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AI時代の安全安心、日本企業が果たす役割とは 落合陽一氏とCEO森田の展望

いま、AIによる大きな変化が社会のあちこちで起こり始めています。「第4次産業革命」と称されるこの潮流を、より良き世界につなげるために必要なこと、そして日本企業が果たすべき役割とは。創造性と未来社会へのビジョンを備えるメディアアーティストの落合陽一氏。テクノロジーを通じて社会に安心と革新を届けるNECを率いる社長兼CEOの森田隆之。 デジタルテクノロジーの分野をリードする2人が「第4次産業革命の波と日本のデジタル主権」をテーマに考えを共有しました。

(本稿はnew windowNewsPicks「WEEKLY OCHIAI」での対談を編集しました。以下、敬称略)

落合 陽一
メディアアーティスト
1987年生まれ。2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。筑波大学准教授、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサー。
森田 隆之
NEC社長 兼 CEO
1960年生まれ。2021年4月、社長兼CEOに就任。NECグループのPurpose実現に向けた取り組みを推進。社長就任以前は、海外事業やM&Aなどの事業ポートフォリオ変革などを主導して成長戦略を後押し。

──「万博以来ですね」と、握手で始まった対談。 “未来のデジタル社会”を体験できる落合氏のパビリオン「null²」に、NECは顔認証技術などを提供。テクノロジーの面から未来体験を支えています。

落合:「null²への来場者が顔をスキャンしてデジタルアバターをアップロードし、本人かどうかを確かめる。これにNECの顔認証技術を活用しています。認証された本人なのだと示せることはもちろん、自分のデジタル情報を自分自身が管理できる「自己主権型」であることが重要です」
「利用者は何十万人規模と世界でも例がない実験です。5年後くらい、実際にそういう世の中になったとき『あぁ、万博で体験したな』と思い出してくれるといいな」

森田:「(デジタル産業で自立して主導権を握る)デジタル主権に関する課題に対して、自己主権型の情報管理は1つの解決策になるのではないでしょうか。日本が世界に対して提案できる領域になると思います」
「健康に関するデータなど個人データでも人が助かるような情報を公共財にするような仕組み仕掛けをどうするかによって、国の競争力は変わってくる。現状のままではデジタル主権を特定の国や企業に依存し続けることになります」

──第4次産業革命とデジタル主権。AIなどのデジタル技術を海外企業に過度に依存せず自国で担保する重要性が一段と高まっています。

森田:「国家の政治施策と先進技術とは依存し合うべきではないと思っていますが、今や切っても切れない関係になっています。難しい時代になりましたね」

落合:「国防や国家の基盤システムは国産でなければならないところって意外と多い。外国のクラウドやソフトウエアを安全保障上、使えない領域もありますから」

森田:「恐ろしいのはAIです。個人の趣味ならどこのAIを使っても構いませんが、政府の機微に当たる情報は純国産かつ自国で一からトレーニングしたものでないと怖い。デジタル主権への考え方について、世界で早くコンセンサスを作らないといけません」
「公共財として『信頼・安心できるAI』を水のように使える状態にすることが非常に重要です。どこかの国のAIしか使えないとか、AIへのアクセスが一部の国だけ制限されるとか、そんな状況だと未来はディストピア(反理想郷)になってしまいます」

落合:「LLM(大規模言語モデル)は非常にコスト圧力の強い分野であり、先進的なLLMの10分の1の性能なら誰もがすぐに使えるようになる。ところでNECの生成AI『cotomi(コトミ)』はChatGPT超えを目指すのかと視聴者から質問がありますが」

森田:「それはないですね。AIは用途によって適所適材です。例えば外部と接続してはいけないなど、信用が重要な領域ではcotomiを使う。そうでなくとも大丈夫な領域はChatGPTでいいし、プログラミング用途だったらそれに適した別のものでもいい」

落合:「僕も使い道によって全然違うと思います。簡単な対話なら何でもいいし、監視カメラに使うなら言語性能は高くなくていい。多種多様な使い方があります。だから僕は『LLMの味をわかってほしい』と言ってるんですけどね」

──バブル崩壊、IT敗戦、デジタル赤字。これからのAI産業革命でも日本は歴史を繰り返すのでしょうか。

森田:「2025年のダボス会議で『日本は米中に次いでイノベーションを起こせる国だ』と、ある欧州の方から羨ましがられました。日本は、自国そして世界に対して第三の選択肢を提供できる力がある。その役割を果たせる企業群がある国になりたいですね」

落合:「海外の後追いではなく、世界が欲しくなるものを日本の価値観で切り拓くのが大事だと思います。ここ10年はアップルやグーグル、アマゾンなどの背中を追っていた印象が強い。『あっちの人達が向かう先にイノベーションがある』と思い込むのは勿体ないことです」

森田:「かつて総合電機と呼ばれた各社は、それぞれ違う道を自分たちなりのやり方で歩んでいこうと試行錯誤しています。この動きがアカデミアや文芸領域でも進んでいくことが重要です」
「日本は世界の中で非常にユニークな立ち位置になりました。企業にとってもアドバンテージになっている。失われた30年を経て日本は今、復活しつつあると思う」

落合:「生成AIが出て日本の雰囲気が変わってきたと感じています。10~20人いれば(寡占されていない領域での)基盤ソフトウエアが作れる。変化の兆しを感じる世界になってきました」
「2050年にNECがどんな新しいモノを世の中に出しているのかとの質問を頂いています」

森田:「第4次産業革命は2050年ごろまで続くことでしょう。その基盤であるデジタルインフラ、特に日本のデジタルインフラを守っていける企業になる。そのためにはNEC自身が『AIネイティブな会社』になれたらいいなと思います」

──対談の最後に、落合氏から「これからを担う世代に向けてのメッセージを」と促された森田。出てきた答えは、AIによる様々な示唆を簡単に得られる時代だからこそ、重要なものでした。

森田:「考えて考えて考え抜いて、そして『やる』っていうことが、何においても大事です。やることからしか突破は無い。若い人には汗をかいてとにかく自分の頭で考え、自分でやってみてほしい」

落合:「考えてもやらない人っていますもんね。『やってみる』という言葉が重いですね。やらないと足跡は残らないから。重要なメッセージだと思います」

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