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『ものづくり白書2022』と製造業を取り巻く変化
NEC ものづくり共創プログラム【2022.10.19】
カテゴリ:DX・業務改革推進品質・環境・物流その他
——コロナ禍やウクライナ戦争によるエネルギー危機といった環境変化の中、製造業を取り巻く状況はどう変化しているのか。これらをまとめた『ものづくり白書2022』が公表されました。そこで、今回、経済産業省の伊奈友子氏に特別講演いただきました。
講演/経済産業省 製造産業局 総務課 参事官 ものづくり政策審議室長 伊奈友子氏
『ものづくり白書2022』は、「ものづくり基盤技術振興基本法」に基づく法定白書として年1回取りまとめられるもので、22回目を迎える今回は、製造業の業況などの動向分析に加え、製造業に関する大きな事業環境の変化として、カーボンニュートラル、人権尊重、DXなどに関する動向や事例をまとめています。
製造業における様々な課題
最初に、我が国製造業の足下の状況についてです。日銀短観によると2020年の下半期から2021年にかけて、大企業の製造業を中心にコロナ禍からの回復基調にありました。しかしながら、2022年に入って大企業も中小企業も減少に転じています。ウクライナ侵攻や原油価格の高騰といったことが暗い影を落としていることが示されています。
製造業の営業利益はコロナ禍の影響で減少傾向にありましたが、2021年度は半数近くの企業で回復に転じ、今後も増加する見込みとなっています。
生産状況としては、鉱工業生産は2020年5月にコロナの影響の底を打っています。そこから回復基調にありましたが、2021年の後半には半導体不足の影響を受けて悪化しており、その後様々な要因で一進一退を繰り返しているという状況です。
事業に影響を及ぼす社会情勢の変化について製造業経営者の意識調査をしています。2020年度は新型コロナウイルス感染症の拡大が圧倒的に大きなウエートを占めていましたが、2021年度に入りますと、引き続きコロナの影響は大きいものの、原材料価格の高騰、人手不足、半導体不足、部素材不足も大きく挙げられるようになっており、様々な事象が事業に影響を及ぼしているということがわかります。
設備投資は2020年の前半に大きく落ち込んだ後、回復傾向にあることがわかります。今後3年間の見通しとしては、国内海外ともに増加する見込みが示されています。
財務情報を用いた企業行動分析で見えてきた、伸びている企業の傾向とは?
今まで示したものは基本的に統計データを用いていますが、業種別の変化がなかなか実態を表していないのではないかという問題意識があり、今回は企業の財務情報を用いて企業の行動分析を行いました。財務諸表を用いているため、基本的には上場企業の財務データによるものとなっています。
2017年度から2020年度の3年間の平均値を取り、日本企業の営業利益率と企業構造の関係を分析しています。
これによると、営業利益率が高い企業は積極的に有形無形の設備投資や研究開発投資を行っていることがわかります。一方、低い企業は設備投資が少ない上に借入金が増えています。つまり、積極的かつ計画的に投資をする企業が伸びていることがわかります。
同じデータを用いて日本と米国、EUの製造業を比べてみました。営業利益率は米国とEUの方が高く、日本の製造業の稼ぐ力を高めていく必要があるところです。その背景を見てみると、有形固定資産投資は日本企業が頑張っていることがわかりますが、無形固定資産投資や研究開発費は米国やEUの方がより積極的だということがわかります。この背景には会計制度の違いがあるので単純比較は難しい部分もありますが、やはり積極的に投資をしていく必要があるということを示しているのではないかと考えています。
製造業の高齢化問題と対策
休廃業・倒産、解散件数は、2021年はコロナの影響を受けた前年よりも減少しています。ただし、各種施策の効果もあって今後の動向に注視していく必要がありますし、業績が悪くなくても廃業するケースもあります。後継者選定に関する経営者へのアンケート調査の結果、60代では約6割、70代以降では約4割が「選定していない」という結果が出ています。こういったことも、今後の企業の動向に影響してくると考えています。
人材確保では、人口が減っている中で製造業の就業者数、全産業に占める割合が減少しています。年齢層別では、若年者が減って高齢者が増えていることがわかります。製造業で働く人口が減り、かつ高齢化している中でどのように取り組んでいくのかが課題になってくると思います。
人材育成政策としては、ITスキルを身につけるコースが増えているとの特徴があります。
部素材の不足と価格高騰、デジタル投資
事業環境の変化については、まず、原油価格の高騰。ウクライナ情勢の緊迫によって元々上昇傾向にあった原油価格がさらに高騰し、その影響として生産コストの増加に繋がっています。政府としては、エネルギーの安定供給の確保や価格の転嫁に取り組んでいただくといった様々な政策を実施しているところです。
