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行政と金融のデジタル化が世界を大きく変えようとする中、NECはデジタル・ガバメント(DG)とデジタル・ファイナンス(DF)のグローバル事業展開を加速させるために、2025年8月、DGDFビジネスユニット(BU)の本社機能をスイスのチューリヒに移転しました。一事業部門の意思決定を担う機能を海外に移す判断を「NECの本気度を示すためには当たり前のこと」と言い切るのはNEC執行役 Corporate EVP 兼 DGDF ビジネスユニット長の久保知樹です。欧州にいるからできること、そして取り組むべきことを尋ねました。
欧州3社と合流 移転後の「確かな手ごたえ」
NEC DGDF Headquarters relocates to Zurich to accelerate growth and enhance management globally 2025年4月28日、NECのプレスリリースで今回の移転はグローバル発信されました。リリースでは本社機能移転のねらいを「欧州子会社との意思決定の迅速化や緊密な連携を通じ、グローバルな事業運営と管理体制を強化する」と説明し、8月には久保BU長を含むメンバー11人が現地に入り、チューリヒの拠点は本格稼働しました。
「現地の反応から移転の手ごたえを感じている」。久保は率直にこう語ります。この本社機能移転にたどり着くまでには、様々な経緯がありました。
DGDF BUの前身となる部署は、国民IDなどNECの生体認証技術を活用したビジネスの世界展開を担っていました。グローバルな事業をより安定して継続可能な領域に拡大するために、2018年から2020年にかけてヨーロッパの企業を次々に買収。それが、英国の政府機関・自治体・警察・病院などにソフトウェアやサービスを提供するNEC Software Solutions UK、デンマーク最大のIT企業であり同国政府のデジタル化を後押しするKMD、スイスの大手金融ソフトウェア企業であるAvaloqの3社です。
2016年にNECに入社した久保にとって、この一連の買収がNECでの初仕事でした。その後、ビジネスを成長させながら2024年に日本でDGDF BU長となった久保にとって、今回の本社機能移転に踏み出した理由は何だったのでしょうか。

お客さまと直接向き合う仲間と「NECの覚悟を示す」
DGDF BUの売上は、ほぼ100%海外事業が占めています。「お客さまと接点を持ち、利益を生みだしているメンバーは海外にいるのに、全体戦略をまとめたり、意思決定をしたりする自分たちが日本にいたままでいいのか」。原点は、久保に湧きあがったこの気持ちでした。「日本というコンフォートゾーンから出てNECがグローバルビジネスに本気で取り組む姿勢や覚悟を示したかった、それが最大の理由です」と久保は話します。
もう一つの理由は「オペレーションのグローバル化」です。現地任せにせず意思決定者が率先して仕事の進め方をグローバル化することで「ようやくグローバルで勝ち残れる」と久保。そこで「大きな成長と高い利益率を期待されているDGDF BUが先鋒となってNECのグローバルでのプレゼンス向上を目指します」と力を込めます。
移転先となったスイス側からの反応も上々でした。
「Avaloqなど現地のメンバーは『来てくれてありがとう』と歓迎してくれました」と久保は顔をほころばせます。また、スイス政府もビザの発給から手続きまで全てに協力的で、スムーズに業務が開始できるようサポートしてくれたといいます。移転直後には世界各国のスイス大使が集うCore Seminar 2025に民間企業として初めて招かれ「皆さんNECのビジネスに興味津々で、次々と質問いただいたのが印象的でした」と振り返ります。

Avaloqからフロアを借りる形で新たに業務をスタートした久保は「Avaloqのメンバーは『5分いい?』と言って、すぐに席まで来てくれます」といい、「KMDも既に取締役会をチューリヒで開催しましたし、お客さまと直接話す機会も増えました。今後、いろんなことが一緒にできそうだと期待しているし現地メンバーも同様に感じてくれているはず」と語ります。
各地でシナジー創出 「真のグローバル化への一歩に」
スイスへの機能移転を迎えた2025年は、久保がNECに入社して10年目の節目の年でもあります。この10年を振り返り「一番の手ごたえは、買収した3社とのシナジーが実を結ぶようになってきたこと」といいます。
イギリスのNEC Software Solutions UKは「オーストラリアのNEC現地法人を通して販売ルートを構築しました」といい、デンマークのKMDについては「自社製品をイギリス政府に提供し始めました」。スイスのAvaloqはNECの欧州研究所と協力して自社のソリューションにAIを導入し始め「こちらから指示しなくても『NECのアセットをどう活用したらいいか』を自発的に考え始めてくれているのを頼もしく感じています」。経営層でもシナジー創出に向けた人事が進んでおり、NEC Software Solutions UKの社長のTinaが、2025年4月からNECのコーポレートSVPに就任し、NECオーストラリアとNECアメリカの政府関係ビジネスの責任を担っています。

この先の中長期的なビジョンをどう描くのか。久保は「Ahead of the curve(時代を先取りすること)」を強調。デジタル・ガバメントでは「高齢化社会で生じる様々な問題をテクノロジーでどう解決するかという議論は当たり前で、今後はAI活用などを考えていく必要があります」といいます。デジタル・ファイナンスでは「これまで特定の富裕層しかアクセスできなかった金融サービスに、準富裕層や、それ以外の人々もアクセス可能になり、サービスの裾野が広がることが期待されています」。ここにNECが貢献すれば、Purpose(存在意義)に掲げる「社会価値創造」の実現にも近づくことになります。
NEC is back──。久保はインタビューの最後に、この言葉を強調し、こう続けます。「それだけの価値が、NECにはあります」。126年前に日本初の外資系企業として創業し、常に最先端の技術を追求し海外市場を席捲してきたNECが、再びグローバル企業としての存在感を示す。「海外に移転したのも、この動きを自分の代で終わりではなく、次世代に引き継ぐためです。今回のアクションをNECの真のグローバル化への転換点にする。そのために力を尽くします」。