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座談会(パンダちゃん大玉転がし)

パンダちゃんのぬいぐるみを魔改造することで、4kg近い大玉を25m運ぶ「パンダちゃん大玉転がし」に挑戦したN社のおもちゃチーム。その開発秘話に迫る。
※本記事には番組内容のネタバレが含まれます。

―トライアルから始まった“ものづくり”―

――まず、なぜこの「魔改造の夜」に参加したのか教えてください。

(左から)開米(リーダー)・山本(サブリーダー)

開米:社内SNSの参加者募集の投稿を見た時に初めて番組の存在を知りました。そこから番組のことを調べ、過去に放送された「ワンちゃん25m走」などを見てとても面白そうだなと思い、手を挙げました。最終的に自分はリーダーという立場でしたが、最初はやる人がいないんだったら仮で、という気持ちで。当時、業務でグループ会社を巻き込んだカルチャー変革に取り組んでおり、文化や規模感の違う会社が集まっている中、どのようにまとめるか、というのに苦労していたんです。この「魔改造の夜」のプロジェクトも複数のグループ会社のメンバーが参加しているので、リーダーとしてまとめることができたら業務の方の大きな目標にも一歩進めるのではないかと思い、リーダーを引き受けました。

山本:私も参加者募集の投稿を見ました。元々ものづくりへのあこがれが強く、とても面白そうだと思いました。ですが、ソフトウェア開発の経験はあっても、この魔改造の夜という番組内で戦えるようなスキルが自分にはない、という気持ちがあったので、参加をためらっていました。でも、同僚の加島さんからこんな機会は一生に一回しかないよ、と言われて勇気を出して参加しました。

加島:私は元々番組の大ファンでした。高専時代ロボコンに出場して以来そういった活動が出来ていなくて「魔改造の夜」のようなコンテストに出てみたいとずっと思っていました。そんな時、山本さんに募集の投稿を教えてもらって即答。実は今回の募集の前に、「魔改造の夜」に皆で出ませんかと社内SNSで声をかけたことがあったのですが、発信力の差か、全然人が集まりませんでした(笑)。

大池:私は昨年NECに転職してきたんですが、実は前職でも「魔改造の夜」に出演したんです。その時は結果が伴わず悔しい思いをしました。また「魔改造の夜」に出演すればNECの中でものづくりが好きな人と出会えるのでは、と思い参加しました。

――実際に参加されて、ものづくり好きに出会えましたか?

(左から)加島(ソフト設計担当)・大池(メカ設計担当)

大池:はい。ものづくりが好きな人が集まっていてとても話しやすかったです。家で工作をしている人に会えただけで参加してよかったと思ってます。卓上CNCフライス盤を持っていたって人に出会ったのは加島さんが初めてです。
※卓上CNCフライス盤:コンピュータ制御された回転する刃物で素材を加工する機械

加島:(笑)

開米:この「魔改造の夜」の仲間は、当然上司でも部下でもなく、同期でもなく、新しいカテゴリーの繋がりですよね。部活が一番近いかも。部活みたいな仲間に出会えたのは財産。

――本番の改造期間の前にトライアルという形で過去のお題に挑戦した際の話を聞かせてください。

開米:本番を迎える前に過去番組で取り上げられたお題に挑戦してみようということで、投票で「ワンちゃん25m走」に挑戦しました。色んな案の中から加島さんアイデアの改造に取り組んだのですが、これがとんでもないアイデアで(笑)。

加島:完成しなかったもんね(笑)。

緒方:面白い、他にはない斬新なアイデアという点に着目して挑戦したけど失敗。でもトライアルで失敗したことで、本番で目指すべきものが定まりましたよね。確実に行こう、と。

開米:失敗だけど失敗しておいてよかったですよね。トライアルは本当にやってよかった。

加島:本番も「走る」って言うお題は共通だったからね。

緒方:トライアルで出たいくつかのアイデアについても、例えばエアシリンダはこういう使い方が出来るよね、という共通認識を持った状態で本番をスタートすることが出来たのがよかったです。

N社が「ワンちゃん25m走」に挑戦した場合のモンスター・・・!?

