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誤情報とは何か?

サイバーインテリジェンス

2025年3月7日

誤情報に関する議論や研究はここ数年で活発になりましたが、実は誤情報の定義は確立されておらず、その影響力を定量的に示せる段階にはまだ至っていません。現代の情報流通はその多くがプラットフォーマーに依存しており、地域の偏りも大きいなど調査の阻害要因も指摘されています。本投稿では誤情報とは何であるかを考察していきます。

エグゼクティブサマリー

  • 誤情報を定義することは困難であり、専門家の間でもバラバラの認識を持っている。
  • 他の要因から誤情報の効果を分離するのが難しく、世論や行動に与える影響を定量化することも困難
  • データが民間企業にあることなどから誤情報に関する研究は進んでおらず、研究者の出身国が欧米に偏っており、それ以外の地域への適合性は不明
  • 情報が事実かどうかを第三者が検証しにくく、真実と信ずるに足るかではかっていることが誤情報を発生させる根本的な原因
  • コンテンツの中身だけでなく、真実と思いこませるあらゆる要素を含め定義すべき

目次

誤情報の定義

2023年に150人の誤情報専門家を対象に実施された調査では、どのような種類のコンテンツが誤情報とみなされるかについて意見が分かれました[2]。これは情報の種類だけでなく、誤情報を定義づける要素が他にも存在することを示しています。

発信者の影響力

要素の一つとして、発信者の影響力が挙げられます。誤情報により大きな影響を与えるためには、人々が実際にそのコンテンツを見る必要があるからです。誤解を招くが完全に虚偽ともいえない情報であっても、信頼あるマスメディアによって発信されると多くの人に影響を与えてしまいます。
2021年1~3月にFacebook上で多く読まれたコロナワクチン関連の記事には、誤解を招くような見出しをつけた評判の良いメディアの記事がいくつか含まれていました。これらはファクトチェッカーによって誤情報としてフラグ付けされたすべてのコロナワクチン関連情報よりもはるかに多くの人々に閲覧されており、完全なフェイクニュースよりもコロナワクチンに対する姿勢に大きな影響を与える可能性があったことを示唆しています[3]。

全体像を捉える

誤情報かどうかが記事やツイートなど個々の情報単位で判断される傾向がありますが、これは全体像を見落としているとの見方が存在します。[4] 偽情報とは他人を誤解させるために意図的に広められる誤情報の一種であり、偽情報キャンペーンは特定のニュースを選択的に増幅することで機能することが多く、そのニュースのすべてまたは大部分は真実である可能性があるためです。

影響の特定は難しい

誤情報が現実世界に与える影響を理解するには、複数の要因を考慮する必要があります。
イランはCOVID-19の早期に深刻な被害を受けましたが、その影でメタノール中毒が急増したと報告されています[5]。2020年5月までに約6,000人が病気になり、約800人が死亡しました。アルコールがCOVID-19を予防するという噂が広まり、メタノール中毒が増加したためと言われていますが、実際には多くの人が楽しみや逃避のために以前から密造酒を飲んでいました。[6] 誤情報だけでなく、パンデミック中に密造酒が入手しやすくなり、ストレスや恐怖から飲酒量が増えたことも一因と考えられます。このように、誤情報が現実世界に与える影響を特定するのは簡単ではありません。

人々は子供の頃によく耳にしたことの方が真実である可能性が高いと認識しがちです。誤情報が信念に影響を与え、それが行動に反映されることは明らかですが、有意な水準でその影響を示すのは難しいと思われます。例えば、「ピザゲート」事件では陰謀論を信じた一人の男が銃を持って行動に出ましたが、原因となった情報の閲覧数は数百万以上で、定量的にはごく僅かな影響だったと見做されるからです。

進まない研究

近年、心理学者、哲学者、政治学者、社会学者らが偽情報の拡散とその対策について研究しており、関連する論文数が急増しています。偽情報による政治的二極化や民主主義制度への信頼低下、さらにはパンデミック時の健康への影響に関心を持つ多くの研究者が、この問題に取り組んでいるからです。研究が進めば誤情報の定義も明らかとなるでしょう。しかし、資金が投入されているにもかかわらず、解決策を見出すどころか問題を明確に定義するという目標すら未だ達成されていないのが現状です。

民間企業がデータの所有者

この領域に関するデータの多くは民間企業が保有しており、研究者が扱えるのはその一部にすぎないことが大きな原因の一つです。Twitter社はそれまでAPIを通じて大量のデータを無償で提供していましたが、イーロン・マスク氏による買収後、高額な有償ライセンスが必要となりました。このような流れはFacebookでも見られ、YoutubeやTikTokにもデータの収集に関して制限が設定されています。この問題に対処するため、プラットフォーマーと連携する、あるいは、プラットフォーマー自身が実施する研究もありますが、株主の利益を優先するプラットフォーマーの判断によってデータや研究資金が手に入らなくなる可能性を気にするあまり、研究内容や成果の適用にバイアスのかかる懸念が排除できません。
営利を目的とする民間企業がデータを保有していることが研究を阻害する要因の一つとなっています。2022年11月に施行された欧州連合(EU)のデジタルサービス法ではプラットフォーマーに対して、研究者へのデータアクセスを義務付けました。[7] しかし、アクセスできるデータはごく一部であり研究を進めるには不十分です。

国の偏り

調査[8]によれば研究者の出身は1/2が米国、1/3がヨーロッパ、東アジア、アフリカ、中東はそれぞれ1/20でした。誤情報戦略の有効性を検証する155件の研究のうち、80%が北半球で実施されています。[9] 誤情報の問題は世界規模であるにも関わらず、米国の研究では独特な二大政党制の選挙を対象としたものに偏っており、他の地域にも適用できるかは明らかではありません。より多くの国々での研究が必要です。

誤情報をどう定義すべきか

情報が事実かどうかは一般的に第三者が検証しにくく、合理的に真実と信ずるに足るかではかっていることが誤情報を発生させる根本的な原因であると筆者は考えます。コンテンツの中身だけでなく、真実と思いこませるあらゆる要素、例えば発信者、提供方法や情報を受け取った後に期待される行動も含めて、情報のサプライチェーン全体を踏まえて『誤情報とは何か』を定義すべきです。

参照文献

この記事を執筆したアナリスト

川北 将(Kawakita Masaru)
専門分野:脅威インテリジェンス、AI

15年以上、セキュリティ領域の研究開発から製品開発まで広く携わり、現在も脅威インテリジェンス分析AIの技術開発・活用推進に従事。CTF世界大会に個人・団体で決勝出場経験あり。CISSP、情報処理安全確保支援士(RISS)、システム監査技術者を保持。

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