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アイデアの多産多死はAIで加速する 「AI×人」で革新する新事業創出プロセス

事業計画・審査・推進 戦略・組織・マネジメント

新規事業開発は、アイデアを大量に生み、同時に素早く捨てる「多産多死」がカギを握る。

しかし、現実には、担当者の心理的負荷、評価基準のあいまいさ、検証リソースの不足など、多くの壁が立ちふさがる。

そこに生成AIが登場し、状況は一変した。市場分析、着眼点の提示、仮説の壁打ち、企画書の診断まで、初期フェーズを加速するツールが揃い始めている。

AIを使えば多産多死の回転はこれまで以上に速くなり、挑戦のコストを下げつつ、意思決定の質を上げることも可能だ。

こうした変化は新事業開発のプロセスにどんなインパクトを与えるのか。三菱ケミカル、NEC、Spreadyのキーパーソンがその最前線で見えてきたリアルを語り合った(本文内敬称略)。

本セミナーについて詳細

話し手

  • 三菱ケミカル株式会社 フード・ヘルスケアインキュベーション部 部長椋田 貴寛氏
  • NEC ビジネスイノベーション統括部 シニア・マネージャー 木村 匡晶
  • Spready株式会社 代表取締役 佐古 雅亮氏<モデレーター>

事業化したものだけが評価され、多死は評価されない

佐古(Spready):新規事業のアイデアは、残念ながら百発百中というわけにはいきません。新規事業の創出には、アイデアの多産多死が不可欠です。「多産」とは多くのアイデアを構想し、初期検証を実施し続けること。「多死」とはそれらを評価し、継続するか否かを意思決定し続けることです。

どちらも“継続すること”がポイントです。実際に現場ではどのように取り組まれているのでしょうか。

<モデレーター> Spready株式会社 代表取締役 佐古 雅亮氏 総合人材サービス会社でキャリアコンサルタントやスタートアップ支援事業を経験後、2018年5月にSpreadyを創業。プラットフォームサービス「Spready(スプレディ)」、 生成AIを活用したアイデア創出クラウド「HASSAN(ハッサン)」などを提供し、日本型イノベーションの創出を支援している。

木村(NEC):多死といっても、検証を止めて終わりではありません。 外部環境や社内環境の変化によって、筋のいいアイデアは変わることがあるからです。NECは止めたものを「アーカイブ」と呼んで、知識・経験として残すことにしています。

椋田(三菱ケミカル):アーカイブというのはいい呼び名ですね。特に多死は評価されにくいですから。検証していたものを止めると「なんで止めたのか」「今まで何のためにやっていたのか」と言われることがあります。

適切なタイミングで新しいアイデアにリソースをシフトし、クオリティを高めていく。多死はそのために必要なプロセスです。止めたからといって、これまでの取り組みがムダになるわけではないのに、そのプロセスはなかなか評価されません。

三菱ケミカル株式会社 フード・ヘルスケアインキュベーション部 部長 椋田 貴寛氏 2001年、三菱レイヨン(現、三菱ケミカル)入社。2019年より食品事業に異動し、新規事業担当として活動を開始。 現在はフード・ヘルスケアインキュベーション部部長として、食品・ヘルスケア分野における新製品開発及び新市場開拓を推進。新規領域を担う次世代人材育成にも力を入れる。

佐古:評価自体が難しいという面はあるでしょうね。既存事業は「これが正しい、間違っている」ということが合理的に判断できますが、新規事業開発は価値創出の活動で、正解がないですからね。 B to BビジネスかB to Cビジネスか、事業化までに基礎研究が必要かとか、事業特性も関係しそうですね。その点、三菱ケミカルやNECでは多産多死をどのようにとらえていますか。

椋田:三菱ケミカルグループは、基礎化学品から機能商品に至るまで、さまざまな素材を提供する総合化学メーカーです。 モビリティ、半導体・通信、食、メディカル、グリーン・ケミカルなど幅広い事業を展開しています。 その中で私が従事しているのが食やヘルスケアに関する新規事業開発と新市場開拓です。会社の事業としてはB to Bビジネスで、R&Dが必要だったり、事業化までに2、3年かかったりすることもあります。 投資額も大きくなるし事業化までのスパンも長いので、次々アイデアを生み出す多産多死が必要なのです。

