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Special Talk

テクノロジーの可能性を拓く、
越境する「デザイン」

一人ひとり異なる眼の虹彩情報をグラフィックへと変換し、
オンリーワンのプロダクトをつくり出す「CODE PROJECT」。
デザイナーが主体となって始まった異色の同プロジェクトは、さまざまな「越境」により、
テクノロジーの新たな可能性を見出しました。このプロジェクトを牽引したデザイナーが語る、
ビジネスのあり方やデザインの考え方が変わりゆくなかでの、これからのデザインと越境とはーー

友岡 由輝
友岡 由輝
NEC
デザインセンター

生体情報に「美」を見出すプロジェクト

―― 友岡さんは生体情報の新たな活用に目を向けた「CODE PROJECT」を牽引されていますが、このプロジェクトでは具体的にどういったことをおこなっていたのでしょうか。

「CODE PROJECT」は、これまで個人の特定や認証のために使われてきた生体情報を、一人ひとりにパーソナライズされたものづくりのために活用するための取り組みです。なかでも今回は目の「虹彩」に着目し、撮影によって得られた虹彩情報をアルゴリズムによって固有のグラフィックパターンへと変換し、ファッションアイテムやアクセサリーへと落とし込んでいます。具体的には江戸小紋 廣瀬染工場四代目の廣瀬雄一氏、ジュエリーブランド adachiyukari.、そして耐熱ガラスメーカーHARIO Lampwork Factoryの方々とコラボレーションをおこない、唯一無二のオリジナル作品を制作し、その成果は米国テキサス州オースティンで開催される世界最大級のクリエイティブ・ビジネスの融合イベント「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2019」で発表しました。
そして、このような人それぞれ異なる固有の情報を美しいアクセサリーというオブジェクトに変換するという作品を通して、人が生まれながらに持つ個性や多様性に目を向け、その違いが生み出す美しさを再認識するきっかけとなれば、という思いも込めた取り組みとなっています。

―― 目の虹彩というとセキュリティの領域で活用されている印象が強く、ファッションアイテムへの活用はかなり珍しいですよね。コラボレーションをおこなった職人の方々や、SXSWの来場者からはどのような反響がありましたか?

「虹彩情報をグラフィックに変換する」といってもわかりづらいですが、実際に資料やデモを見せるとすごく面白いと、興味を持っていただけました。SXSWではそもそもジュエリーを出展するようなブースが少ないので、立ち止まってくださる方も多くて。会場では実際に来場者の虹彩を撮影してグラフィックパターンを生成し、ステッカーに印刷して配布もおこなったんです。メーカーの方々もたくさんいらしていて、これなら自動車や家具のファブリックなどにも使えるかもと意見をいただけたのはうれしかったですね。

―― 単にプロダクトを売るだけでなく、新たな出会いにもつながったわけですね。そもそもこのプロジェクトはどのように始まったのでしょうか。

NECが持っている技術を活用し、デザインの観点から新しい価値を生み出すことを目指して始まりました。最初は面白そうな技術がないか研究所の方にヒアリングしてまわりました。そして、生体認証はNECが力を入れている技術でもあったので、これがいいんじゃないか、と。ユーザーが自分の好みに合わせてカスタマイズしたスニーカーをつくることができたり、肌の状態を分析して最適な化粧品が提案されたり、パーソナライズされたサービスは大きなトレンドになっていたので、虹彩の活用によって付加価値の高い商品が提供できるのではと考えました。顔認証と比べると虹彩認証はまだマイナーな技術ですが、実際に虹彩の画像を見てみるとどこか神秘的でもあり、すごく魅力的だったんです。顔は一生を通じて変わっていくのに虹彩は生まれてから死ぬまで変わらないというのも面白かった。虹彩認証を扱う事業部からも興味を持ってもらえて、事業部のメンバーもプロジェクトにアサインされたことで社内のコラボレーションもスムーズに進みましたね。これまではセキュリティ系の“堅い”取り組みが多かった事業部も新しい領域へと進出できて、win-winの関係が築けたのだと思います。

―― デザイナー主体のプロジェクトであることや、SXSWへ出展することなど、これまでにない取り組みばかりで困難も多かったのではと思います。どのような点で苦労されましたか?

