伊豆倉 さやかのコラム

あの時代のムードを味わえるチョコレートを作り出すAIとは?

NEC AI・アナリティクス事業部
伊豆倉 さやか

2018年12月18日

概要

Web記事をはじめ、TVや雑誌などでもAI(人工知能)に関する話題が取り上げられ、「AI」というキーワードは一般にも広く浸透してきているように感じます。しかしAIに対して、「難しそうでよくわからない」、「なんかすごそうだけど自分には関係ない」というような印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか?本コラムでは、NECのAI技術とチョコレート専門店とのコラボレーションによって誕生した「あの頃はCHOCOLATE」を紹介しながら、データと人を繋ぎ新たな価値を創造するAIの可能性について述べたいと思います。

本文

私は、今の部署に異動してデータ分析業務に携わるようになって約1年になります。普段は、主に流通・小売り系のお客様向けに、NEC the WISEの一つである異種混合学習を用いた需要予測などを担当しているのですが、今回、NECのAI技術のプロモーション企画として、新聞記事データを使って時代のムードをチョコレートの味わいで再現するAIを作る、という少し(かなり?)変わった分析を担当することになりました。これは、2017年に販売し好評を博した「飲める文庫」に続くAIによる味覚予測シリーズの第二弾企画で、サンフランシスコ発のBean to Barチョコレート専門店、ダンデライオン・チョコレート様とのコラボレーションにより実現した企画です。「飲める文庫」では、名作文学の読後感をAIで分析しコーヒーの味わいとして表現しましたが、今回は、過去約60年分の新聞記事データに含まれる大量の単語(約14万語)を、AIがチョコレートの味(甘味・苦味・酸味)とフレーバー(ナッツ感・フローラル・フルーティ・スパイシー)に変換、1年ごとに集計することで、新聞記事に使われている単語から時代のムードを読み取り、チョコレートの味わいとして表現しました。
以下、AIを用いた新聞記事データの分析プロセスを簡単に記載します。

  1. 頻出単語のタグ付け
    まず約60年分の新聞記事(日経新聞の朝刊一面)から頻出単語を約600語抽出し、各単語に対して、甘い、苦い、などのチョコレートの味覚指標(7つ)を割り当てます。これが、単語の味覚を予測するための教師データとなります。
  2. 単語のベクトル化
    次にWord2Vecという手法を用いて、単語を数値化(ベクトル表現に変換)します。Word2Vecは、ニューラルネットワークを利用した自然言語処理ツールで、大量のテキストデータから単語の使われ方を解析し、単語を200次元程度のベクトルとして表現することができます。このようなベクトル化を行うことで、例えば、「パリ」-「フランス」+「日本」=「東京」のような単語同士の演算が可能になります。
  3. 単語の味予測モデル構築
    続いて異種混合学習を用いて、単語ベクトルと(1)で割り当てた味覚指標との関係性をモデル化します。具体的には、味覚指標が割り当てられた頻出単語600語(教師データ)をもとに、単語ベクトルの各次元の値を説明変数として、甘味、苦味などの各単語の味を推定する味覚指標の予測モデル(7つ)を構築します。このモデルを用いることで、新聞記事に含まれる全単語について各味覚指標の値を算出することができます。
  4. 1年ごとに味覚レーダーチャートを作成
    (3)のモデルを用いて約60年分の新聞記事に現れる全単語の味を予測し、1年ごとに足し合わせることで、各年の味覚レーダーチャートを作成します。この際、年ごと、味覚指標ごとに正規化等の統計処理を行って、単語数のばらつきを吸収したり、相対的に甘い年、苦い年、といった各年の特徴を際立たせるように調整しています。

このようにして作成した約60年分の味覚レーダーチャートのうち、印象的な出来事があった年として、1969年(月面着陸)、1974年(オイルショック)、1987年(バブル絶頂)、1991年(バブル崩壊)、2017年(イノベーション:AI、IoTなどの技術革新)の5年をピックアップし、チョコレートメーカー(注1)さんの手によって各レーダーチャートの味わいを表現した5種類のチョコレートが完成しました。後日伺ったところ、チョコレートの開発においては、その年に起こった出来事や時代背景なども考慮しながら、カカオ豆の産地選定や焙煎条件の調整、試作を繰り返してくださったそうです。サンプル品のチョコレートを味見させてもらいましたが、年ごとの特徴がとてもよく表れていると感じました。

今回の分析では、「新聞記事データをAIが分析し、時代のムードを味わえるチョコレートを作る」というコンセプトのもと、様々な検討を重ねました。何をどう分析すればよいのか手探り状態で不安な部分も多かったですが、一緒に分析を行ったデータサイエンティストをはじめ、企画・プロモーション担当者やダンデライオン・チョコレート様のご協力をいただきながら、とても良い経験をすることができました。
また、「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2018」にて、本商品に関するデモンストレーション展示を行ったのですが、非常に多くのお客様にお立ち寄りいただき、たくさんの好意的なお言葉をいただくことができました。特に、「AIでこんなこともできるんだ」という感想を持たれる方が多く、「AIと人(チョコレートメーカー)との共創による、今までにない体験」を提供することができたのではないかと思います。また、「AIって面白いね」と笑顔になる方が多かったのが印象的でした。このような企画を通じて、AIを身近に感じてもらえると嬉しいです。

  • (注1)
    チョコレートメーカー:原材料であるカカオ豆の産地、品質、収穫年によるフレーバーの特徴を深く理解し、カカオ豆の産地や収穫年毎に焙煎や砂糖を入れるタイミングなどの条件を変えてチョコレートを製造する職人

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