セブン銀行ATM
次世代ATMをデザインするというミッション
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セブン銀行様のATMは社会インフラとして、人々の生活を支えています。セブン銀行様のATMは、時代に合わせて変化を続け、2019年に第4世代となる「新型ATM」が発表されました。NECは「新型ATM」 の開発に全面的に関わり、その中でNECのデザイナーは大きな役割を果たしました。
今回、プロジェクトに携わった2名のデザイナーにお話を伺いました。
左:
コーポレートデザイン本部
エキスパート 滝沢全克
右:
コーポレートデザイン本部
主任 酒井仁
左から、コーポレートデザイン本部 エキスパート滝沢全克、主任 酒井仁
ハードウェアとUIを貫くコンセプトをデザインでどう実現するか
セブン銀行様の「新型ATM」には、NECの顔認証など最新のテクノロジーが搭載されています。しかし、セブン銀行様からの「これまで以上に使いやすいATMを追求したい」「あらゆる人が使えるものを目指したい」というご要望に応えるためには、デザインの力が欠かせませんでした。まず、NECのデザイナーはどのようなミッションに従事したのかを話してもらいます。
滝沢:
セブン銀行様の「あらゆる人々に、多様なサービスを快適に」という大きなコンセプトを実現するため、私はハードウェアデザインの担当として関わりました。
酒井:
私はGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)デザインを主に担当しました。
滝沢:
本格的に開発が始まったのは2017年からでしたが、実際はその2年ぐらい前からセブン銀行様とNECで将来のATM端末とはどうあるべきかというコンセプトワークは始まっていたのです。
人間中心設計というプロセスを踏んで、まずはユーザー情報を理解・把握しました。そして、インタビューや行動観察から、問題点や課題を抽出し、それらを解決するためのモックアップ等を作って具現化するという作業を続けました。モックアップを実際にエンドユーザーに体験してもらい、いただいたフィードバックから、さらにブラッシュアップを行って最終的なデザインにつなげました。
酒井:
ハードウェアデザインの初期から、大型画面を2つ搭載した場合の活用方法と、そこでエンドユーザーに提供できる価値について検討が始まっています。私が参画したのはハードウェアデザインが大筋決まった段階から。上記での価値や活用法が本当に効果を発揮するのか、あるいは発揮するには、どのようなUI(ユーザーインタフェース)が良いのかについて検討が始まってからですね。
UIをデザインするにあたり、NECのデザインメンバーは、セブン銀行様のメンバーのみなさんとワークショップを重ね、UIのコンセプトを立て、参加メンバー全員で内容を共有しながらデザインを進めました。
インタフェースとしてエンドユーザーと対話できる部分がGUIです。そのコンセプトはセブン銀行様と検討の上、「Air」としました。これはワークショップで出た複数のアイデアの中で、セブン銀行様から出た言葉のひとつです。より「いつもエンドユーザーさんに寄り添う」という意図を表現できるGUIのコンセプトキーワードとして選ばれました。
滝沢:
ハードウェアについても、女性だけのデザイン検討チームから、着眼点をフィードバックしてもらいました。当時のATMは女性視点だとちょっとハードな難しい機械という印象もあり、より柔らかい安心感のあるデザインを求めていました。
そのようなご要望も受け、ハードウェアでは「コクーン」をキーワードに、“繭玉に包まれるような優しい空間”を表現して、よりおもてなし感のあるデザインとしました。今回のデザインでは、大型バイザーと装置全体で包み込むような形状によって、より包まれ感を向上させて安心空間を作り上げています。今までは板状のバイザーを左右に立て掛けていましたが、今までとは製造方法が異なる立体的なバイザーを提案し、構造設計者と相談を重ね実現できました。
酒井:
私は滝沢さんが担当していた時期の後にGUIをデザインしたのですが、ハードウェアデザインのコンセプトを引き継ぎ、エンドユーザーに柔らかな印象を持ってもらうためグラフィカルな工夫を凝らしました。一般的なATMはとても固い印象のUIが多いですよね。先ほど述べたUIデザインコンセプト「Air」を併せ持つような「演出」を付加してバランスをとっています。
例えばATMの音声デザインも、銀行の窓口みたいな堅い話し方ではなく、カフェの女性スタッフのような、接しやすい印象にしたいとご要望をいただきました。「こうしたい」という思いがセブン銀行様の内部でもきちんと集約されていて、みなさん同じ方向に進んでいるのですね。それで音声も、よりブラッシュアップしました。セブン銀行ATMを使う時には、ぜひ耳に留めていただきたいです。
