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梶谷 俊介さん
キーパーソンインタビュー岡山トヨタ自動車株式会社代表取締役社長岡山県では、2021年に入り3月、7月と、すでに2回、岡山県民パラスポーツ大会が開催された。開催実現のベースになっているのが、「おかやまスポーツプロモーション研究会」の存在だ。「スポーツを生かして街を元気にする」というコンセプトのもと、地元企業、スポーツ関係者、行政、教育機関、報道機関などさまざまな領域の人が集まり、毎月1回勉強会が催されている。
研究会の設立メンバーであり、代表を務めるのが、岡山トヨタ自動車株式会社代表取締役社長の梶谷 俊介さんだ。梶谷さんは、岡山県民パラスポーツ大会開催に尽力したキーパーソンの1人。大会参加はもちろん、経済支援、運営の支援、地元企業への声かけなど、多方面に亘って貢献している。
「研究会を通じて、地元の商工会議所、経済同友会などが協力してくれました。その地域で岡山県民パラスポーツ大会が継続するためには、企業との連携はとても大切です」
企画発案者の上原大祐は、岡山県民パラスポーツ大会での地元企業との連携は、一つの大きな成功のカギだと語る。
「企業が参加してくれたことで、大会の演出などにも新しいアイデアが採用されました。プロのMCが入り、決勝戦ではチームの入場時に華やかにアナウンスがされて、より公式戦の印象が深まりました」
岡山県民パラスポーツ大会では、新たな挑戦もスタートしている。
「"フォレスティス"という新しいサービスを導入しました。皆さんが普段使っているLINEベースの仕組みで、新しいアプリをインストールすることなく、QRコードを読み取るだけで、イベントの情報の確認や、参加登録、入退場管理ができるようになります。また、Q&Aやアンケートをとったりと、参加者同士のコミュニケーションの場としても活用できます」
従来、パラスポーツのイベントを開催することは、企業のCSR活動の一環だった。
「県民大会と並行してこうした新しいアプリが開発・改良されることで、パラスポーツはCSRではなくビジネスツールにもなり得る。そういうメリットがあることが、岡山県民パラスポーツ大会で明確になりました」と上原は言う。
岡山県民パラスポーツ大会成功の立役者の1人である梶谷さんに、経済界がパラスポーツに果たす役割や効果について語ってもらった。
障がい者と健常者が目的を共有する
――岡山大学准教授の高岡敦史先生とともに、「おかやまスポーツプロモーション研究会」を設立されて、スポーツで街を活性化しようという活動を続けられていますね。
梶谷 俊介(以下、梶谷)●地元の商工会議所を中心に、さまざまな分野の方々が参加しています。もちろん、そこには岡山で活躍するスポーツクラブ関係者もいる。その中でパラスポーツにも取り組もうという流れがあります。
――梶谷さんがパラスポーツに携わったきっかけは、どんなことでしたか。
梶谷●2005年にスタートした岡山県でのスペシャルオリンピックス立ち上げに携わったのが最初です。現在は大会の賛助会員として支援を続けています。この活動を通して、障がい者と健常者の共生社会を意識するようになりました。
――スペシャルオリンピックスは、知的障がいのある人が参加するスポーツの競技会で、日頃の成果を発表する場ですね。その後、御社ではどのような取り組みをされているのでしょうか。
梶谷●弊社にある展示スペースを利用して、車いす卓球の岡紀彦選手や、車いす陸上の松永仁志選手など、岡山県出身のパラアスリートの方に講演会やデモンストレーションをしていただく機会を作っています。
――今年3月に岡山県民パラスポーツ大会を初めて開催されました。
研究会の副代表である高岡先生からお話がありました。研究会を通じて、いろんな人たちが参加できるということで、ぜひ、弊社も参画したいと手を挙げたんです。その背景には、やはり東京オリンピック・パラリンピック開催年という機運もありました。トヨタ自動車は東京大会のワールドワイドパートナーでもあり、パラリンピックへの取り組みや姿勢も、岡山にある弊社に届いています。それが後押しにもなっていますね。
――大会開催に当たって目指されたのは、どんなことでしょうか。
梶谷●将来的に、障がい者雇用を促進したいと考えています。障がい者と健常者が職場をともにして一緒に働く。障がいのある人たちがどのようなことを必要としているのか、彼らのパワーをどう生かしていただけるか。互いに自立した仲間として、一つの目標に共に向かって成し遂げていくということを、この岡山県民パラスポーツ大会で実感できるのではないかと思っていました。
多様性を実感し、地域社会に生かす
――第1回大会を経験されて、新たな発見などはありましたか。
梶谷●健常者には、障がい者に対して手を差し伸べるべき、という思い込みや先入観があったと思うんです。でも、そうではない。例えば、実施されたボッチャのゲームでは、障がい者の方が健常者よりもテクニックがあり勝利したということもありました。互いに学ぶところがたくさんあることを、改めて実感したんです。以前、車いす陸上の松永選手の講演会で、「互いにそれぞれの長所を補完し合いながらともに生きる」というお話をいただきましたが、この大会を経験したことでその真意が腑に落ちた。そういう気づきがありました。
――社員のみなさんの反応などはいかがでしたか。
梶谷●社員の中には、今回初めてパラスポーツに触れる、という人もいました。弊社では、大会前からボッチャのボールなどを準備して事前練習もしていたんです。大会当日は、さまざまな人との交流もあり非常に盛り上がりましてね、ボッチャを今後、弊社のイベントでも活用しようという話になっていますよ。