SXSWへの出展はNECとしても初めての挑戦だったため、前例がないことばかりで苦戦しました。アメリカのSXSWの事務局とのやり取りから製品の輸出管理など自分たちで進めなければなりませんし、社内にも相談できる人が少ない。SXSWに出展する方々が集まるミートアップイベントなどに参加して、情報交換をしたり、知り合いをつくって相談したり、社外の方とのコミュニケーションも増やしていくようにしました。

生体情報に「美」を見出すプロジェクト 生体情報に「美」を見出すプロジェクト

デザインにおける「越境」の連続

―― 「CODE PROJECT」に限らず、デザインにおける「越境」の機会が増えていますよね。友岡さんご自身の経歴を振り返ってみていかがでしょうか。

私は入社してしばらくは携帯電話のプロダクトデザインに携わっていました。当時は折りたたみ携帯電話の全盛期で、各社が半年ごとに新しい機種をリリースしているような状況で。それでも、すぐに機種変更されるのではなく愛着を持って長く使ってもらえるようなデザインを心がけていました。その後、業務用システムのUIデザインも担当するようになり、そこからどんどん領域が広がっていったように思います。業務用システムは使いやすさがビジネスの生産性や作業効率に直結してしまう。使いやすさを追求することはもちろんのこと、ユーザーのモチベーションが上がるようなグラフィックデザインも重要となることを知りました。

―― プロダクトからUI/UXへと広がっていったわけですね。

そのあとはFinTechサービスを提供する「brees」という新会社を立ち上げるプロジェクトに参画しました。会社のロゴデザインやアプリのデザインはもちろんのこと、どんなサービスがいいのか検討する段階から携わっていて。アプリ開発からウェブサイト、プロモーション動画などあらゆるプロセスのデザインを担当していました。さらには本社ビルのオフィスをリニューアルするプロジェクトで空間デザインを手掛けるようになり、現在は「BASE」という社内のコワーキングスペースをつくるプロジェクトに携わっています。今回も空間デザインや什器設計だけではなくて、最初のコンセプトづくりから参加していますね。

テクノロジーの可能性を拓く、越境する「デザイン」 テクノロジーの可能性を拓く、越境する「デザイン」

―― プロダクトからUI/UXへと広がっていったわけですね。

そのあとはFinTechサービスを提供する「brees」という新会社を立ち上げるプロジェクトに参画しました。会社のロゴデザインやアプリのデザインはもちろんのこと、どんなサービスがいいのか検討する段階から携わっていて。アプリ開発からウェブサイト、プロモーション動画などあらゆるプロセスのデザインを担当していました。さらには本社ビルのオフィスをリニューアルするプロジェクトで空間デザインを手掛けるようになり、現在は「BASE」という社内のコワーキングスペースをつくるプロジェクトに携わっています。今回も空間デザインや什器設計だけではなくて、最初のコンセプトづくりから参加していますね。

―― まさに「越境」を体現されているなと感じます。領域を横断しながら活動するうえで心がけていることはありますか?

大前提として、デザイナーの役割は「人」のことを重視して物事を考えることだと思っています。ユーザーにとって使いやすいことはもちろん重要ですし、その人にとって魅力のあるプロダクトやサービスになっているかどうか、自分が魅力だと感じていることがきちんと伝わっているかどうかは常に意識していますね。異なる領域で活動するうえでは自分一人ではできないことがたくさんあるので、役割分担をしてさまざまな人と協力していくことが重要だと思っています。例えばオフィスのリニューアルをおこなう際は、これまでのオフィスがどんな課題を抱えていて、人々がどんな働き方をしたいのか丹念にヒアリングを重ねていきました。進めていくなかで、インタビューや分析が得意な人や空間設計が得意な人などに声をかけてメンバーそれぞれの長所を生かせるチームをつくって取り組みました。

