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仲間と支え合い、未来へつなぐ
第10回ボッチャ甲子園の物語

特別支援学校などに通う中学生・高校生がチームを結成し、日本一を目指す「全国ボッチャ選抜甲子園」。記念すべき10回目となる2025年の大会は、8月7日に東京・墨田区のひがしんアリーナに全国から16チームが集まって決勝大会が開催されました。

真夏に開催されるもう一つの甲子園大会を、NECは大会スポンサーとして支えています。ボッチャを応援することが、NECがPurpose(存在意義)の中でうたう「誰もが人間性を十分に発揮できる社会の実現」に貢献できると考えているからです。そこで、予選で敗退してしまった初参加の学校を、決勝大会のエキシビジョンマッチに招待しています。今大会は、長野県の稲荷山養護学校が参加してくれました。

長野県稲荷山養護学校のみなさん
NECと日本ボッチャ協会のスタッフが長野県稲荷山養護学校を訪問。「全国ボッチャ選抜甲子園」に挑戦する参加校の応援企画で、生徒たちと交流しながらボッチャの楽しさを共有した。

長野県稲荷山養護学校の挑戦〜エキシビジョンマッチにかけた思い

エキシビジョンマッチの様子
全国ボッチャ選抜甲子園内で実施されたエキシビジョンマッチ。
狙いを定め、一投に全てを込める。全国ボッチャ選抜甲子園エキシビジョンマッチで、キャプテン・高橋美羽さんの渾身の一球に、会場中が息を呑んだ。

大きく息を吸い込んで投じた最後の一球。高橋美羽さんが投げた赤のボールは、ジャックボール(目標球)の手前にあった青のボールに、まっすぐに向かっていました。誰もが「ナイスボール!」と感じたその瞬間、ジャックボールの少し手前でバウンドしてわずかに左にそれました。

試合終了後には、思わず悔し涙が。それまで狙い通りの投球を続けていた高橋さんは、最後の一投だけ悔いの残るものとなりました。

この試合は、決勝戦の直前に開催されたエキシビジョンマッチの「NECプレゼンツ 炎のチャレンジマッチ」です。NECが稲荷山養護学校を招待し、ボッチャ日本代表チーム「火ノ玉ジャパン」の唐司あみ選手と江崎駿選手も参加しました。

手をあげ笑顔で応える目崎翔大さん
励ましの言葉に笑顔を見せる大井悠さん

選手コールに観客の声援が響く中、手をあげ笑顔で応える目崎翔大さん(左)。
ゲストのTIMレッド吉田さんから肩に手を添えられ、励ましの言葉に笑顔を見せる大井悠さん(右)。

涙を流した高橋さんは、それでも「はじめてみんなの前で試合ができて、とても面白かった」。同じくエキシビジョンマッチに出場した目崎翔大さんは、「来年に向けて頑張っていきたい」と決意を新たにしていました。他チームの試合を熱心に観察していた大井悠さんは「仲間とコミュニケーションを取ることがすごく大切だと感じました」と、多くの収穫が得られたようでした。

ボッチャが地域の人々をつなぐ〜多様性を受け入れるスポーツの力

稲荷山養護学校でボッチャが部活動として始まったのは、2024年。千曲市と隣の坂城町では、スポーツの指導を学校外の人材に委託する地域スポーツクラブ型への移行を進めています。そのなかで、障がいの有無に関係なく誰でも楽しめるスポーツとして、ボッチャ専門部が発足しました。現在、部員の数は20人。うち9人は稲荷山養護学校以外の中学生です。

小林京子さん
千曲市ボッチャ協会会長であり、選手のコーチも務める小林京子さん。

千曲市ボッチャ協会の会長で、ボッチャ専門部のコーチを担当している小林京子さんは、こう話します。

「他の学校に通う中学生たちは、最初は、障がいのある人とどう接したらいいのかわからない感じでした。それが次第に『普通にしたらいいんだ』とわかってきて、落ちたボールを拾ってあげたり、車いすを押してあげたり。『共生社会の実現』は、同じ空間にいてはじめて、自然に実現するんだなと感じました」

