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「日本物理遺産」になったNEC電子顕微鏡の物語──世界的発見から受け継ぐ挑戦の志
2026年9月29日

2026年9月、「日本物理遺産」にNECが保有する電子顕微鏡が選ばれました。この電子顕微鏡が脚光を浴びるきっかけとなったのが、1991年、NECの研究者による「カーボンナノチューブ」の発見です。鉄より強く、髪の毛よりはるかに細い新たな素材として世界の注目を集め、その後、身近な暮らしから宇宙開発まで幅広く役立てられています。世界的な発見に用いられた電子顕微鏡の歴史と、NECに脈々と受け継がれる志をたどります。
偶然の発見、実は必然─研究を支える環境と志
日本物理遺産は、日本物理学会の源流組織の創立150周年を記念して創設しました。基準は二つ。「日本において、または日本人が中心となって達成された物理学研究の重要な成果を示すものであって、学術上の価値が特に高いもの」または「日本における物理学の研究・教育等の在り方の推移を理解するため欠くことのできないもののうち、特に重要なもの」。

記念すべき第1回に認定されたNECの電子顕微鏡は、カーボンナノチューブの発見に使われた一台です。1991年、NECの特別主席研究員の飯島澄男による偉業でした。

電子顕微鏡は、目には見えない微細な材料の基礎研究から応用研究まで幅広く使われてきました。飯島さんは1991年、様々なタイプの炭素物質の構造を調べる中で、見たことのない針状の物質を見つけます。後に、カーボンナノチューブと命名する物質でした。
カーボンナノチューブは炭素原子が連なった直径数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)という微細な筒状の構造。軽くて強い新素材として、発見以来、構造材料、エレクトロニクス、エネルギー、環境、医療など様々な領域で応用研究されています。

「この発見は偶然というよりむしろ必然であると考えている」「『まだ構造が明らかになっていない未知の材料について研究したい』」という強い思いを持っていたので発見できた」──。飯島さんは、当時を振り返るインタビューでこのように答えています。
世界的な発見につながる姿勢と研究をサポートする体制は、現在に至るまでNECに脈々と受け継がれています。

今につながる研究の積み重ね─新たな技術と価値を創る
NEC セキュアシステムプラットフォーム研究所 主幹研究員の弓削亮太は、電子顕微鏡の日本物理遺産認定に尽力した一人。「新たな発見は、狙ってできるとは限りません。偶然の機会があっても、それを発見につなげる環境や経験、知識が必要です」と語ります。
カーボンナノチューブ発見から約10年後、2002年度にNECへ入社した弓削も、この電子顕微鏡を使っていました。「現在の電子顕微鏡は画像の調整が自動化されていますが、当時は手作業で調整し、写真はフィルムを現像して確認しないといけない。経験と勘を頼りに、何度も撮影を繰り返していました」と振り返ります。「あの頃に育んだ忍耐力、集中力、そして体力。今の研究にも活きていますね」

カーボンナノチューブの研究も、新たな研究につながっています。「一つの研究テーマが、そのまま製品になるとは限りません。そこで培われた知見が別の研究に活かされ、新たな価値を生み出すことがあるんです」
弓削は現在、赤外線イメージセンサーの研究を進めています。カーボンナノチューブによって、熱をとらえる精度や機能を高め、より高性能なセンサーを実現できる可能性があり、目には見えない熱の情報を画像化することができるといいます。
受け継がれる研究のバトン。「NEC以外の企業が簡単には真似できる研究ではない」と弓削は語ります。
安全・安心を支える─社会実装につながる研究に
研究を支える環境と受け継がれる志に加え、NECにはもう一つの強みがあります。基礎研究から応用研究、製品開発、事業化まで一貫したプロセスをもっていること。NECは、この強みを活かして技術を社会価値へとつなげてきました。
弓削が現在の研究の先に描くのは、可視光、赤外線、ガスなど、複数の情報を一つのセンサーで捉える「マルチイメージング」の実現です。「温度や成分など、目では判別できない情報を把握できれば、より正確な状況判断が可能になります」。こうしたセンサー技術は、危険の予知、暗闇での安全確保や設備の状態確認など、社会の安全・安心を支える様々なシーンへの活用が期待されています。

一台の電子顕微鏡から始まった研究の系譜は、今も続いています。発見を支える研究設備、そこから得られた知見、挑戦を続ける研究者たち──その一つひとつが、NECがPurpose(存在意義)に掲げる「社会価値の創造」の礎となっています。
弓削は、今回の日本物理遺産認定について「電子顕微鏡が果たした役割だけでなく、研究に向き合った時間や苦労も認めてもらえたように感じました」と述べ、こう続けます。「この自信と誇りが、社会実装に向けた追い風になる」
この電子顕微鏡は、現在は稼働していません。しかし、そこには世界的な発見を支えた研究の軌跡と、これからの挑戦の志が刻まれています。