アイデアをたくさん生み出し、たくさん失敗する。その中で学びを得て、次のアイデアにフィードバックしていく。このサイクルを高速に回すことが重要だ

木村:NECも現在はB to Bビジネスが主体です。ITベンダーで業種は違いますが、事業特性は三菱ケミカル様に近いですね。多産多死が必要なのは我々も同じです。

AIで「1000分の3」を「100分の3」にする

佐古:しかし、多産多死がなかなかうまくいかないケースも多いですね。

椋田:先ほど触れたように、多死がなかなか評価されないこともありますが、そもそもやり方がわからなかったり、やり方を知識として知っていても実行できないケースが多いようです。 多産多死という言葉は知っていても、そのサイクルをきちんと回していくことには開きがあります。

木村:新規事業のアセットは限定的なので、そもそも多産に時間を割くことは難しい。損失回避バイアスやアイデアへの愛着があって、アイデアを失敗と認めることへの心理的ハードルもあります。

評価者によって判定の基準が異なることも問題です。なぜ評価が高いのか・低いのか、企画担当者が腹落ち感を持つことが難しい。

NEC ビジネスイノベーション統括部 シニア・マネージャー 木村 匡晶
2007年、NEC入社。小売業の事業戦略企画、戦略立案支援などに従事。2024年より、コーポレートの事業開発を担当。オープンイノベーションを軸にテクノロジーカンパニーやスタートアップと共創し、NECの新規事業開発や社会価値の創出に取り組む。

佐古:とはいえ成功したものは評価してもらえます。だとするなら、成功率を高めることが多産多死を推進する重要なファクターになるのではないでしょうか。

椋田:そのためには、新規事業アイデアの実証工程の精度を高めていくことが重要です。例えば1000個のアイデアから3つが成功する(1000分の3)と仮定すると、まずはこの“入口の精度”を上げ、100個に絞り込んだ段階で3つが残る(100分の3)レベルまで引き上げることが重要です。 さらに最終段階では、10個に絞った中で3つが成功する(10分の3)状態を目指していく。こうした段階的な精度向上が、多産多死を実効的に回すポイントなのです。

その際、100分の3を10分の3に上げていく作業は、人による検証や判断が重要になる領域です。最終的に意思決定するのは人ですからね。

一方で、1000分の3を100分の3にしていく作業は積極的にAIを活用したい領域です。市場のニーズやシーズからアイデアの示唆をたくさん与えてくれる。アイデアの段階で扱うのは極秘情報ではないので、使う側も安心して使えます。実際、三菱ケミカルでは新規事業開発の前半工程、1000分の3を100分の3にしていく作業にAIを活用しています。

アイデアの実現成功率を高めるにはAIと人との共創がポイントになる。 アイデア創出や壁打ちといった初期段階でAIを活用して効率化を図り、詰めの作業は人が深掘りして検証・判断していく

AIの活用で人の主観に依存しない客観的評価が可能に

佐古:具体的にどのような作業にAIを活用しているのですか。

椋田:マーケットや顧客の課題収集、アイデアの作成、仮説の立案、検証支援などですね。ツールの1つとして、Spreadyのアイデア創出クラウドサービス「HASSAN」を利用しています。アイデア評価やアセット整理、領域選定などアイデア創出に活用しています。

PoCレベルではありますが、仮説の評価や検証支援にはNECの「事業企画書診断サービス」を利用しています。これは、AIが事業企画書の内容を理解し、自動で診断してくれるものです。

佐古:事業企画書診断サービスとは、どのような特長を持つサービスなのですか。

木村:お客様が設定した審査基準や評価軸に基づき、企画書全体をAIが網羅的かつ客観的に診断します。審査基準や評価軸に基づいた診断結果をレーダーチャートで表示するので、企画書の何が基準に達しているか・いないかが一目でわかります。

結果だけでなく、その理由も提示します。基準に達していない場合は、どうしてなのかを深掘りすることができます。さらにどうすればいいかといった改善ポイントもアドバイスします。抜けや偏りを明らかにし、最適なアクションを提案するサービスです。

佐古:人が評価すると、どうしても主観が入ってしまう。それが適切な場合もありますが、人によって評価が違うと、企画担当者に迷いが生じてしまいます。それを客観的に診断してもらえれば、壁打ち相手としては最適ですね。

木村:企画書の診断を効率化するとともに、人による評価の揺らぎを改善したい。NEC自身がこの課題を持っていたため、NECのAI技術を活用し、サービスとして具現化しました。社内で200人以上に利用してもらって実証を重ね、現在、トライアルサービスを実施中です。三菱ケミカル様をはじめ、複数のお客様にご利用いただいています。

事業企画書診断サービスのイメージ。AIが審査基準に基づき企画書を網羅的に診断し、強みや弱点を可視化。評価の揺らぎを抑え、担当者と評価者が認識をそろえながら、建設的で公平な議論を進めやすくなる
※画面UIは開発当時のものであり、現在のものと異なります

