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サービスサイエンスによる製造業の保守サービス領域の変革の実践サービスサイエンスによる製造業の保守サービス領域の変革の実践

サービスサイエンスによる
製造業の保守サービス領域の変革の実践

Webセミナー 実施報告【2020.12.16】

カテゴリ:DX・業務改革推進保守・サービスSCM/MES/FSM

製造業は、製品単体で収益を得る時代から、保守サービスのようにユーザーに継続的にベネフィットを提供し、収益化を図るサービス産業に急速に移行しつつあります。そこで、どのようにサービス化に取り組むべきかを体系化した「サービスサイエンス」と、これによる製造業の保守サービス領域の企業変革の考え方と実践について、多摩大学大学院客員教授の諏訪良武氏にご講演いただきました。

(講師 多摩大学大学院 客員教授 諏訪良武氏)

製造業は、サービス提供によるストックビジネス化、サービスによる差別化、サービスだけの販売といったサービス産業に移行しつつあります。また、シリーズ化する製品開発においては、開発工程の最上流には製品の保守や運用が位置付けられます。このように、保守サービスは製造業においてますます重要性を増しています。

保守サービス会社A社の問題点

私は、製造業の情報システム責任者などを務めた後、子会社である保守サービス会社A社に役員として着任し、保守サービスの変革に取り組みました。当時IT知識が乏しく、保守スピードが遅く、料金も高い状況の会社を業界で顧客満足度No.1を獲得する見違える保守サービス会社に変えることができました。まず、その変革の流れからご紹介します。

A社の親会社の製品は公共性が高く、故障対応など保守サービスに高い緊急性が求められます。しかし、当時はコールセンターの顧客満足度は低いものでした。問題分析を行うと、「メンバーの誰もがコールセンターを重要な役割の組織と認識していない」といった意識があるなど課題も浮上。まず使っているPCやオフィス環境を改善し、メンバーの意識変革を図りました。90年代終わりの当時、顧客の業界が再編の渦中にある中、保守サービスの競争も激化。当社も本気で変革しないと生き残れないとの危機感を持つようになり、業界No.1の業務スピードやお客様に本当に喜ばれるサービスレベルを目指すことにしました。

変革プロジェクトの実施

いざ変革となると現場の抵抗が予想されたため、一気呵成に変革すべく、「業務改革プロジェクト」「ロジスティックプロジェクト」「全拠点長ローテーション」など6つの変革プロジェクトを同時並行で実施し、あえて社内にカオス状態を生じさせることにしたのです。
まずお客様のニーズ調査を行うと、お客様は作業の業務スピードや進捗管理への期待度が高いことが判明。“修理会社”から“保守サービス会社”への転換が求められていると受け止めました。

現状の保守サービスプロセスを分析すると、一業務に複数の組織が関与する複雑なパスで保守サービスが行われていることも判明。あるべき保守サービスプロセスを定義し、コールセンターによる集中型のマネジメントを行い、保守サービスの担当組織を専任化し、仕事の流れを整流化しました。従来、拠点ごとに設置などの計画業務と突発故障などの緊急対応などの割り込み業務が混在してオペレーションされており、全拠点としては人的リソースに大きな繁閑差が生じていました。そこで、拠点長は計画業務だけをマネジメントし、割り込み業務はコールセンター長がマネジメントする形に切り替えて拠点間の業務の平準化を図りました。これにより保守サービスの生産性が大きく改善されました。

ITインフラの整備

保守サービスの全業務をマネジメントするコールセンターを構築、一人一台のPCなど情報システムインフラを整備、携帯のiモードを用いたカスタマーエンジニア(CE)支援ツールを開発、地図情報を活用して現場を見える化、お客様を支援するWeb上の動くマニュアル、お客様から保守サービスを見える化といったITインフラの整備を行いました。

また、首都圏・大阪圏では修理部品の現地到着1時間、他地区は2時間を可能とするロジスティックを確立しました。

企業変革の方向性

当時、企業変革をどのように進めるかの方向性と具体的なマネジメントをご説明いたします。

①顧客満足度の向上、②スループットの向上、③出動件数の削減、④妥当な契約の締結、という企業変革の4方向のうち、多くの企業が①と③に注力する中、A社では特に②と④に注力しました。
②のスループットとは、CEが1日にこなす修理件数です。これを増やすため、ムダな作業の排除、作業のスピードアップ、インセンティブ制度化、協力会社の競争促進、移動時間短縮、マルチスキル習得、アポなし点検などの施策を講じました。
④においては、年間フルメンテナンス契約、SLA充実、サービスメニュー充実、親会社営業との連携などに取り組みました。
マネジメントは、これまでの拠点ごとの分散型から、コールセンターにマネジメントを集約する集中型に移行。全社のサービスレベルの底上げや均一化、効率的な教育、ハイスキルレベル人材の有効活用を図りました。コールセンターに優秀なCEを配置し、判断業務およびCEからの相談業務に対応してもらうことで、キャリア不足のCEでも的確な作業ができるようにしたのです。

サービスプロセス変革の成果

一連のプロセス変革により、すべての時間帯で電話応答率95%以上、クレームの大幅削減、進捗管理精度の大幅向上、顧客満足度と従業員満足度の増大といった成果をもたらしました。さらに、磨き上げた保守サービスを外販化し、大手PCベンダーの修理サポートの顧客満足度No.1を獲得。こうして、着任当初の自主事業比率10%未満から、7年後には50%にまで伸ばし、全体的な売上高も130%以上伸ばすことができたのです。

