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AI時代の経営企画とは? データドリブン経営で実現する製造業の企業変革
製造業 経営企画サミット2026レポート【2026.8.19】
カテゴリ:企業変革データドリブン経営AX/AI
不確実性が増す市場環境やAI技術の急速な発展に伴い、製造業は今、大きな変革期を迎えています。
NECではこのほど、ベイマークコンサルティング合同会社代表の宮地伸二氏(前・AGC株式会社 代表取締役兼副社長執行役員 CFO)をゲストスピーカーとしてお招きし、「製造業 経営企画サミット2026」と題したウェビナーを開催いたしました。
本レポートでは、企業の持続的な価値向上に向けた「企業変革」「データドリブン経営」「AI時代の経営企画のあり方」など、特に注目度の高いテーマについてご紹介いたします。
【目次】
1.企業変革と経営企画の役割

ベイマークコンサルティング合同会社 代表/
前・AGC株式会社 代表取締役 兼 副社長執行役員 CFO 宮地伸二氏
4期連続の大幅減益からの企業変革
私はAGCでCFOおよび経営企画を担当し、企業変革や事業ポートフォリオ改革を推進してきました。本日は、その経験を踏まえ、企業変革とAI時代における経営企画の役割についてお話しします。
AGCは建築用ガラスや自動車用ガラスを祖業とする企業ですが、現在では化学、電子、ライフサイエンスなど幅広い事業を展開しています。しかし、2010年前後には液晶ディスプレイ用ガラス事業への依存度が高まり、市場環境の急激な変化によって4期連続の大幅減益という厳しい経営状況を経験しました。この危機をきっかけに、自社の本当の強みは何かを改めて見直し、企業変革に取り組みました。
当初は「ガラス会社」という意識が強くありましたが、議論を重ねる中で、AGCの競争力はガラスそのものではなく、無機・有機材料を組み合わせた材料技術にあるという結論に至りました。
この考え方に基づき、10年後を見据えた長期ビジョンを策定し、事業ポートフォリオ改革を進めました。既存のコア事業は安定的なキャッシュを創出する役割を担い、その利益をライフサイエンスや電子材料などの成長事業へ積極的に投資する方針を明確にしました。また、不足する技術についてはM&Aを活用し、AGCがベストオーナーとは言えない事業については売却することで、経営資源を成長分野へ集中させました。
企業変革を進める際には、市場から短期的な利益やROEの改善を求められる一方で、製造業としては長期的な研究開発や設備投資も継続しなければなりませんでした。短期的な成果と長期的な企業価値向上の両立は容易ではありませんが、将来の成長を実現するためには長期的な視点を持ち続けることが重要です。
「鳥の目」「虫の目」「魚の目」を重視
経営企画の役割として私が重視しているのは、「鳥の目」「虫の目」「魚の目」という三つの視点です。「鳥の目」は企業全体を俯瞰し、経営資源の最適配分を考える視点です。「虫の目」は現場を細かく観察し、事業や業務の実態を正確に把握する視点です。そして「魚の目」は市場や社会、技術の変化といった大きな流れを読み取り、将来を見据えて経営判断を行う視点です。経営企画には、この三つの視点を持ちながら経営者を支えることが求められます。
また、経営者には成功体験や思い込みによるバイアスが生じることがあります。事業責任者も、自分の事業に対して当事者意識が強いからこそ、客観的な判断が難しくなる場合があります。そのような時に経営企画は、データや事実に基づいて客観的な分析を行い、必要であれば経営者に異なる意見を示すことも重要な役割です。経営企画は経営者のイエスマンではなく、企業価値向上のために最適な意思決定を支援する参謀であるべきだと考えています。
事業ポートフォリオ改革を進めるためには、明確な経営ビジョンを示すことが重要です。その上で、各事業の収益性や将来性を客観的に評価し、自社が保有し続けるべき事業なのか、それとも他社へ譲渡した方が価値を高められるのかという「ベストオーナー」の視点で判断する必要があります。そのためには、評価制度や組織体制も経営戦略と整合させ、経営者自身が必要な決断を下す覚悟を持つことが不可欠です。

