネルギー業界を中心に、金融業や医療業界まで幅広い分析案件に従事。近年は、分析案件だけでなく、顧客内でのDX人財育成からデータ活用基盤の構築まで、AI活用全般を幅広く手がけている。異種混合学習やルール発見型推論などNEC独自技術から、GPT系など最新技術まで取り扱い、顧客課題・目的に沿った提案・分析を心がけている。
著書に『紙と鉛筆で身につける データサイエンティストの仮説思考』(共著、翔泳社)。DX Innovators 100メンバ。

NEC AI・アナリティクス統括部 需要予測エヴァンジェリスト
山口 雄大

NEC AI・アナリティクス統括部で需要予測やS&OPを専門とするコンサルタントして活動。青山学院大学非常勤講師。化粧品メーカーで様々なブランドの需要予測を担当した後、S&OPグループマネージャーを経て現職。JILS「SCMとマーケティングを結ぶ!需要予測の基本講座」講師、業界横断「需要予測研究会」ファシリテーター、ベンチャーの需要予測アドバイザーなどを兼務している他、自動車メーカーや食品メーカー、コンサルティングファーム、学習院大学、東京女子大学などで講演を実施。
ロジスティクス大賞2021で「AIデマンドマネジメント賞」を受賞。Journal of Business Forecastingや経営情報学会などで論文を発表。著書に『新版 需要予測の基本』(日本実業出版社)、『需要予測の戦略的活用』(日本評論社)など多数。

問い合わせ先

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