Japan
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2024年の訪日外国人旅行者数は3600万人を超え、2025年には4000万人に達する見込みです。日本各地で外国人を見かけるのが日常風景となり、観光地では英語や中国語などの外国語表記も広がってきました。これらは日本経済にとって追い風となる一方で、地震や台風などが後を絶たない日本では、外国人向けの災害情報発信も実は大きな課題。例えば「TSUNAMI(津波)」という日本語を分からない外国人も少なくないと言われています。災害発生時の情報収集といえば、テレビ。ライフラインともいえるテレビ放送で、外国語による情報発信の仕組みづくりが始まっており、NECの技術が貢献しています。
沖縄で13年ぶりの津波警報 「外国人への情報提供の必要性を痛感」
「AIアナウンサーニュース」。沖縄のテレビ局である琉球朝日放送(QAB)のテレビ欄にこんな番組が登場したのは2025年1月。アバター化した人物が日本語だけでなく英語でも読み上げます。今後中国語や韓国語にも対応予定です。


沖縄には米軍関係者が多く、それに加えてインバウンド観光も順調に回復。観光客が街にあふれ、那覇市のメインストリート「国際通り」では、英語だけでなく中国語や韓国語の会話も耳に飛び込んできます。一方で外国語による災害情報の提供は進んでいませんでした。


そんな中、今回の取り組みのきっかけの一つとなったのが2024年4月の台湾地震による津波警報発令です。沖縄県では13年ぶりの津波警報でしたが、沖縄本島では揺れは全く感じられなかったため体感的に危機感がうすく、日本語の放送の内容がわからない一部の外国人が混乱したといいます。QAB技術部の中田英介さんは「津波警報が出たとき、外国人向け情報発信の必要性を強く感じました」と振り返ります。

右:同 編成局 編成部長 中田 英介さん
今回始まった英語のニュース番組は、AIアナウンサーの多言語対応機能により実現したものですが、外国人向けの放送番組の自主制作はQABでも非常に珍しいといいます。
AIアナウンサーの導入を検討 「夜のニュース枠の復活させたい」
もともと、AIアナウンサーの検討を始めた最大の理由は人材不足でした。放送内容が多様化する一方で働き方改革も進んだため、夜間帯も含めてニュース番組を届けるための人材確保には限界がありました。そのため、夕方のニュースは18時から19時の枠が最後で、それ以降のニュースは伝えることができませんでした。QAB報道制作局の中村裕さんは、テレビ放送が担う使命の観点からも「夜のニュース枠をどうにか復活させたかった」と語ります。


2024年4月の津波警報の発令は、そんな検討のさなかの出来事でした。AIアナウンサーの検討過程でNECから紹介されたシステムは80ヶ国の外国語に対応していることを知った中村さんは気づきました。「これは災害報道にも使える」。
AIアナウンサーの仕組みはシンプルです。原稿のテキストを作成して入力すれば自動的にアバター化したアナウンサーが話す動画ができあがります。外国語の場合も機械翻訳を使って日本語コンテンツとほぼ変わらない作業時間で映像を制作できます。発話に合わせて唇を自然な形で動かせるのがAIアナウンサーの特長で、手を挙げるなどの身振りをすることもできます。


導入にあたって、AIアナウンサーのシステムには海外の放送局でも実績のあるDeepBrainAI社のシステムを採用。全国の放送局に多様な放送システムを構築・納入してきた実績に加え、もともと蓄積していたNECのAIの知見もあって導入の検討はスムーズに進み、わずか2ヵ月でQABでの試用が始まりました。中村さんは「システムがどんどん複雑になっていく中で、現場で使うのは技術に詳しい人間ばかりとは限らないですよね。実際に触りながら習得していくプロセスでNECから教えてもらったのは本当に助かりました」と語ります。


全国の放送局から問い合わせ続々 「平等に情報を届けるミッションに貢献」
本稼働から数か月が経ち、AIアナウンサーと人間のアナウンサーとの役割分担も見えてきました。状況が刻々と変わっていくっていく災害発生直後は人間のアナウンサーの方が臨機応変に対応できますが、緊急以外の災害情報の繰り返しにはAIアナウンサーを併用できる、といった具合です。また、沖縄県にも大きな被害が予想される南海トラフ地震に備えて、津波警報など必要な原稿をAIアナウンサー用にフォーマット化する作業も進めています。将来的には「沖縄県内だけでなく日本全体や海外に向けて『今沖縄で何が起きているか』を発信することにも活用していきたい」と中村さんは展望を語ります。


この取り組みを発表して以降、メディアでも多く取り上げられ、NECには各地の地方放送局などから30件近い問い合わせが寄せられるなど注目を集めています。働き方改革にとどまらず、多言語対応の機能に注目している放送局も多いといいます。「QABで得られた知見をもとに、全国の放送局に向けてAIアナウンサーの活用を提案していきたい」と、今回の提案に関わったNECメディア統括部の仲村孝子は語り、こう続けます。「言語に関わらず平等に情報を届けるというメディアのミッションに貢献していきたい」。それが、「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現」というNECのPurpose(存在意義)にもつながっていきます。