企業変革には人材と企業文化も極めて重要
企業変革は戦略だけでは実現できません。変革を支える人材と企業文化も極めて重要です。AGCでは創業以来の挑戦する精神を大切にしながら、人材育成やエンゲージメント向上にも継続して取り組んできました。グローバルでタウンホールミーティングを実施し、社員との対話を重ねることで、変革を全社で推進する文化づくりを進めました。
AI時代になると、情報収集や資料作成、定型的な分析業務はAIが担うようになります。
しかし、企業の将来像を描き、どのような事業へ投資し、どのような企業へ変革していくのかを構想することは、人間にしかできない仕事です。AIは意思決定を支援する重要なツールになりますが、企業変革を実現するためには、経営企画が構想力、分析力、実行力を持ち、経営者とともに企業価値向上を推進していくことがこれまで以上に重要になると考えています。

2.NECのデータドリブン経営による経営変革と意思決定の進化~AI Native Companyに向けた実践~

日本電気株式会社 コーポレートIT・AIイノベーション部門
エグゼクティブプロフェッショナル(クライアントゼロ) 天野 昌彦
データドリブンで正しい意思決定へ
私は、NECが2018年から取り組んできたデータドリブン経営と、現在推進しているAIを活用した経営マネジメント変革についてご紹介します。
NECは、かつて半導体やパソコン、携帯電話など幅広い事業を展開していましたが、市場環境の変化とともに収益性が低下し、2011年には大きな経営危機を経験しました。その後、事業ポートフォリオを見直し、現在はITサービスと社会インフラを中核とする企業へ転換しています。2018年からは新たな中期経営計画のもと、カルチャー改革、働き方改革、経営改革を一体で推進し、2021年にはこれらの変革を統括するトランスフォーメーションオフィスを社長直下に設置しました。
その変革の中心となったのがデータドリブン経営です。従来のNECでは、現場から経営層へ報告が上がる過程で情報が加工され、現場で起きている実態が十分に伝わらないという課題がありました。業績が悪い案件は「頑張ります」という表現で報告され、逆に好調な案件は目立ちすぎないように調整されることもありました。このような状況では、経営層が正しい意思決定を行うことは困難です。
「経営コックピット」を構築
そこで私たちは、経営層から現場まで全社員が同じデータを見ながら議論できる環境を整備しました。事実を共通認識として持つことで、感覚や経験ではなくデータに基づいて意思決定を行う文化を定着させることを目指しました。
具体的には、各CxOが必要とする情報をまとめた約100種類の経営ダッシュボードを整備し、それらを集約した「経営コックピット」を構築しました。経営幹部の執務室には大型ディスプレイを設置し、常に経営指標が目に入る環境を整えています。重要なのは、報告を待つのではなく、経営層自らがリアルタイムで状況を把握し、必要な対応を迅速に判断できる仕組みをつくることです。

代表的な取り組みの一つがKFPプロジェクト(経営・ファイナンスプロセス刷新プロジェクト)です。受注情報、価格情報、商品コードを全社で標準化し、商談プロセスを統一しました。その結果、実際の販売価格と基準価格との差異を分析できるようになり、採算性の低い案件や価格戦略上の課題が明確になりました。この取り組みによって粗利益率は約5.5ポイント改善し、営業利益では約1,100億円規模の効果を生み出しました。
また、棚卸資産についても全社で可視化を進めました。従来は各部門が個別に管理していたため、全社最適の視点で管理することが難しい状況でしたが、データを統合して分析することで在庫の適正化が進み、約600億円の棚卸資産削減につながりました。
経営改革では、財務指標だけではなく、人材に関する指標も重視しています。従業員エンゲージメントを重要な経営KPIとして設定し、組織ごとの結果を全社員へ公開しました。各部門が自ら課題を把握し、改善活動を進めた結果、エンゲージメントスコアは大きく向上し、サーベイへの回答率も約30%から約90%まで改善しました。企業変革を実現するためには、社員一人ひとりが主体的に変革へ参加することが重要だと考えています。
AIを活用した経営マネジメント
現在は、データドリブン経営をさらに発展させ、AIを活用した経営マネジメントへ取り組んでいます。経営コックピットには「CxO AI」を実装し、各CxOの立場から毎日経営データを分析し、改善施策を提案しています。また、「部門AIコックピット」では、業績予測、異常検知、経営状況の要約、改善提案などをAIが自動的に実施し、部門長の意思決定を支援しています。今後は予算管理やリスク管理など約20種類の経営プロセスについて、AIネイティブなマネジメントへ進化させていくことを目指しています。
もちろん、この変革は最初から順調に進んだわけではありません。プロジェクトの途中では、活動が停滞し、解散の危機を迎えたこともありました。しかし、完璧なデータが揃うまで待つのではなく、まず「一枚でもダッシュボードを作る」「一人でも経営層を巻き込む」「60点でもQuick Winで成果を出す」という考え方で、小さな成功事例を積み重ねてきました。その結果、現場の理解と経営層の信頼を得ることができ、全社へ展開することができました。変革は、目指す姿が曖昧なままでは各部門がバラバラに動き、かけ声倒れに終わりがちです。だからこそ、経営企画やDX推進部門が「ありたい姿」の素案を自ら描いて提示し、全社の目線を揃えることが第一歩になります。
データドリブン経営は、単なるITシステムの導入ではありません。制度や業務プロセス、組織、人材、企業文化まで含めた経営マネジメントそのものを変革する取り組みです。そして、AI時代には、データとAIを経営に組み込み、より迅速で質の高い意思決定を実現することが企業競争力につながります。AIを導入すること自体を目的とするのではなく、企業価値を向上させるための経営改革として取り組むことが最も重要であると考えています。
3.製造業のAX推進を具体化する実践アプローチ~「クライアントゼロ」発の実践知で描く製造業の経営・業務改革価値~

