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洋上風力発電に安全・コストの両面で貢献
海底送電ケーブルをNECの光ファイバセンシング技術で見守る

海上に風車が立ち並ぶ洋上風力発電は、再生可能エネルギーの「切り札」とも言われ、欧州を中心に広がっています。EUでは風力に頼る発電が約20%に達し、洋上風力の割合も増加しています。日本では風力発電の割合は1%台ですが、洋上風力は海に囲まれた日本に適しており、政府の後押しで国内約30の区域で導入や検討が進められています。一方、普及に向けた大きな課題はコスト。海底に敷設した送電ケーブルを定期的に点検・管理するコスト負担も懸念の一つです。NECは、洋上風力の生命線ともいえる海底送電ケーブルを低コストで安全にモニタリングする技術を開発し、洋上風力を後押ししようとしています。

日本に適した洋上風力、普及のカギは運用コスト

洋上風力は、陸上に風車を置く発電方法に比べると周囲に障害物がないため安定して強い風を受けることができ、大型化も可能なため、発電効率が高いのが特長です。

海底に敷設される送電ケーブル(イメージ)
NEC スマートILM統括部の水口弘司

一方で、壁となるのが「運用コスト」です。10km以上にわたって海底に敷設される送電ケーブルは、最初は固定されていても時間とともに海流などの影響で損傷したり、海底に埋設したケーブルが露出することで船のアンカーなどによるダメージを受けたりする恐れもあります。洋上風力の稼働想定は20年程度。この間は送電ケーブルも安定して機能しなければなりません。ケーブルのメンテナンスにはダイバーによる作業が必要で、規模によっては数億円掛かることもあったといいます。「この負担をどう減らすかが洋上風力普及のカギです」とNECスマートILM統括部の水口弘司は話します。

送電ケーブルと光ファイバ
ファイバセンシグが捉えた振動データ

そこでNECが注目した技術が光ファイバセンシグです。送電ケーブルにもともと併設されている通信用の光ファイバケーブルをセンサーとして活用するため、導入コストを抑制。光ファイバで送受信されるデータをAIで分析することで、ケーブルの状態を24時間365日モニタリングできます。この技術は、道路に埋められた光ファイバを活用して路面の振動を検知し交通量などを可視化する形で、一部の高速道路で実用化されています。

秋田沖の洋上風力や巨大な水槽で実証実験 光ファイバは「長距離向き」

この光ファイバセンシングを海底の送電ケーブルのメンテナンスに活用できるのか。NECでは実験を重ねています。2023年以降、国内複数の洋上風力で海底に敷設されている長さ約10㎞~20㎞のケーブルで実証。通常時の波による揺れなどは検知できることを確認できました。これに加え、ケーブルの経年変化や異常事態の検知にも有効なのか、都内で巨大な水槽を使った実証を行いました。

風車から海底に向けて伸びる送電ケーブルを想定した実験装置を制作
実験装置を水槽に沈めて人工波によるケーブルの振動を測定

実証に使ったのは最大で高さ0.4mの波を生成できる長さ50m、幅8m、水深4.5mの水槽。海底に敷設する送電ケーブルを模した装置を水底に沈めます。ケーブルの経年変化を再現するため、固定具を少しずつ外して波による振動を与えます。この実験で「水中のケーブルへの光ファイバセンシングの有用性が確認できたことは大きな成果」と水口はいいます。

NECアドバンストネットワーク研究所 美島咲子
水中カメラ映像で実際の振動を記録

これら実証を担当するNECのアドバンストネットワーク研究所の美島咲子によると「今回のような長距離のセンシングに光ファイバは向いています」。普通のセンサーは計測したい場所に一個ずつ設置する必要がありますが、光ファイバならケーブル全体を切れ目なく計測できます。そのためデータは大量になりますが、NECが得意とするAIを使って分析すれば、異常が発生した場所をリアルタイムに特定できます。

光ファイバセンシグがメンテナンス作業の安全と効率に貢献

将来、洋上風力が普及すれば、メンテナンスに関わる企業にも大きな影響があります。国内外で水中インフラの施工や点検などを行うアジア海洋株式会社の営業部マネージャーの飯田琢磨さんは「洋上風力の数が増えれば、点検のニーズも高まることが予想される」と予測します。一方で、ダイバーが水中で行う作業には危険が伴うのも事実。水中ドローンなど先進的な機材の導入を進めながら、安全と効率を追求しているといいます。

新しい技術を積極的に活用して水中インフラを守るアジア海洋株式会社

NECが開発している光ファイバセンシグが実用化されれば「日常的なチェックはセンサーとAIに任せて、異常が予見された場所のみダイバーを派遣して潜水作業を行うなどの効率的な分業ができると思います」と将来に向けた期待を語ります。

カーボンニュートラルの実現は世界共通の課題です。NECは長年培った知見と最新のデジタル技術を組み合わせ、この課題に取り組んでいます。その先にあるのはNECがPurpose(存在意義)に掲げる「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会」の実現です。

追い風も向かい風もある風力発電。将来のビジョンを水口はこう語ります。「効率的な発電所の運用を実現し、再生エネルギーの拡大と電力の安定供給に貢献していきたい」。

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