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はやぶさ2「世界最接近」の舞台裏 JAXAとNECが小惑星トリフネにフライバイ
2026年9月10日

私たちが地球でいつもと変わらない日常を送っているこの瞬間も、何億キロも離れた宇宙で挑戦を続けている探査機があります。それが、NECグループがJAXA(宇宙航空研究開発機構)とともに開発した小惑星探査機「はやぶさ2」です。2026年7月、はやぶさ2は新たな快挙を成し遂げました。直前まで続いた要求変更、極限の姿勢制御、そしてJAXAとの深い絆──難関ミッションを支えたNECのメンバーの言葉から、舞台裏に迫ります。
今から12年前の2014年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」は、2020年に小惑星「リュウグウ」の表面物質を納めたカプセルを地球に投下するサンプルリターンを成功。その後も、拡張ミッションと呼ばれる新たな宇宙の旅を続けています。
今年7月には、小惑星「トリフネ」の近くを通過して観測するフライバイ探査を実施。最も近いときでトリフネの中心から約744メートル、表面から約400メートルを通過し、これまで行われた太陽系天体のフライバイ探査の中で世界最接近の記録となりました。これは、地球に衝突する可能性のある小惑星の軌道を変えるなどの「プラネタリーディフェンス(地球防衛)」の技術確立に向けた大きな貢献です。

わずか400メートルの距離を秒速5キロ以上の超高速で駆け抜けながら観測を行う。高度な機体制御が要求されるミッションを支えたのが、NECの技術です。
「ぶつけるよりギリギリを接近」難しい挑戦を選んだ
「実は、『はやぶさ2を小惑星に衝突させるミッションとギリギリをフライバイさせるミッションでどちらが良いと思うか』とJAXAから相談されたんです」。そう明かすのは、NECではやぶさ2のプロジェクトを統括する川口昭良です。

「ぶつけたらそこで『はやぶさ2』のミッションは終わってしまう。難しくてもギリギリをかすめる挑戦のほうが面白い。だから、ぶつけずに通り抜ける方を提案しました」
次の焦点は、どこまで近くを通過させるか。当初は安全性を最優先し「10キロから1キロ」で検討。それが一転、最終目標が「800メートル」になった背景には、JAXAの熱い想いとNECの覚悟がありました。
「1キロを切れば明確に世界一の成果になる。難易度は一気に上がる。でも成功させなければならない。その葛藤を抱えながらみんなで突っ走りました」と川口は振り返ります。
当日の朝まで続いた、限界の書き換え作業
もともとはタッチダウン用に設計されたはやぶさ2にとって、至近距離ですれ違いざまに高速撮影を行うことは、想定外のミッションでした。
はやぶさ2のカメラは機体に固定されており、首を振ることができません。小惑星をカメラの視野に収め続けるためには、最適なタイミングで探査機を絶妙に傾けるという、高度な姿勢制御が求められました。
ミッション達成に向けたプログラムの技術的なとりまとめを担ったのがNECの須藤尚美です。「一瞬でもタイミングを逃せば、二度と引き返せません。一発勝負になります」

地上に高解像度データを送るための通信品質や容量、機体の向きなど、数多の条件を考慮しながら組み上げた予定表は緻密を極めました。「姿勢の変更や撮影などコマンドの実行時刻が1秒でも重複するとエラーを起こしてしまいます。何時何分にどのカメラで撮るかなど予定表は隙間なく敷き詰められています」
修正も続きました。当初の予定では1週間前に確定するはずの計画が、刻々と変化する宇宙の環境に合わせるため、当日まで修正におわれることになります。
最終決定したコマンドを探査機に送り込んだのは、最接近のわずか1時間前。まさに1分1秒を争うカウントダウンでした。
異常事態に備えたシナリオもつくっていました。 カメラの不具合など想定される異常とタイミングを掛け合わせると、用意したリカバリー手順は数百パターンにのぼります。「使わずに済んで本当に良かった」と須藤は胸をなでおろしました。
「あ、ぶつかってない」――暗闇から届いた生存の電波
7月5日、迎えた最接近の瞬間。管制室全体が静かな緊張感に包まれます。
「最接近から5分ほど経って、電波が届いたんです。そのデータを見た瞬間、『あ、ぶつかってない。生きている』と。こみ上げるものがありました」と須藤は振り返ります。トリフネの姿は、カメラがしっかり捉えていました。

産業技術総合研究所、パリ天文台、カナリア天体物理研究所

「組織の垣根を越えて肩を抱き合って喜びました。『NECさんのおかげです』と感謝の言葉をいただいたとき、この歴史的な瞬間に立ち会えたことへの感動が爆発しました」と川口。

JAXAとNECが培ってきた確かな信頼関係。「日ごろから何でもざっくばらんに相談できる関係がありました。だからこそ、極限状態でも攻めの姿勢を崩さず一体となれた」と川口はいいます。
「はやぶさ2」は今、最終目的地である小惑星「1998 KY26」に向かっています。 到着予定は2031年7月。NECが開発したイオンエンジンの効率的な噴射計画も無事到達するための重要なポイントです。挑戦は続きます。