当初は基本的な技術やルールを学ぶことが多かったのが、「ボッチャ甲子園に出場する」という目標ができて、子どもたちの目の色が変わりました。

ボッチャ甲子園は4人1チームで出場します。高橋さん、目崎さん、大井さん、山本さんで結成したチームは「Fox Boccias」と名付けました。稲荷山養護学校のシンボルであるキツネをキャラクターにしたデザインを高橋さんが描き、おそろいの黄色のTシャツがユニフォームです。

稲荷山養護学校に訪れた変化〜NECと日本ボッチャ協会の応援訪問

7月17日には、NECと日本ボッチャ協会が稲荷山養護学校で応援イベントを開催しました。

廣瀬選手からオンラインでアドバイスを受けるFox Bocciasの選手たち
NECボッチャ部メンバーからアドバイスを受けるFox Bocciasの選手たち

オンラインでつながった舞台。Fox Bocciasの選手たちは、モニター越しの廣瀬選手の言葉から新たな挑戦への力を得た(左)。
未来を切り拓くヒントはここに。NECボッチャ部のメンバーから直接アドバイスを受け、真剣な眼差しで学ぶFox Bocciasの選手たち(右)。

講師は、パリ2024パラリンピック競技大会で銅メダルを獲得した廣瀬隆喜選手。オンラインを通じてFox Bocciasと対話をした廣瀬選手は、「基本練習を繰り返すことが大事」とアドバイスを送りました。山本羽美さんからの「緊張した時はどうしますか?」との質問には、「適度に間を置いて、空気を吸い込むのではなく、息を吐くのを長くするといいですよ」と大舞台を経験した選手ならではの回答も。その後、NECボッチャ部や日本ボッチャ協会のスタッフも参加して、実践形式の練習を実施しました。

山本羽美さん
目崎翔大さん

マイクを手に、廣瀬選手へ真剣な質問を投げかける山本羽美さん(左)。
廣瀬選手との質疑を通じ、笑顔でやりとりを交わす目崎翔大さん(右)。

山本さんはボッチャというスポーツの奥深さに触れて、練習にのめり込むようになったそうです。目指すのはもちろん、来年のボッチャ甲子園の出場です。

さらに大きな目標もあります。2028年の全国障害者スポーツ大会は、長野県で開催されます。しかも、ボッチャの会場は稲荷山養護学校がある千曲市。山本さんは、地元開催の大会に「出場してみたい」と言います。

ボッチャを通じて、子どもたちは成長を続けています。目崎さんの母は、「ボッチャを通じていろんな経験ができて、気持ちの切り替えも上手にできるようになりました」。大井さんの父は「目標を持つことはとてもいいことだと感じています」と話しています。

教頭の傳田浩章先生は、こう言います。

「ご家族だけでなく、地域の方の協力も得てこうやってボッチャ甲子園の舞台に立つことができたのは、夢のようでした。みんなにとって忘れられない一日になりました」

Fox Bocciasのメンバーは、他の中学校に通う部員たちにも刺激を与えています。ボッチャ甲子園に向けて一生懸命に練習をしている姿を見て、他の部員たちも練習に熱中するようになりました。障がいの有無や地域の壁を超えて、ボッチャというスポーツが子どもたち自身による成長を手助けしています。

NECが目指す、誰もが人間性を十分に発揮できる社会の実現に向けて

日本ボッチャ協会の三浦裕子事務局長は、「障がいのある方、特に重度の障がい者が社会との関わり方にはまだまだ課題があります。誰もがスポーツに取り組めるようにボッチャを通じて社会環境の課題を解決していきたいとの想いで、NECさんと活動しています」と言います。

すでに、来年のボッチャ甲子園に向けての挑戦は始まっています。日々、練習に励む目崎さんに「今の目標は?」とたずねると、こう答えてくれました。

「ボッチャ甲子園で優勝します!」

NECとボッチャ
全国ボッチャ甲子園

NECはボッチャを通じて、誰もが輝ける社会の実現を目指している。

NECがPurpose(存在意義)に掲げる「誰もが人間性を十分に発揮できる社会の実現」。それは、「一緒があたり前の社会にする」を目指す日本ボッチャ協会の想いと共通したもの。NECは、今後もボッチャの応援を通じて、誰もが夢を抱き挑戦できる環境づくりに貢献していきます。

写真/越智貴雄(カンパラプレス)・文/西岡千史