――参加者の多様性が岡山県民大会の特徴だったとか。
梶谷●そうなんです。研究会に参加している企業のほか、岡山県内にあるサッカー、バレーボール、卓球、バスケットボールなどのクラブ関係者もいらっしゃいました。また、岡山トヨペットにはレーシングチームがあるのですが、そのドライバーも参加しています。みなさん障がい者と真剣勝負して、「悔しい!」とか「嬉しい!」とか繰り広げていましたよ。弊社では、ゲームに参加するだけでなく、運営にも携わって一緒に大会を作り上げるお手伝いをさせていただきました。
――7月には第2回が開催されました。地元企業としてパラスポーツに携わることの価値や意義を、どのように感じられていますか。
梶谷●企業は地域社会の中で生きています。その地域社会には、実にさまざまな人が暮らしています。その多様性を、どう社会に生かしていくかということが地域企業に求められているのではないか。都道府県民パラスポーツ大会は、多様性を実感できる場です。地域社会のつながりが実現しますし、継続することで、それが広がっていく、強くなっていく可能性を秘めています。今は、まだ一部の社員しか体験できていません。今後は、それをどう岡山県内全体に広げていくか。そこにも力を入れていきたい。岡山県民パラスポーツ大会を継続するために、我々企業が果たすべき役割は大きいと感じています。
出会いから相互理解へ
――NECが取り組むパラスポーツ支援について、企業の一つとしてどのようにご覧になっていますか。
梶谷●まだスタートしたばかりの都道府県民パラスポーツ大会では、NECさんに運営面でリードしていただいています。しかしながら、いずれ岡山では自立して大会運営ができるようにしていきたいと思っています。
社会課題に企業がどう取り組むかということは、企業の規模を問わず向き合うべき問題です。NECさんが新しいアプリなど、社会に役立つシステムやツールを活用されていることはとても参考になりますね。また、社会貢献活動をきちんと会社の中で位置付けながら、それを対外的に発信していく姿勢もとても勉強になります。取り組みや姿勢、思いを共有していただき、今後も情報交換をさせていただきたいと思っています。
――今後、岡山県民パラスポーツ大会をどのように発展させていきたいとイメージされていますか。
梶谷●パラスポーツには、ボッチャだけでなく魅力あるスポーツがほかにもたくさんあります。研究会には、ブラインドサッカー関係者も所属していますが、ブラインドサッカーも、健常者がアイマスクを着用すれば、障がい者とともにフィールドプレーヤーとしてプレーできます。
――ブラインドサッカーは、もともとゴールキーパーやガイドとして健常者も参加するユニバーサルなスポーツでもありますよね。
梶谷●新しい価値を発見したり、知っていただくことにもつながります。ブラインドサッカーをはじめとして、新たなスポーツも取り入れていきたいですね。岡山県民パラスポーツ大会を通じて、互いに支え、支えられることが実感できると、暮らしやすい社会になっていくと確信しています。
――改めて、岡山県民パラスポーツ大会の持つ魅力は、どんなことだと感じていらっしゃいますか。
梶谷●非常にさまざまな人とつながれること、でしょうか。日頃は出会うことのない人がこの県民パラスポーツ大会を通じて出会い、相互理解を深めていく。そこが、この大会の最大の魅力だと思います。
長野県からスタートした都道府県民パラスポーツ大会は、回を重ねるごとに広がりを見せている。ボッチャの魅力も大会参加者に確実に伝わっている。岡山県民パラスポーツ大会に参加した後、「おかやまスポーツプロモーション研究会」の勉強会ではボッチャ大会が行われたという。
地元企業の参加に大きな手応えを感じた上原は、今後、地方の自治体や観光産業などともコラボレーションしたいと画策中だ。
「以前、秋田県のパラスポーツイベントで、観光列車1両を借り切って、車内でボッチャ大会をしたことがあります。参加者は、観光とボッチャをいっぺんに楽しめる。今後、例えば、地域の名刹とか、観光地で大会を開催するとか、そういうイベントを企画できたらさらに楽しいのではないかと思っています」
パラスポーツをベースに、新しい魅力もプラスする。パラスポーツにアプローチできる道筋をいくつも作ることでその発信力は増大されるはずだ。
都道府県民パラスポーツ大会が継続することで、社会にどんなメッセージを伝えたいと思っているのか。上原が語る。
「体育の授業でするスポーツ、つまり、オリンピックスポーツは、健常者しかできないけれども、パラスポーツは障がいがあっても、なくてもできるスポーツ。障がい者向けに開発されるものはニーズが少ないという発想ではなく、それは、障がいのない健常者にとっても役立つ、あるいは楽しめる要素である、ということをパラスポーツを通じて広めていきたいと考えています」
都道府県民パラスポーツ大会が全国各地で実施されることで、上原の考える理念が浸透していくことになる。
「パラスポーツを1人でも多くの人に知ってもらうこと、体験して楽しいと感じてもらうこと。それが人づくり、街づくりのベースになる。その先に、インクルーシブで、多様性のある社会へ発展することにつながっていくと思います」
都道府県民パラスポーツ大会は、共生社会を実現させるエンジンなのである。
梶谷 俊介(かじたに・しゅんすけ)
1957年、愛媛県生まれ。大阪大大学院工学研究科修了後、1987年に岡山トヨタ自動車株式会社に入社。2001年より、代表取締役社長。2021年に岡山経済同友会代表幹事に就任。日本自動車販売協会連合会位岡山県支部長、岡山県教育委員なども務める。2014年10月設立当初より「おかやまスポーツプロモーション研究会」代表。