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自然災害対策の経済メリットを「見える化」 NY大学とNECが挑む価値創造

自然災害による被害は、日本だけでなく、世界中で深刻な社会課題になっています。都市部では特に経済的被害が大きく、2012年にニューヨーク市を襲ったハリケーン・サンディは公共インフラに甚大な影響を与え、その経済的損失は数兆円にのぼるという試算もあります。災害対策が叫ばれる一方、その巨額費用が時にネックになることも。そこでNECは、必要な投資を促すべく、災害対策が経済的に生み出すメリットを数字で「見える化」する取り組みを進めています。

防災対策プロジェクトに「投資を呼び込む」

ニューヨーク市マンハッタン島周辺で行われた洪水対策のプロジェクトでは、一定のシナリオに基づいて試算を行うと最大で約1280億円相当の損失を回避できる可能性がある──2026年5月、NECはニューヨーク大学(NYU)と共に経済効果を検証した結果を公表しました。この検証の特徴は、交通インフラや住宅、住民のメンタルヘルスなど5つのテーマに分けて、防災対策が「誰に」「どれくらい恩恵があるか」を具体的に示したことです。

マンハッタン島周辺の洪水対策事業を検証
NEC GX事業開発統括部 足立龍太郎

複雑に入り組んだ恩恵を「見える化」、つまり数値による定量化によって、納税者だけでなく恩恵を受ける企業や株主にも説明しやすくなります。「公的事業にも民間の資金を活用して防災対策を促進する可能性が広がる」とNECで取り組みをリードする GX事業開発統括部の足立龍太郎は語ります。防災のメリットを受ける側が防災対策に投資するというお金の流れにつながる、というわけです。

例えばある河川の洪水対策として堤防を建設する場合、住民の安全が主な目的とされるため、税金で賄うことが従来の考え方でした。しかし、もし流域に工場などの施設があれば、企業にとっても洪水対策はメリットがあります。この経済効果を定量化すれば、建設費を企業に出資してもらう動機付けになります。

NECがこうした取り組みを行うのには、どんな背景があるのでしょうか。

気候変動対策には、温室効果ガスを削減して温暖化の進行を抑える「緩和」と、自然災害などに備えて被害を軽減する「適応」の二つがあります。適応策への投資は遅れており、理由として投資効果が見えにくいことが指摘されています。そこで注目を集めているのが災害対策により低減される被害の大きさを評価して資金を呼び込む「適応ファイナンス」という金融の仕組みです。多様な受益者が生じる災害対策は、これまで、その効果を定量的に示したり、継続的にモニタリングすることは困難でした。 そこでNECはリモートセンシングやAI、デジタルツインなどの技術でリスク評価に必要な情報を取得して解析し、適応策のメリットを「見える化」する「NECデジタル適応ファイナンス」の取り組みを始めています。防災・減災のメリットの分布を明らかにすることで、誰がどのように費用を負担し、どのような形で投資を回収できるのかを議論する土台になります。

大都市や先進国、そして日本でも

マンハッタン島の取り組みで「これまで見えにくかった価値を定量化できたことは大きな成果」と語るのは、NYUタンドン工学部の三浦有稀Assistant Professor。三浦さんがNECの取り組みを知ったのは2025年。NEC が自分と同じ研究領域に取り組んでいることに、当時はちょっとした驚きを感じたといいます。「NECが適応ファイナンスに本格的に取り組んでいることを知って、自身の研究と、NEC の技術・事業構想が接続し得る点に大きな可能性を感じました」。

NYUタンドン工学部の三浦有稀Assistant Professor

三浦さんによると、気候変動の研究にはIdentification(リスクの把握)、Measurement(リスクの定量化)、Management(対策・意思決定)の3つの柱があります。それぞれ専門家はいるものの、三浦さんのように3つ全てに取り組んでいる研究者は多くはありません。こうした都市インフラ、洪水リスク、経済影響、意思決定支援などを横断する研究知見が、今回の共同検証に有効でした。「防災の研究はマイナスをゼロに近づける考え方が主流なので、新たな価値を生むという発想は新鮮だといわれています」と話す三浦さん、現在はニューヨーク市気候変動委員会のメンバーとして、市長室を含む市の関係機関や民間セクターに対し、都市の気候リスクや適応策に関する助言・情報提供にも関わっています。最近ではデベロッパーなど民間企業からも問い合わせを受けるなど、取り組みへの関心が高まっていることを実感しています。

世界一の経済都市ともいわれるニューヨークを対象に検証を行ったことは、重要な意味があります。NECの足立は「経済規模が大きい先進国ほど自然災害によるダメージが大きく、災害対策によるメリットも大きくなる」と解説。「その分、適応ファイナンスに取り組むモチベーションも生まれやすい」と語ります。近年はAIやクラウドサービスなどが飛躍的に進化しコストも大幅に下がったことで、膨大なデータを扱う試算がやりやすくなりました。国内を見ても、洪水などの災害の可能性がある場所に、交通インフラや発電所、工場、倉庫などの重要施設を抱える企業は多数あります。「災害列島の日本でもこうした企業に働きかけていきたい」と今後の展望を語ります。

リスクへの対策をコストではなく、新たな社会価値の創造ととらえること。NECのPurpose(存在意義)にも通じるこの考え方は、気候変動以外の脅威にも適用できます。サイバーセキュリティもその一つで、ひとたび攻撃を受けて情報が流出したり、事業停止に陥ったりすれば、巨額な損失を計上することになります。シミュレーションでサイバーディフェンスによる将来の価値を定量化できれば、セキュリティにかかる費用もコストではなく、機会損失の回避や事業競争力の強化というリターンを生む投資と捉えられ、適切な意思決定を後押しする評価指標となり得ます。

一見、私たちの日常とは縁遠いように思える考え方や金融の仕組みですが、気候変動や技術革新によって新たなリスクが生まれる時代においては、こうした取り組みが、いずれ私たちの暮らしを安全・安心なものにしてくれるかも知れません。

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