―― これまでと異なる領域で新たなプロジェクトに携わる際に、特に苦労される点などはあるのでしょうか。

新しいスキルや、専門が異なるメンバー間での新しい「共通言語」を身につける部分ではやはり苦労はありますね。ただ、新しいことにチャレンジしたり新しい環境に身をおくことはすごくワクワクすることでもあって、達成感も非常に大きいです。お互いの得意領域を尊重しながら一つの目標に向かって取り組んでいくことで達成感も分かち合えるし、越境の価値が発揮されるのかなと思っています。

 プロダクトからUI/UXへと広がっていったわけですね。  プロダクトからUI/UXへと広がっていったわけですね。

デザインと社会の関係性が変わる

―― 「デザイン思考」や「デザイン経営」など、近年ビジネスへデザインの視点が持ち込まれることも増えています。いつ頃からムードが変化してきたと思われますか?

NECでは2014年頃から潮目が変わったように思います。その頃からデザイナーを事業開発に取り込む動きが生まれはじめ、私自身もその先駆けとして、事業開発の部署に移り「brees」の開発に携わりました。結果的にデザイナーがビジネスに参画する価値が認められるようになり、翌2015年から続々とデザイナーが事業開発にも携わるようになっていきました。

―― 「デザイン」の捉えられ方も変わっていくものなのでしょうか。

デザインの位置づけがどんどん変わってきていますよね。例えばぼくが携帯電話のデザインを担当していた時は、いわゆる「見た目」こそがデザインだと思われていて、表面的な見え方を差異化することに重きが置かれていました。それが、徐々に見た目だけでなく使い方など中身も重視されるようになり、デザイン思考のような言葉が生まれたことでビジネス開発や事業開発に携わる人々の考え方も変わっていきました。今では社会にとってもデザインは重要なものだと考えられていますし、その領域もかなり広がりましたよね。

―― 実際に事業開発に携わるなかではどんな役割を担っていますか?

デザイナーがプロジェクトに参画することで、情報やメンバーが考えていることを可視化できることが強みだと思っています。プロジェクト内で議論を重ねていくと、いつの間にか“空中戦”になり、見えないところでお互いの認識がズレてしまっていることが少なくない。デザイナーがいると、図や絵を活用することで議論を整理し、みんなの足並みを揃えて議論を精査できるのかなと。加えて、やはりユーザーのことを一番考えるのがデザイナーの役割でもあるので、ユーザー目線の考え方を提案することも重要です。ビジネスの理屈やつくり手の考え方ではなくて、ユーザーの立場へと議論を引き戻せる。

デザインと社会の関係性が変わる デザインと社会の関係性が変わる

―― 新しく入社されたりプロジェクトへ参画されたりする若いデザイナーの方々は、デザインへの意識もアップデートされているものなのでしょうか。

もちろん私が学生の頃とは意識が異なっていると思うのですが、誰に何をどう伝えるか、どう感じてもらいたいか考えている点は今も昔も変わっていません。ただ、メンバーの多様性は高くなっていますね。かつては絵を描ける人や美大を卒業した人がデザイナーだと考えられていましたが、今は心理学を学んでいたような人やいろいろなバックグラウンドを持った人がいます。一方では依然としてデザイナーに「絵を描けること」を期待している人も少なくなく、「デザイナー」のあり方をアップデートしていく必要があるのかもしれません。

―― これからもどんどんデザインの「越境」は重要性を増していきそうですね。最後に、友岡さんにとっての「社会価値創造」がどんなものか教えていただけないでしょうか。

NECは、できたらすごいを社会に創る会社です。「すごい」と思うということは「心が動く」ということです。ユーザーのことを考えることで、欲しい・使ってみたいと思ってもらえること、その人の心を動かせるようなものを社会に届けることがデザイナーにとっての「社会価値創造」だと考えています。私自身としても、引き続き領域に縛られず、何にでも柔軟に取り組んでいこうと思っています。



※株式会社ブリースコーポレーション
NECと株式会社三井住友銀行の共同出資により2014年に設立。決済プラットフォームを提供する
http://www.brees.co.jp/

	新しく入社されたりプロジェクトへ参画されたりする若いデザイナーの方々は、デザインへの意識もアップデートされているものなのでしょうか。  新しく入社されたりプロジェクトへ参画されたりする若いデザイナーの方々は、デザインへの意識もアップデートされているものなのでしょうか。