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生成AI時代のデータサイエンス・AI教育~人間にしかできないこと?
WiDS TOKYO @ Otsuma Women’s University~Next Generationへの招待状〜 第2回シンポジウム パネルディスカッション開催日:2026年3月13日
会場:ウイングアーク1st株式会社
- モデレータ
小野 陽子 氏(大妻女子大学 WiDS TOKYO@Otsuma Women’s Universityアンバサダー) - 登壇者
岡村 直子氏(昭和音楽大学教授、学長特命補佐)
ドゥラゴ 英理花氏(聖徳学園中学・高等学校)
齊藤敦美(NECアナリティクスコンサルティング統括部)

2026年3月13日、「生成AI時代のデータサイエンス・AI教育 〜人間にしかできないこと?〜」をテーマに、「WiDS TOKYO @ Otsuma Women’s University」第2回シンポジウムが開催された。WiDSは、データサイエンスの分野に男女を問わず多くの人々、特に若い世代をいざない(inspire)、学びの機会を提供し(educate)、また支援する(support)することを目的として、米国スタンフォード大学が始めた世界的なプロジェクトで、日本でも2018年度以降、産学官の連携を得て行われている。大妻女子大学としては2回目の本イベントでは、ライトニングトーク(※)やコンペティションの授賞式に加え、生成AIが普及する現代において、技術と人間がいかに共生し、より良い未来を築けるかを議論するパネルディスカッションが行われた。
本記事では、大学教授、学校教諭、そして現役データサイエンティストという異なる立場から、データサイエンスの未来と「人間ならではの役割」について語り合ったセッションの模様をレポートする。
- ※:短い時間で自身のアイディアや抱負を発表し、その内容および表現力を競う
企業間取引きを自律的に行う「交渉AI」が拓く未来

パネルディスカッションに先立ち、NECの齊藤敦美が「生成AIの最新技術 AIエージェントと交渉AIの世界」と題した講演を行った。
齊藤は、東京工業大学(現東京科学大)大学院に在学中にAIの可能性に触れ、現在はNECで「交渉AI」の開発に携わっている。
NECは交渉AIを企業間取引のサプライチェーン(原材料や部品の調達から販売に至るまでの一連の流れ)に活用する開発に取り組んでいる。この技術が実現すると、どのような世界が訪れるのだろうか。
「例えば、商品の原材料を取引する際、『部品Aを10個、11月13日に納品してほしい』とリクエストしたとします。これに対し取引先の担当者から『それは無理です。11月15日納品なら可能です』と回答が来ました。この場合、人間同士だと上司に相談したり、条件を変えたりして交渉を続け、結論が出るまでに数日かかってしまいます。ここに交渉AIを使うと、取引条件をあらゆるパターンで自動計算し、即座に『部品Aを5個、11月13日に納品可能ですか?』と妥協案を生成してくれます。このような形で交渉時間を短縮し、最良の条件での取引実行を支援してくれるのが交渉AIです」と、齊藤は企業間取引きで交渉AIを活用した際の事例と、その効果を説明した。


交渉AIの説明を終えた齊藤は、「AIが考えて、交渉して、判断して動いてくれるこれからの時代に、人間らしい事、人間にしかできない事はとても大切です。人間らしいってどういうことなのか、目の前の課題にしっかり向き合い、頭をひねりながらデータサイエンスと仲良くなっていただけるとうれしいです」とのシンポジウム参加者にメッセージを投げかけ、講演を締めくくった。
生成AI時代のデータサイエンス・AI教育に関するパネルディスカッション
続いて開催されたパネルディスカッションの冒頭で、モデレータの小野陽子氏はスタンフォード大学のスザンヌ・ローブ教授から提示されたコメントを踏まえ、次の3つのテーマをもとに話を深めたいと、議論の方向性を提示した。
【3つのテーマ】
- ①これからの世代が考えなければいけないことってなんだろう
- ②データサイエンス/AI教育・研究の⽅向性で気にするべきことは何か
- ③社会の側がデータサイエンス/AIを利活⽤する際に留意すべきこと
失敗を失敗と思わず、そこで得た学びを将来へつなげられるかが大事