「サービスサイエンス」のすすめ

以上のような実績をあげたころに、サービスを科学的に分析する「サービスサイエンス」と出会いました。
サービスが企業の競争優位をもたらす産業のサービス化が進展しています。背景として、日本のGDP(国民総生産)の70%をサービス業が稼ぎだしており、残りの大半を占める製造業もサービスに力を入れている実態があります。そこで、価値あるサービスを提供するためには、「サービスサイエンス」を理解し、サービスのプロフェショナルになる必要があります。

サービスの定義

サービスとは、「人や構造物が発揮する機能で、お客様の事前期待に適合するもの」と定義できます。お客様の事前期待が把握できないと、サービスをつくることはできません。
サービスの材料はお客様の課題なので材料を選別できないことが多く、サービスはお客様と一緒につくるためサービス提供者が思うように作業できないこともあり、お客様に満足してもらうのは簡単ではありません。

サービスの分類

サービスの概念は広範なので、分類すると理解に役立ちます。サービス業をサービスメニューで分類すると、約450種類のサービス業は21個のサービスメニューから成り立っていることがわかります。これらは、「モノ提供」「情報提供」「快適提供」にグルーピングでき、快適提供は「安心を提供」「楽を提供」「自己実現を支援」に分けられます。

次に、サービス提供プロセスを分解すると、どのプロセスに問題があるか見えてきます。また、サービス評価を対成果と対プロセスに分解すると、より高い顧客満足にアプローチできます。多くの保守サービス会社は成果ばかり見ていますが、顧客はサービスプロセスに敏感なので、もっとサービスプロセスを磨き上げる努力をすべきです。
サービス品質も「正確性」「迅速性」「柔軟性」「共感性」「安心感」「好印象」に分解できます。一流企業では「正確性」「迅速性」「好印象」はちゃんとできて当たり前で、これからのサービスは「共感性」「柔軟性」「安心感」が勝負を左右するといった分析ができます。

事前期待の分解

サービスの定義で「お客様の事前期待に適合するもの」とありました。事前期待は、事前期待の対象と事前期待の持ち方と事前期待の持ち主に分解できます。私たちは事前期待の対象は日ごろから意識しています。ところがこの要素を磨き上げると、顧客満足は高められますが、感動体験にはつながらないことが分かっています。感動体験は、事前期待の持ち方との関係が深いのです。
「ホテルの寝具は清潔であってほしい」というのは共通的な事前期待です。ところが「私は厚手のそば殻の枕でないと寝付けない」というのは個別的な事前期待です。さらに、「夏は冷酒がいいが、冬は熱燗がなにより」というのは状況で変化する事前期待です。誰でも経験したことがあると思いますが、「何の期待もしていなかったサービスを受けて感動した」というのは潜在的な事前期待を満足させてくれたと理解します。共通的な事前期待に応えてもらっても感動はしませんが、個別的な事前期待や状況で変化する事前期待や潜在的な事前期待に応えてもらうと、感動するのです。こうした事前期待は、コミュニケーションやヒアリング、アンケート、観察などで把握します。

顧客満足のサイエンス

顧客満足は、事前期待よりも実績評価が上回る場合に向上し、当該顧客はリピート客化します。逆の場合は顧客を失うことになります。同等の場合は顧客のサービス主体に対する印象は薄く、競合の登場で揺らぎます。したがって、競争相手のサービスレベルと顧客のニーズの把握はサービス業にとって極めて重要なことです。
そして、最近分かってきたことですが、顧客満足には、思ったより安かったというような“論理的満足”と感動させられたというような“感情的満足”があり、“感情的満足”がリピートオーダーに繋がることも理解しておく必要があります。

また、顧客の事前期待の肥大を避けるマネジメントも重要です。顧客の事前期待は、時間の増加関数なので、ほっておくとどんどん膨らんでいきます。このお客様の過大な事前期待を何らかの工夫で冷やし、顧客とサービス提供者をWin-Winの関係にするのが事前期待のマネジメントです。サービスサイエンスは実践的な研究テーマなので、ぜひとも実際のサービスビジネスに応用してみてください。

NECから

本Webセミナーにおいては、保守アフターサービス業務の計画・実行・評価を支援するフィールドサービスマネジメントソリューションの特長や導入効果などのご紹介なども行っています。また、ITインフラの構築に加えて、NECは製造業が「攻めのアフターサービス」に向けて変革する際に必要となる、変革意識、問題把握、変革シナリオの策定支援などのステップ(カスタマージャーニー)と各ステップでの支援メニューなども取り揃えており、変革アドバイザーとしてご経験豊富である諏訪教授ともに連携したご支援を行ってまいります。

NECではこのような有識者の考えや知見などに基づいたオンラインセミナーを継続的に実施し、製造業の保守サービスの変革を支援してまいります。

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モノとサービスを組み合わせた価値創造が求められる時代、保守サービスの変革の重要性とは何か?
オムロンフィールドエンジニアリング株式会社で劇的な事業変革を成し遂げた諏訪氏が変革の重要性や事例を交えて具体的な変革ポイントについて説明します。

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