AIは企画担当者と評価者をつなぐ“橋渡し役”

佐古:なぜ企画書の診断にAIを活用しようと考えたのですか。

木村:企画担当者と評価者は、時として対立構図になりがちです。その主な原因は、企画担当者と評価者が“見ているポイント”を共有できていないことです。 担当者はアイデアへの思い入れが先行し、評価者は実現可能性や収益性を重視するため、両者の視点が噛み合わなくなるのです。

椋田:企画担当者はアイデアを聞いてほしい。評価者はその実現可能性はどれぐらいか、事業化した場合に成功するのか、どれぐらい利益になるのかを考える。この時点で既に視点が合っていませんからね。

木村:AIなら網羅的かつ客観的に診断が可能です。人の至らない部分を補い、企画担当者と評価者のコミュニケーションを補強できると考えました。 審査基準や評価軸はNECのナレッジに基づく基準軸が標準で設定されていますが、お客様の基準を設定することも可能です。お客様の評価プロセスや業務にフィットする形で使うことができます。

佐古:イントラプレナーの立場からすると、AIがコーチングしてくれるサービスはとてもありがたいですね。企画書の診断だけでなく、生煮えのアイデアを磨くときにも使えそうです。

椋田:私も以前からこういうものがほしいと思っていたので、トライアルサービスをやっていると聞いて、すぐに利用を開始しました。壁打ちのミーティングのために時間を使うのはもったいないですからね。それを通過して、ブラッシュアップしたものを提出してくれると評価者も負担が減って助かります。

木村:企画書のクオリティも高い状態になっているので、評価者は内容を理解しやすい。AIによる客観的な評価をもとに自分の経験を重ねて言えるので、主観に流されず、コミュニケーションが建設的でフェアになる。互いに納得感を持って合意形成できるようになります。NEC社内のトライアルでも、実際にそういう成果を実感する声が多かったですね。

客観的評価をもとに企画書のブラッシュアップをセルフ化でき、クオリティが向上する。 評価者も評価作業を効率化でき、ポイントの認識合わせも容易になる。合意形成が進み、建設的でフェアな議論が可能になる

AIと人の共創で新たな価値創出の可能性が高まる

佐古:AIが万能で自動化してくれるわけではありません。むしろAIは初期の大量検討を高速化する“加速装置”であり、最終判断や深掘りは依然として人の創造性に委ねられます。 AIは人がやると工数も時間がかかる作業を効率化し、アイデアのブラッシュアップをアシストしてくれる。人はアイデアを深掘りしたり肉付けしたり、人にしかできないことに注力する。それがAIの真の価値だと思います。

椋田:私もそう思います。アイデアの多産多死を高速に回していくには多死のタイミングが重要です。アイデアの検討を止めてから、次のアイデアを考えるのは判断も遅くなるし、 良くないと思います。アイデアの検討を止めるべきか考えている時には、既に次にやりたいものがある状態をつくりたい。AIを使えば、その取り組みを効率化できます。

先ほど申し上げたように当グループはB to Bビジネスで事業化までのスパンも長い。1000分の3の確度でR&D投資に入り、そこで事業化が困難とわかったら、膨大な投資や資源がムダになる。 大変なリスクです。新規事業開発の前半工程で確度を上げ、腹落ち感を持ってやる。これは新規事業開発を担う我々の生命線でもあります。

木村:AIを使うことで、アイデアの創出やそのブラッシュアップをセルフ化できます。強み・弱みを客観的に判断してくれるので、“空中戦”にならずに評価者と合意形成しやすくなります。

佐古:新規事業開発は創造的な仕事です。AIは強力なツールになりますが、人がやるべきこととAIがやることを分けて進めることが大事ですね。

椋田:1000分の3を100分の3にするのはAIで、100分の3を10分の3にするのは人が頑張る。そういう使い分けをしてアイデアの多産多死をこれまで以上に高速に回していきたい。

HASSANや事業企画書診断サービスのように、アイデアの多産多死をサポートするツールは整ってきています。新製品や事業開発を担う企画担当者は、トライしてみる価値はあると思います。

木村:NECはトライアルサービスを通じて、事業企画書診断サービスの強化に継続的に取り組んでいます。社内で培ったナレッジも積極的にフィードバックさせています。 企画書AI診断サービス以外にも、さまざまなAIサービスの開発を進めています。今後も価値あるソリューション提供に努め、お客様の新規事業開発を幅広く支援していきます。

NEC企画書AI診断サービス

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