まず、小野氏は、「これからの世代が考えなければいけないことってなんだろう」というテーマに寄せられた「経験・失敗を通じた学び」というコメントを取り上げ、企業現場の状況について齊藤に意見を求めた。
「最近の新入社員世代は、失敗をしないようにひとつひとつ物事を確実に進める傾向が強いという印象があります。私は、頭より先に手が動いてしまい、結果的に手戻りが発生してしまった経験から、最近は『お客様の課題は何か』に立ち戻ってから仕事に臨むよう心がけています」(齊藤)
ドゥラゴ英理花氏は「当校では失敗をみんなで祝う日を設け、失敗を失敗と思わず、将来につなげられる形に方向転換するための教育を実践しています」と話す。また、昭和音楽大学教授の岡村直子氏は「チャレンジする際に起きる間違いを失敗と考えず、新しいことに対するワクワクを楽しむ感性を大切にしてほしい」と失敗の大切さについて言及した。
AIに「倫理的な問題がないか」の判断を委ねることは難しい

次に「人間らしさ・倫理観の重要性」を取り上げた小野氏は、交渉AIを例にあげ、「最終的にはAI同士の交渉になるのか」と齊藤に質問した。
この疑問に対して「将来的にはAI同士が交渉を行うことになりますが、まだ先の話だと思います。なぜなら『倫理的な問題がないか』に対し、現時点でAIが適切な解を出すことは難しく、人間による判断が求められるからです」と齊藤が答えると、「AI同士の自動交渉が行われる時代には、学生時代の勉強が古びてしまうので“学び直し”が必要ではないか」と、小野氏が疑問を投げかけた。これにドゥラゴ氏が「倫理観や道徳観は学び直すのではなく一番大切な軸として学生の頃から持つべきで、それがあってこそ生成AIがもたらす変化を楽しめるのではないか」との考えを示した。
データサイエンティストには「わからないを受け入れる力」が必要
続いては「データサイエンス/AI教育・研究の⽅向性で気にするべきことは何か」というテーマに寄せられたコメントから「文理融合」を取り上げた。小野氏は、「データサイエンスは理系と認知されがちですが、企業でも同様でしょうか」と、齊藤に質問した。
「重要なのは数学アレルギーを持たないことです。データに向き合うとき、統計学や数式が必須となるからです。ただし、文系・理系は関係ないので垣根をなくした方が良いと思います」と齊藤が答えると、「探究型学習を通じて『どうやって日常の文脈につなげられるか』という興味関心を持たせることが、数学を嫌いにさせないポイント」とドゥラゴ氏が教育的視点で話を受けた。

一方、岡村氏は「今後、大量のデータや情報の中から人々は適切な判断を求められる時代になります。その時、理系だけではなく歴史や法律、経済、芸術などリベラルアーツ的素養を兼ね備えることが大事だと思います」と話した。
齊藤は、「AIやデータサイエンスに携わると『わからないを受け入れる力』が必要だと感じます。文系・理系は得意分野の違いからお互いに「わからない」と距離を置きがちです。『わからない』を楽しむこと、文理分断の壁をなくすことにつながるかもしれないと、お話を聞いて思いました」と、コメントした。
災害支援におけるデータサイエンス/AI利活用の可能性

続いて「社会の側がデータサイエンス/AIを利活⽤する際に留意すべきこと」というテーマに寄せられた「社会基盤としてのAI」というコメントが紹介された。
小野氏が災害支援時のデータ活用について齊藤に意見を求めると、「東日本大震災で課題となった『帰宅困難者支援』をAIで考える案件に携わりました。そのときはデータが少なかったため『データ拡張』という手法を採用しました。しかし、これは単一シナリオを仮定したシミュレーションの域を出ないので、今後は生成AIなどを活用して様々なパターンを網羅的に考慮しながら災害時のあるべき姿を考えなければならないと感じました。また、災害データを扱う中でデータサイエンティストには、数式で表せない感情の視点と、データという冷静な視点の両方を併せ持つことが大切だと思いました」と、社会基盤におけるAI活用に関する持論を語った。
データサイエンティストは、教育と技術、人間の感性を融合させる存在へ

多様な議論を通じて「失敗を恐れない」「わからないことを楽しむ」「文理の枠を超えて俯瞰する」といった人間の資質こそが、AIを使いこなす鍵になることが見えてきた。技術の目的が「人をハッピーにすること」という原点を忘れず、教育と技術、そして人間の感性を融合させることが、生成AI時代のデータサイエンティストに求められるのではないだろうか。
(プロフィール)
NEC アナリティクスコンサルティング統括部
齊藤 敦美
千葉県出身。東京工業大学(現東京科学大)・大学院で原子核物理学研究に従事。産業技術総合研究所人工知能研究センターへのインターンでAI/データサイエンスと出会う。2021年にNEC入社。アナリティクスコンサルティング統括部に属するデータサイエンティストとして生成AIを活用した企業の課題解決業務に取り組んでいる。