サイト内の現在位置

119番通報をリアルタイムでテキスト化
国内で初めて製品化し、出動急増で疲弊する現場の自動化を推進

「119番消防です。火事ですか、救急ですか」。動揺して通報してきた人に、消防の通信指令員が落ち着いた声で尋ねます。そんな日々の安全と安心を支えるその救急対応の現場が、今、危機に瀕しています。消防庁によると、2023年の救急出動件数は過去最多を記録し、2024年夏も酷暑で7月の出動件数が過去最多となる地域が続出。高齢化を背景に増加傾向が2040年まで続くという試算もあります。

総務省「令和5年中の救急出動件数等(速報値)をもとに作成」

現場へ向かう救急隊員はもちろんですが、通報を受ける通信指令員の業務も多忙を極めています。一方で、人手や財源の問題から、人員を増やすことも簡単ではありません。この課題解決に、NECは技術と知見で貢献しようとしています。

消防司令センター(横浜市消防局)

着想からわずか5か月で開発 「消防DXに不可欠」

119番通報を受けた通信指令員は、必要な項目を質問しながら得られた情報をキーボードで入力します。聴き取りに集中しながら正確な記録を残すには、相当の集中力とスキルが必要。NECはこれを支援するため、通報者との会話をリアルタイムで文字起こしして記録する「119番通報のクラウド型音声認識サービス」を国内で初めて開発、2024年春から提供を開始しました。

音声認識の表示画面(イメージ画像)

もともと、通販会社などが使うコールセンター用の音声認識システムはあったものの、消防での使用を想定したものではないため、テキスト変換の精度に課題があり、緊急通報での活用には壁がありました。NECがこの壁を越えられたのは、NEC自前の最新音声認識エンジンを活用したことが一つ。もう一つは、実際の119番通報の情報を学習させたことです。

実際に本プロジェクトを推進したのは、NECのファイアーレスキュー統括部の村田哲史、清水佑、緒方美季、山浦翼の4人です。指令管制を支える「消防指令システム」ではトップのシェアを占め、全国730消防本部の約4割にシステムを採用されているNECだからできたアプローチ。消防側とNEC側から提案し合うような形で進んだといいます。

「省人化という消防の課題をよく知るからこそ、常にどんな解決策があるか考えていました」と村田は話します。既存のシステムに音声認識を追加した場合の稼働確認には想像以上の工数がかかったものの、「消防のDX推進のためには不可欠」との想いから、プロジェクト開始から5ヵ月という短納期で、119番通報に特化したシステムを実用化にこぎつけました。

山浦翼
清水佑

システムの開発・構築を担当した緒方と山浦は「既存事業のプロジェクトが佳境の中、並行して取り組んでいたため苦労も多かった」「消防の課題を技術の力で解決したいというメンバーの熱い思いがあったから、ここまでの成果が出せた」と開発時の想いを語ります。

緒方美季
村田哲史

「正確な状況の把握に役立った」現場からも好評

業務効率化の手ごたえは現れています。これまで、手入力されるデータは「氏名」や「症状」など断片的な情報だったため、他のスタッフがサポートしたり引き継いだりする場合、経緯や状況の把握に時間がかかることがありました。この音声認識システムを使えば、電話でのやり取りが「時系列で全て記録される」ため、迅速に他のメンバーに共有できます。後からやり取りを検証する際にも、録音を一から聞き直さなくてもテキストデータをもとに見つけることができ、実際に使った消防の現場からは「状況を正確に把握するのに役立った」などの声が寄せられています。

最初の導入となった横浜市消防局を含む3消防ですでに導入され、13消防で導入が決定。2024年度は26件の提案を予定しています。この他、全国の消防から多数の問い合わせがあるなど、大きな反響がありました。

AIを活用、ベテランの知見をシステムで継承へ

一方で本システムの開発を指揮した村田は「今回の音声認識システムは、まだ入り口にすぎない」とも言います。
具体的にはさらなる自動化に向け、AIの活用を検討しています。狙いはベテランの知見をシステムで共有すること。ベテラン通信指令員は通報者の言葉から、事態の深刻さや次に何をすべきかなど、頭に浮かべながら対応できます。ベテラン通信指令員のやり取りのデータを学習させることで、例えば「テキスト化した会話の内容をもとに、さらに必要な情報を引き出すための質問候補や、出動指令を出すために参考となる情報を提示する」といったようにシステムを通じて、より適切な対処を行う支援ができないか検討を進めています。また、複数の消防から「生成AIを活用して、通報の内容を要約したテキストを現場の隊員に共有できないか」といったアイデアも寄せられています。将来的には、火災や救急などの災害種別の特定や、出動先住所の指示をAIで自動化することも視野に入れています。

サービスを導入した横浜市消防局からは「出動要請が増す中、消防DXの推進は不可欠です。NECの今回の音声認識技術も含め、AIなど新しい技術を活用しながら、ともに人々の安全・安心を守っていきましょう」とのメッセージが寄せられています。

消防の現場は、社会の「安全・安心」を守る最前線です。NECはPurpose(存在意義)に掲げる「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会」の実現のため、一つ一つ、現場の課題解決に取り組んでいきます。