―課題だらけの「大玉転がし」への挑戦―

――本番の改造期間について教えてください。オンラインで参加するメンバーもいたと思いますが、どのようにチームの運用や情報共有をしていったのでしょうか。

山本:メンバー全員での情報共有を意識していました。それで議事録など活動の記録を取り始めたんですけど、言葉がわからなくてすごく書きづらかったです。それでも加島さんや大池さん、皆さんが情報共有に対して積極的だったのでとても助けられました。この活動で覚えた単語はヘッケンリンク機構。ヘッケンリンクだけは頭に刷り込まれました(笑)。
※ヘッケンリンク機構:ロボットの足などに使用されることの多い、半円の軌跡を描くリンク機構

加島:自分のやったことを写真付きでどんどんSNSに投稿していました。オンラインで参加するメンバーもいたので、作業場に行きたいけど行けない気持ちややりづらさを常に意識しながら情報共有するようにしていました。

緒方:オンラインメンバーにはとても助けられましたよね。大玉を押す際の位置・角度・速度のシミュレーションを全部オンラインメンバーがやってくれた。シミュレーションの内容と実機での結果が合っていて「本当にこうなるんだ」と感動したのを覚えています。

マシンの速度などの条件を変えシミュレーションする様子

――どのようなシミュレーションだったのでしょうか?

開米:時速30kmを越えると、大玉にマシンが乗りあげてしまってスピンしちゃうという結果が出てきたんです。「こんなこと起きるの?」って言っていたら、本当に起きた。シミュレーション通りに大玉に乗り上げてコースアウトしてスピン。そのおかげで腕より先に脚の機構の検討が必要だという事に気づくことができました。

大池:目標であった4秒というタイムを達成するためには試算上ゴール時点で時速46km出ている必要がありました。なのでまずは25m地点でトップスピードに到達するための加速力を求めていたんですが、当初はマシンのバランスが悪くスタート直後にスリップしタイヤのゴムがコースに焼き付いてしまったりもしていました。スタート位置には特にゴムがこびりついていてまるでF1のようでした(笑)。 モーターの負荷を考えると本体はあまり重くできないし、でも本体を重くしないと大玉を押すのが難しくなる、という袋小路に陥りました。


――どのように解決したのでしょうか?

齋藤:マシンの構造上後ろに重心が寄っていたせいで、マシンの前方が浮いてしまうという問題が発生してしまっていました。そのせいでウィリーのような形となりスピン・脱線が起きる。その事に気づいたので、重くなりすぎないようバランスを見極めながら1.5kgほどの重りを前方に取り付けたら安定して大玉を押せるように。結果、最終的には時速40kmを超えても安定して走行できました。


――一方、スピードが出ることによる弊害もあった。

(左から)緒方(電気担当)・齋藤(開発環境整備担当)

緒方:速くなりすぎてしまったために、今度はブレーキ機構の検討が大変でした。本番の会場の話を聞くとゴール後すぐにでも停止しないと壁にぶつかってしまうという事がわかったんです。時速40kmで走る重いマシンを止める為にはどうするかというところからスタートして、最終的には床のアルミテープを検知してショートブレーキ(短絡制動)で止まるという機構になったんですが、流れる電流値も大きいだけに電気回りは苦労が多かった。タイムだけ求めるのであればゴールを走り抜けてあとは勝手に止まってくれるくらいが望ましいのに、メインではない止まる機能の設計がとても大変でした。

大池:確実にマシンを止めるためにアルミテープ以外にも何重かの安全対策を敷いていました。メインはアルミテープ・タイマー・遠隔停止の3つ。ロケットや人工衛星と同じように、安全安心を最大限意識した設計にしています。

加島:モンスターなんだけど、宇宙レベルの安全設計を備えています(笑)。

――「大玉転がし」という競技において重要となる腕の機構はどのように決定したのでしょうか?

大池:大玉はそもそも人が転がしても真っ直ぐ転がらないようにおもり(でっぱり)が取り付けられていてきれいに転がってくれないし、きれいに転がったとしても大玉のでっぱりがマシンの方に悪影響を及ぼしてしまい、大玉をどういなすか、変な転がり方をしたときにどう真ん中に戻すかなど、どうして良いかわからずとても苦労しました。腕の付け方についても、柔軟にして大玉から受ける力を受け流すのが良いのか、しっかり固定して大玉の位置をコントロールするのがいいのか。でも終盤開米さんの追い込みで機構がどんどんと決まりました。ストロークを短くしようとか、腕の形とか、答えがわかっているようだった。

山本:あれはすごかった。

開米:トライアルから検証してきたことを全部積み上げた結果。ストロークを短くすることで動きが速くなることも試していたし、コの字の手の形も、さすまたみたいなアイデアが0号機の時に出ていた。手の先端にローラーが付いていた方がボールの回転を邪魔しないことも見ていました。これまでの検証がなかったら思いつきもしなかったけど、見たことのある機構やアイデアが頭に残っていたんです。でも電気配線まで行ったのは本当に直前でした。

加島:途中スタート用のピンを抜いても走らないという原因不明な事象が発生し始めた時は皆挫折しかけたよね。

齋藤:結果断線していたんですけど、皆混乱してすぐに気づけなくて、誰がピンを抜いたとか、ピンを左手で抜いたか右手で抜いたか、とか、抜いた時の姿勢はどうだったか、地面に手を付けながら抜いたほうがいいか、とか、おまじないのようなことをしていました。

開米:冷静に考えたらそんなわけないのに、あのときは皆何かおかしかった(笑)。

大池:すべては開米さんが4秒目指すって言ったせいですよ(笑)。

開米:実際諦めようと思った時期もあった。だけど、緒方さんはじめ電装系のメンバーが踏ん張ってくれたから最後まで目標を変えずに済んだんです。

――直前にようやく機構が決まったとのことですが、デザインについてはどうでしょうか?