日本電気株式会社 製造ソリューション事業部門 スマートインダストリー統括部
コーポレートトランスフォーメーション事業推進グループ ディレクター 宮脇忠之
「クライアントゼロ」を体系化した「BluStellar」
私は、NECが自社で実践してきたデータドリブン経営とAX(AI Transformation)の知見を、どのように製造業のお客さまの企業変革へ展開しているのかについてご紹介します。
NECでは「クライアントゼロ」という考え方を重視しています。これは、自社を0番目のお客さまと位置付け、DXやAXを自ら実践することで得られた成功事例だけでなく、失敗や試行錯誤も含めた実践知を蓄積し、お客さまへ提供する取り組みです。こうした経験を体系化したものが「BluStellar」であり、ビジネス、テクノロジー、人材の変革を一体的に支援することで、企業価値向上を実現することを目指しています。
製造業でデータドリブン経営やAXを成功させるためには、「戦略」「仕組み」「ガバナンス」の三つを一体で進めることが重要です。戦略ではデータ活用の目的やロードマップを明確にし、仕組みではデータ基盤やAI活用環境を整備します。さらに、組織、人材、企業文化を含めたガバナンスを構築することで、継続的な企業変革を実現します。
「ありたい姿」の策定を重視
特に重視しているのが、「ありたい姿」の策定です。まず、経営として目指す意思決定の姿を明確にし、現状とのギャップを分析します。その上で課題を整理し、KPIや経営ダッシュボード、ロードマップを設計することで、構想だけでは終わらない実行可能な変革計画を策定します。成功事例も活用しながら関係者の理解と合意形成を進めることで、全社的な変革につなげています。
また、NECでは8,000件を超えるAI導入プロジェクトで培った知見を活用し、構想策定から実装、運用・定着まで一貫して支援しています。さらに、AIエージェント、データ連携、セキュリティ、ガバナンス機能を統合したAIプラットフォームを提供することで、安全かつ効率的なAI活用環境を実現しています。技術導入だけでなく、業務変革まで含めて伴走支援することが、AXを成功させるために重要であると考えています。

4.おわりに:変革を推進する「人」の力が、これからの製造業を動かす
本セミナーを通じて各登壇者が共通して語っていたのは、「変革の主役は仕組み(AIやデータ)ではなく、それらを使って未来を構想し、実行する『人』である」という強いメッセージです。
AGCのポートフォリオ改革における「ベストオーナー」の視点、NECの「経営コックピット」による全社共通のデータ基盤、そしてそれらを体系化した「BluStellar」を通じた伴走支援。これらはすべて、社内の人材が主体性を持ち、企業文化そのものを変革していくためのアプローチに他なりません。
AI時代だからこそ、データに基づいた客観的な「分析力」と、未来を自ら描く「構想力」を掛け合わせ、経営の参謀として変革をプロデュースしていくこと―それこそが、これからの製造業が持続的な企業価値向上を成し遂げるための鍵となります。
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