仲間の助けや取引先の理解、そして新技術の活用で課題を乗り越える
このような大きなプロジェクトでは、ミッションを遂行する上で、いろいろな課題が出てきます。NECのデザイナーはどのようにして課題を乗り越えていったのでしょうか。
滝沢:
セブン銀行様からは、歴代のATMのデザインから大きくイメージを変えたいという要望がありました。フォルムや色素材、フリッカ(カードやレシート取り出し口の表記)の表現方法など今までとは全く違うことにチェレンジしたことで、機構設計者との実現に向けて調整に多くの時間を費やしました。
今までと同じように、実装されるものや材質を考慮すると、優しさを表現するラウンドさせた造形は製造的に難しい面があり、実現性を考えながら、これまでとは違ったイメージを出すというプロセスは難航しました。ATMって、いろんな機能の集合体で、どれもエンドユーザーにとっておろそかにできないものです。それをひとつひとつ吟味してやっていくというのはとてもハードな作業でした。
でも私は一人ではありません。デザインチームをはじめ、社内外のいろんな協力を得られたことで、それらハードな局面を乗り越えられたと思います。
酒井:
GUIのデザインをしていますと、同じような画面をものすごくたくさん作らなく てはいけなくて「いったい、いつ仕事が終わるんだろう」と悩みました(笑)。もうそこは、淡々とこなしていこうと思ったのですが、そうすると取りこぼしが出てしまうことがあります。そこは他のデザイナーメンバーと確認の場を設け、取りこぼしがないよう意見を言い合いました。
あと、何よりセブン銀行様がGUIに対して非常に興味を持っていただいていたんです。それはとてもモチベーションが上がりましたね。
滝沢:
ハードウェアデザインの課題についてもうひとつ。「ATM」と書かれているサインってとても重要なのです。エンドユーザー調査の中で、店に入ってどこにATMがあるのかわかりにくいという意見がありました。店内のどこに置いても見つけることができるか、そのテストを実際の店舗で実機を使って行うのは大変です。そこで今回はVR(バーチャルリアリティ)を活用しました。実際に店舗に使われている商品棚などをモデリングし、画面上で店舗を再現して、それをVRで棚越しに見えるかどうかを検証したりしました。
新機種では本体と一体感のあるデザインで、店内で見つけられやすいように「ATM」という表記を大きくしていますので、これもお店で見てください。
プロジェクトを完遂した時の充実感
お二人に、今回のミッションで印象に残ったこと、結実したことなどについて話してもらいました。
滝沢:
車いすの方にとって、前機種でのインターフォンの位置は使いやすいとは言えず、被験者の方にプロトタイプで確認していただき、改良を重ねました。また今回はCUDO(カラーユニバーサルデザイン機構)の認証を取ることができました。CUDOとは、多様な色覚の方が見ても、色による誤解や誤操作などが起こりにくく、誰もが安心して使用できる製品であると認証する機関です。前機種は、テンキーの訂正ボタンと数字キーが、視覚障がいのある方からは見分けがつきにくいという理由で、認証を取得することができなかったのです。今回は早い段階から被験者の方たちに何度も試作を見ていただき、調整を行いました。結果、ハードウェア/UIともに誰もが安心して使用できる製品であるということが認められCUDO認証がとれたのですね。
酒井:
われわれデザイナーがワークショップの設計とファシリテーションを一緒にやらせてもらいました。三ヶ月間、ほぼ毎週1回やっていました。セブン銀行様のいろんな部署から集まったメンバーですので、最初は意見が右に行ったり左に行ったり。しかし、みなさんそれぞれ非常に強い思いがあることがわかりました。例えば問い合わせ対応をされている部署の方は「ユーザーが迷うところ」がよくわかってらっしゃいます。そこは解決して欲しいということは強く要望されました。時間はかかりましたが、実りある時間でした。
滝沢:
思い返すと納期も厳しく、色々と検討しなくちゃいけない要素があって大変でしたね。でもその結果、自分がデザインに関わった製品が街中に並んでいるのを見ることができるのは、デザイナーにとってとてもうれしいものです。
酒井:
ほんとそうですね。ATMというプロダクトは長年設置され、サービスを継続しながらアップデートしていきます。このため、今後も初心(コンセプト)を忘れず進めていければと考えています。
滝沢:
このプロジェクトをやり遂げられて、ほんとに良かったなと思います。