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「身近なものでデータ観察! ~野菜の値動き編~」

2022年10月26日

はじめに

今年の春ごろ、スーパーでタマネギの値段がかなり高く、たびたび手に取るのをためらってしまいました。この野菜の値段はどのように決まっているのでしょうか?
天候?巣ごもり需要?いろいろと候補はある中で、どの要因が大きくかかわっているのでしょうか?今回の記事では野菜の値動きについて、データ観察から得られた知見を紹介したいと思います。

実際のデータを使ってみよう

今回は、

  • 東京都中央卸売市場日報[1](野菜の卸売価格の値動き)
  • 気象庁気象データ[2] (気温、降水量、湿度など)
  • 日本銀行時系列統計データ[3](為替)
  • 経済産業省石油統計(確報)[4](原油価格)

より取得したデータを使用します。
東京都中央卸売市場日報は、1日ごとの卸売市場における生鮮食品などの卸売数量及び卸売価格が記載されているデータセットです。特に青果では、23種の野菜が記録されています。データサイエンスコミュニティであるNishika[5]が東京都中央卸売市場日報から収集・加工したデータを中心にデータ観察を行っていきます。まず野菜ごとの値動きの傾向を把握するために、図1に青果の一部の2021年5月から2022年4月までの1年間の推移を示します。

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図1. 野菜の卸売価格の推移

じゃがいもが一定の卸売価格を維持している時期があったり、いくつかの種類の野菜が似たような値動きをしていたりすることが分かります。値動きの要因を観察する前に、野菜同士で値動きが類似しているものがあるか、相関係数を一覧化した図2のヒートマップからも見ていきましょう。

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図2. 野菜同士の相関ヒートマップ

相関図を見ていくと、葉物野菜であるキャベツ、レタス、はくさいの相関が高く、主要生産地が同じ千葉県、茨城県である大根も相関が高くなっています。また、ナス科であるトマトとピーマン、ミニトマトらの相関が高いことが分かります。同じナス科でもじゃがいもと上記3つの野菜と負の相関が若干あるのは保存期間の長さや可食部の違い、旬の時期によるのでしょうか。この中からいくつかの野菜を中心に値動きに関わる変数を調べていきます。

値動きに影響を与える変数の考察

野菜の値動きに関わる変数はなんでしょうか?パッと考えられるものを挙げてみると、

  • 流通量
  • 野菜が育った時期の気温
  • 円の相場
  • 野菜が育った時期の原油価格

などが考えられます。それぞれについて、見ていこうと思います。

変数と野菜の値動きの関係

1.流通量と野菜の値動きの関係

野菜の2019年5月~2022年4月の流通量(1週間の移動平均)の逆数と卸売り価格の値動きの相互相関係数を一覧化したものを表1に示します。

表1. 野菜の値動きと流通量の逆数の相互相関係数

トマトやほうれんそうは相互相関係数が高い一方で、図1で値段が安定していたじゃがいもやキャベツは低い結果となりました。実際、トマトやほうれんそうの2019年5月~2022年4月の卸売り価格の値動きと流通量(1週間の移動平均)の逆数を図3、4から比較すると、類似した推移となることがわかります。一部の野菜は純粋に需要と供給のバランスで価格が決まることが分かります。

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図3. トマトの卸売価格の値動きと流通量(1週間の移動平均)の逆数の関係
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図4. ほうれんそうの卸売り価格の値動きと流通量(1週間の移動平均)の逆数の関係

2.気温と野菜の値動きの関係

野菜の育ちに関係しそうな気温はどうでしょうか?過去の気温と野菜の値動きとの関係性を見ていきます。気温を値動きの取得時期から1ヶ月ごとに過去にずらして、相関の近いものを探していくと、図5、図6のようにトマトは3ヶ月前の気温と、ほうれんそうは1か月前の気温と値動きが高い相関があることが見えてきました。トマトは種まきから収穫までの期間が約3ヶ月[6]、ほうれんそうは約1ヶ月[7]であることから種まき・成長時期の気温と収穫量が相関関係にあり、収穫量の変動から値動きも連動して影響を受けていそうです。農林水産省で公開している記事[8]によると、「ほうれんそうは今は1年中みられますが、本来は寒さに強い作物で、旬(しゅん)は秋から冬にかけてになります。気温がマイナス5℃になっても少しずつ生長(せいちょう)し、マイナス10℃でも耐(た)えます。暑さにはとても弱いので、夏の栽培(さいばい)は、温度を下げたり、強い光をさえぎって栽培しています。」と記載があり、成長期間に気温が高すぎると生産量が下がり、価格が高くなってしまうようです。

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図5. トマトの値動きと3か月前の気温の関係
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図6. ほうれんそうの値動きと1か月前の気温の関係

3.円の相場と野菜の値動きの関係

今年はドルの価値が高騰し、24年ぶりの歴史的な円安となっています。卸売価格にはどう影響するのでしょうか?為替が大きく変化した2022年1月から9月の野菜の月末卸売価格と東京市場の月末ドル円相場の推移を可視化したものを図7に示します。

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図7. 野菜の卸売価格とドル円相場の推移

トマトの値段は若干上がっているように見えますが、そのほかの野菜では関わっているわけではなさそうです。実際に、日本の主要な野菜は食料自給率が高く[9]、為替に大きく影響を受けないことがわかりました。

4.原油価格と野菜の値動きの関係

原油価格と野菜の卸売価格にはどのような関係があるのでしょうか。経済産業省の石油統計から取得した2021年1月~12月の原油価格と野菜の月末卸売価格の相関と推移を表2、図8に示します。

表2. 野菜の値動きと原油価格の相互相関係数

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図8. 野菜の卸売価格と原油価格の推移

原油価格との相互相関係数はどの野菜も低く、グラフの傾向も異なることから、原油価格と野菜の値動きには関わりがなさそうです。この理由を考えていきます。施設栽培や農業機械などでは原油が使用されています[10]。また、ハウスを構成するビニールの生産にも化石燃料が使われているため、農業は原油価格の影響をかなり受けるようです。しかし、農産物流通の過半を占める市場取引では、農業者が直接価格交渉を行っていないこと[11]から、原油価格が高騰しても野菜の値段に価格転嫁することは難しく、農家の方の経営に負担がかかっているそうです。このような事情から、原油価格は野菜の生産に影響していますが、卸売価格とは直接関わっているわけではないようです。

終わりに

今回は野菜の値動きというテーマで、野菜の卸売価格がどの要因によって変動しているかを見ていきました。その結果、野菜の値動きは為替や原油価格には影響を受けず、流通量によって変動し、一部の野菜では種まき・成長時期の気温の影響を受けていることが分かりました。このようにデータの変動要因を常に意識しながら分析・観察を行っていきたいものです。来年の夏は冷涼で豊作になることを願います。

参考文献・サイト

執筆者プロフィール

岩名 紘基(いわな ひろき)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2022年4月NEC新卒入社。現在は医療事業、製造業を中心とした分析業務に従事。

執筆者プロフィール

田屋 侑希(たや ゆき)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2022年4月NEC新卒入社。現在はデータサイエンス教材作成、自然言語処理を中心としたテキスト分析業務に従事。

執筆者プロフィール

佐藤 剛(さとう ごう)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2022年4月NEC新卒入社。現在は製造業、物流業を中心とした分析業務に従事。

執筆者プロフィール

谷名 香里(たにな かおり)
AI・アナリティクス事業統括部 データサイエンスコンピテンシーセンター

2022年4月NEC新卒入社。現在は製造業、エネルギー業を中心とした分析業務に従事。

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