開米:機構の検討に精一杯であまり手をかけられず、正直もっと凝りたかったです。ペットボトルがうちのパンダちゃんの特長なので、ペットボトルをリュックに見立てて背負ってるような感じにしたかったんです。

齋藤:途中デザイン無視して腕の表面に英字のクッキングペーパー使おうとしてましたよね(笑)。

開米:デザイン担当のメンバーに「本番もそれでいくの?それパンダなの?」と冷静にツッコミを入れられてはっとしました。これでたとえ上手くいったとしてデザイン的にあっているのかと(笑)。

―「魔改造の夜」に参加することによって得たもの―

――山本さんにお聞きします。ものづくりへの不安を抱えていた中で参加されてどうでしたか?

山本:憧れであったものづくりのエキスパートや、色々なスキル・経験をもった人たちと関わることができて、NECグループの幅広さを実感でき、いい会社で働いているなという気持ちになりました。本当にかけがえのない体験をさせてもらいました。開米さんにサブリーダーという役割を与えてもらっていなかったら、活動を途中で辞退してしまっていたかもしれない。今となってはすごくありがたかったなと思います。


――なぜ山本さんをサブリーダーに任命したのでしょうか?

開米:初めてお会いする前から、ものづくりの経験があまりないけど勇気を出して手を挙げて参加した人なんだと聞いていたんです。とんでもない根性を持った人だなと思い、それでサブリーダーをお願いしました。

――ご自身もものづくりの経験がない中、なぜ山本さんをサブリーダーに?

開米:経験不足で浮いてしまうのではないかという不安があるなかで手を挙げたのは私も一緒でした。でもリーダーという役割を正式に与えられたとき、なんとかやらなきゃな、という気持ちになりました。それがなかったら山本さんと同じように自分も途中で身を引いていたかもしれない。なので、私が役割をもらったように、似た境遇の山本さんにも役割を用意したかったんです。

山本:メンバーの皆が優しく接してくれたので最後までいることができました。

開米:山本さんには皆優しかったですよね。私と違って。(笑)

――改めて、今回の活動に参加した感想をお願いします。

緒方:泊まり込みで対応したメンバーもいるくらい、情熱を注いで最後までやりきったというのが良かったと思います。私自身も新しいことを色々知ることができました。

加島:参加出来たのが何よりも嬉しかったです。青春を取り戻したような気持ち。良い経験になりました。

齋藤:1つの目標に向かって皆で走り抜けるというのは会社に入って初めての経験だったので、本当に楽しかった。今後の業務もこんな風に取り組めると良いなと思います。

大池:ここに至るまで色んな人との関わりがあって、多種多様な人と繋がれました。本当に楽しかったです。

開米:とにかく楽しかったです。最終的に役割がないメンバーはおらず誰一人欠けてはいけない状況でした。正直リーダーとしてのプレッシャーはすごくあって、自分が何か決断するたびに、これでダメだったらどうしようと不安になりながら進めていました。沢山の人の思いを背負ったプレッシャーはとても大きかったです。でも、メンバーが近くで支えてくれた。皆で一生懸命やってくれて皆で乗り越えられた。助けてくれてありがとうございましたという気持ちでいっぱいです。

参加メンバー

開米 雄太郎:リーダー
NEC カルチャー変革統括部
業務内容:コミュニケーションを起点にした全社的なカルチャー変革

山本 朋絵:サブリーダー
NECプラットフォームズ ワイヤレスプロダクツ事業部
業務内容:携帯電話の基地局のソフトウェア開発

加島 充:ソフト設計担当
NECプラットフォームズ ワイヤレスプロダクツ事業部
業務内容:電波装置の監視ソフトウェアの開発・研究

緒方 泰明:電気担当
NEC スペースプロダクト統括部
業務内容:人工衛星のシステム設計および試験

大池 恭平:メカ設計担当
NEC スペースプロダクト統括部
業務内容:人工衛星の組立試験

齋藤 拓也:開発環境整備担当
NEC サプライチェーン改革統括部
業務内容:開発生産連携によるNECのものづくり強化とプロセス確立