21年に発生した半導体不足は、幅広い業種に影響を及ぼしています。先端部品だけでなく、汎用品であってもコロナ対策としてアジアでロックダウンが行われることによって不足するといったことが実際に発生しています。こういったことで日本の経済活動に悪影響が及ぼされることがないよう、特に重要な物資に関しては国内生産回帰を促す政策を通じて支援しています。
事業再構築としては、ポストコロナ・ウィズコロナと言われる社会変化に対応するために、中小企業に対して新分野への業態変革などを促すべく、政府として政策的に支援しています。
デジタル・IT投資では、製造業は横ばいとなっています。一方、経営者の意識調査結果を見ると、IT投資で解決したい経営課題がこれまではテレワーク導入などの働き方改革や業務効率化が多かったものの、今後はビジネスモデルの変革に移行するとの変化がうかがえます。
サイバーセキュリティと物流クライシス対応
製造業の場合はサプライチェーンで複数の企業が繋がっており、その中には中小企業が含まれるケースが多いと思われます。サプライチェーン全体でサイバーセキュリティに対応していくことが重要となっていますが、実際に被害に遭ったうちの半数以上が中小企業です。
中小企業のセキュリティ対策状況調査によると、1番目に多いのが重要なシステムやデータのバックアップであり2番目は「特に実施していない」というのが現状です。そこで、現在、中小企業が無理なく導入できるセキュリティサービスの普及促進にも取り組んでいます。
物流においては、数年前から“物流クライシス”と言われており、モノを造るだけでなく運ぶところ、物流の効率化に向けたDXも重要になっています。そこで、企業間の連携が進展しつつあり、政府としても共同輸配送システムの実現に向けた工程表を作成し企業の取り組みを後押ししているところです。
デジタル化において、必ず課題として挙がってくるのが人材の問題。人材の量と質に関する不足感が高まっており、新卒人材を獲得するのが難しい中、社会人を中心にしたリスキリングでIT分野の専門性を身につけていただくことが重要になっています。政府としても支援をしている状況です。
人権とカーボンニュートラルへの対応
「ビジネスと人権」については
欧米中心に、サプライチェーンにおける人権の尊重に関する法整備が進んでいます。この中で「人権デュー・ディリジェンス」という、サプライチェーンの中で人権に対して何らかの侵害をしていないかどうかを企業自身がチェックするといった取り組みが重要になっています。我が国でも、上場企業を中心に人権に対する取り組みを調査しており、対策は進んでいるものの十分ではないことがわかっています。そこで、8月5日に「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」を取りまとめて公表しました。
カーボンニュートラルについては
2021年にCOP26が開催され、カーボンニュートラル実現に向けた議論がどんどん進んでいます。期限と目標付でカーボンニュートラル宣言をしている国や地域はわが国をはじめ150以上に広がっています。そうした中で、民間企業主導で市場の中で経済的なインセンティブをつける取り組みも進んでいます。サプライチェーン全体での脱炭素化やCO2の排出・削減量を見える化する取り組みが進んでいますし、中小企業でもSCOPE3を含めたサプライチェーン全体の排出量削減の取り組みが始まっております。
こうした中で、政府は企業の取り組みに投資して2050年のカーボンニュートラルを実現するべく、2兆円のグリーンイノベーション基金を造成。官民一体となって野心的かつ具体的な目標を共有した上で、経営課題として取り組む企業などに対して10年間、研究開発、実証から社会実装までを継続して支援しています。
——今回の講演では、白書の内容以外にも2022年春に公表した「新・素材産業ビジョン」について、自動車産業の構造変化への取り組み、「地域新MaaS事業」への取り組みについてなど、経済産業省の様々な取り組みについてもご紹介頂きました。
事業環境の変化への対応はDXで
事業環境の変化は年に1回発行する白書では追いつけないぐらい、激しくなっています。原油価格も含めて様々なもののコストが上がり、今までは海外から普通に調達できたものができなくなり、カーボンニュートラルや人権など直接利益を目的とするものではない外部要因によって事業の変化が求められるようになっています。コストがかかるものの必ずやらなければならないこととして対応が迫られてきているというのが、今製造業を取り巻く現状ではないでしょうか。
その中で、サプライチェーンを見える化する、あるいは自社の取り組みを見える化するということを考えたときに、デジタルというツールが不可欠なものだと考えています。皆様も、ビジネスモデルに応じた形でいかに賢くDXをツールとして使いこなしていくのかが重要になってくると思います。本日のお話を少しでも参考にして、自社の取り組みに反映させていただければ、大変ありがたく思っています。
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