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北海道の大規模農地でNECが挑む 最新の無線通信技術とAIで生産性を向上
2025年1月30日

日本の農水産物が海外から注目を集めています。農林水産物・食品の輸出額は2023年まで11年連続で過去最高を記録し、内訳で最も多いのは「農産物」です。一方で、生産を支える農家の人手不足、後継者不足は長年の課題となっており、最新のテクノロジーによる生産性の向上に期待が高まっています。その課題解決に向けたNECの取り組みの一つが北海道で行う実証実験。広大な農地を有する北海道は農機の自動運転などによる効率化の最前線でありつつも、実は「農地が広すぎて電波が届かない」といった技術上の壁もありました。その壁を超えようとNECが得意とする無線通信技術とAIで挑戦しています。
後継者は減っても農地は広大 無人トラクタを効率よく使うには
北海道帯広市の川西地区。多くの農地が一辺540メートルの正方形がひと区画の単位になっており、区画の外周を一回りするだけで2km以上歩くことになります。都市部ならちょっとした公園並みの広さです。


川西地区を含む帯広市川西農業協同組合(JA帯広かわにし)管内で営農しているのは約350戸。その数は減少傾向で、労働力不足と反比例するように、一戸あたりの農地は拡大しています。広大な農地を少人数で営農するためには、農機を最大限活用し、人間が農地を歩いて作業する時間をいかに削減するかが重要になります。この課題に挑むのが「スマート農業推進プロジェクト」。総務省が地方公共団体などによるデジタル技術を活用した地域課題解決の取り組みを支援する「地域デジタル基盤活用推進事業」に採択され、NECや農機メーカーなどが参画するコンソーシアムが取り組んでいます。農機メーカーでもないNECが参画するのは、最新の無線通信技術やAIで貢献できるからです。これまで多様な業種や現場で培った知見をこの取り組みに活用します。
プロジェクトでは大きく二つの実証が行われています。一つ目は馬鈴薯(ジャガイモ)畑で複数の無人ロボットトラクタを使う無人作業です。これまでも無人トラクタはありましたが、制御に使う既存のWi-Fiは電波の届く範囲が狭く、北海道の広大な農地をカバーしきれない状況でした。


そこでNECが活用したのは、新しい無線規格のIEEE802.11ah(Wi-Fi Halow)です。Wi-Fi HaLowは500m以上離れていても通信できる能力があり、1か所の基地局から複数の耕地区画で作業する4台以上のトラクタを同時に制御できます。
ドローンとAIの活用で広大な農地の目視作業を大幅に削減
二つ目の実証で活用するのはドローンとローカル5G、AI。NECが強みとするテクノロジーを使って長いもの「罹病株」や、小麦の「登熟」と「倒伏」を判定します。実証に参加するNEC先進DXサービス統括部の佐藤公亮は「Wi-Fi HaLowもローカル5Gも、電波特性を理解しているNECだからこそ取り組める領域」と力を込めます。




長いもの罹病株判定、つまり病気のチェックは、炎天下の日でも1日数キロ歩いて葉っぱを目で確認する必要があり、負担の大きい仕事です。小麦の「登熟」とは、穀物が成熟する具合のことで、「倒伏」は風雨によって倒れること。これらを判定し、最適な時期に収穫することは、収量や品質を大きく左右します。人工衛星を使う判定が試されたこともありますが、曇りの日には利用できないなどの課題がありました。


実証ではドローンで上空から撮影した畑の映像をAIで解析します。ローカル5Gを使うことで高精細な映像を送信し、リアルタイムで解析することで、例えば長いもの病気チェックも人が畑を歩いて目視せずともできるようになる、というわけです。ローカル5Gの基地局は複数の農家で共同利用できるように持ち運びができる基地局を採用。コスト削減を意識したシステムを用いています。
「新しい農業の姿」、海外展開にも期待
今回は畑で撮影した映像をAIに学習させて解析をさせるところまで実証は進んでおり、学習の成果を使って、モバイル端末に判定結果を表示させることも視野にいれています。


高齢化の進む農家にとって負担の大きい病気のチェックや広大な農地の耕作作業。今回の実証を通じて効率化が進めば、「耕作面積をもっと増やそうとする農家も出てくるかもしれない」とJA帯広かわにし営農振興課課長の幸村大輔さんは期待を込めます。
広大な農地と言えば、海を越えて世界にも広がっています。幸村さんは「私たちは農業には詳しいが、通信やAIは全くの素人。逆に農業の知見にとらわれないNECのアイデアは大きな刺激になる」としたうえで、「NECのテクノロジーの力を借りて、新しい農業の姿を北海道だけでなく世界に展開していけたら」と展望を語ります。


NECが持つテクノロジーを組み合わせ、JA帯広かわにしと一緒に踏み出した一歩が、日本と世界の農業の課題解決につながるかもしれない。NECがPurpose(存在意義)に掲げる「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会」の実現に向けて、私たちの「食」を支える農業の世界でも挑んでいきます。