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文系でも1年間で“AI人材”に 「NECアカデミー for AI」で即戦力が育つ理由

多くの企業が、AIやデータを活用して新たな価値を創造できる人材を求めている。こうした“AI人材”は慢性的に不足しており、優秀な人材を採用するために高待遇を用意する企業が増えるなど人材獲得競争は激化している状況だ。2019年6月に政府が発表した「AI戦略 2019」でも、AI人材の育成は緊急的課題だと指摘されている。

しかし、社内での人材育成はそう簡単ではない。AIやデータサイエンスの知識や技術の習得は初心者にはハードルが高く、ビジネスの現場で即戦力として活躍できるような人材はすぐには育てられない。

そんな悩める企業に向け、NECが“即戦力の育成”を目的としたAI人材育成サービス「new windowNECアカデミー for AI」を提供している。NECが社内で蓄積した人材育成ノウハウを生かして作り上げた。1年間通えば、AIについて知識がなかった初心者でもAIを活用して社会に(新たな)価値をもたらすAI人材として独り立ちできるようになるという。

NECアカデミー for AIでは、どのような知識や能力を身に付けられるのか。学長の孝忠大輔さん(AI・アナリティクス事業部 AI人材育成センター センター長)と、現役のAI人材として活躍する卒業生の中川尊裕主任(金融システム本部)、NEC航空宇宙システムの川端正憲主任(防衛航空システム事業部 第六技術部)に聞いた。

左からNECの孝忠大輔さん(AI・アナリティクス事業部 AI人材育成センター センター長)、NEC航空宇宙システムの川端正憲主任(防衛航空システム事業部 第六技術部)、NECの中川尊裕主任(金融システム本部)

実務を通して“即戦力”を育成

NECアカデミー for AIは、実務経験を通してAI人材としての独り立ちを目指す「入学コース」(1年間、月額60万円)と、身に付けたい知識やスキルを選んで習得できる「オープンコース」(研修ごとの申し込み)を用意する。

オープンコースでは、レベル別に約60種類の豊富な研修プログラムを用意。自身に必要なプログラムを選択して、AI人材に必要な専門スキルを習得できる。注目すべきは入学コースだ。入学コースでは受講生一人一人にメンターが付き、個人に合ったカリキュラムを作成。実際にNEC社員とAIプロジェクトに取り組み、実務経験を積んでいく。受講生は1年間NECに出向するような形になるという。データサイエンスの腕を競う分析コンテストやテーマ別の勉強会、卒業生のコミュニティーなど、他者と交流する仕組みも豊富だ。

new windowNECアカデミー for AI」入学コースの内容

同社はビッグデータが話題になり始めた2013年に社員向けの人材育成プロジェクトをスタート。既に2600人以上のNECグループ社員が研修プログラムを受講しており、その内100人が約1年間のOJT (On-The-Job Training)プログラムを卒業して独り立ちした。19年4月にNECアカデミー for AIを開講し、蓄積したノウハウを社外に提供。孝忠学長は「理論は大学でも学べますが、実践を学べる場は多くありません。アカデミーでは、ビジネスの現場で出てくるリアルな課題を解く経験ができます」と自信を見せる。

「数式は見るのも嫌いだった」文系が独り立ちするまで

中川主任

実際にNECアカデミー for AIでは何を学べるのか。アカデミーの前身となるOJTプログラムを卒業した2人に、現在の業務にも役立っているポイントなどを聞いた。

現在、大手損保のデータ分析業務をしている中川主任は、「数式を見るのも嫌い」な文系SEだったという。もともとは生保向けサービス事業のシステム保守をしていたが、これからはAIの知識や技術が必要になると感じ、育成プログラムの受講を志願した。

座学だけでは実践的なスキルが身に付かないため、先輩社員のサポート役としてAIプロジェクトに従事した。最初はデータ整形などの基本的な事から始め、次第にさまざまなAIエンジンの使い方を学んでいく。AIエンジンにも得意・不得意な領域があり、どういう結果を出すのかを理解していった。2~3カ月に1回はPoC(概念実証)を実施し、1年間で約6件の案件に携わり、経験を積んでいった。

PythonやRなどのプログラミング言語や統計なども学んだが、実務で発生する問題はそうした知識だけではカバーできないほど多岐にわたったと、中川主任は振り返る。例えば、データの前処理もその一つ。

「お客さまからいただくデータのフォーマットが、こちらから依頼したものと全然違うこともありました。そのときはデータを変換するプログラムを急いで作りましたね」(中川主任)

機械学習を行って結果は出たが目標とする精度に達しなかったり、分析結果を見ても次にどうアクションしていいか分からず途方に暮れたりしたこともあるという。一人では解決できないので、都度メンターに指示を仰ぎ、試行錯誤した。

こうした経験を経て、中川主任は「AIプロジェクトに対する危機察知能力が身に付いたと思います」と話す。「プロジェクトを始める段階で、将来的にこういう失敗が控えているだろうと、ある程度予測がつくようになりました。また、どういうデータをもらって、どう整形すればAIエンジンの効果を最大限に発揮できるのかが分かるようになりました」(中川主任)

AI初心者から「分析コンテストで優勝」

川端主任

NEC航空宇宙システムの川端主任もデータ分析は初心者だったが、わずか半年間で卒業したという。本人いわく「試行錯誤は苦にならない」。

川端主任は受講当時、官公庁向け無線機のソフトウェアを開発していた。データ分析の経験はなかったが、新規事業に取り組むタイミングで研究所から声が掛かり、受講を決めたという。社内の育成体制もまだ整っていない時期で、「OJTプロセス自体も試行錯誤でした。OJTでごりごりとたたき上げられた感じですね」と川端主任は振り返る。

ウォーターフォール型のソフトウェア開発と試行錯誤が必要なAIプロジェクトは勝手が違ったが、手を動かすことは苦にならなかった。「性格的には向いているのかもしれません」と話す川端主任は、NEC社内で開催された「分析コンテスト」で優勝した経験を持つ。

コンテストは約90チームが参加した。モデルの精度を高めるために、川端主任は「Kaggle」(機械学習コンペティションのプラットフォーム)や、技術者ブログなどで公開されているソースコードを見て研究したという。分析コンテストで使った手法を他の社員に共有することで、社内のデータサイエンティスト全体のレベルの底上げにもつながった。

そんな川端主任は、実務経験を通して課題設定能力が身に付いたという。「お客さまと対話して課題を引き出し、実際にユースケースに落とし込めるようになりました。課題を聞いたときに、これは需要予測の問題だな、これは故障検知だなと何となく類型化できるんです。データ活用の勘所が身に付きましたね」(川端主任)

川端主任は現在、NECアカデミー for AIの講師として受講生を指導する立場でもある。

両者とも、座学だけでは足りない生きた知識を学んだことで、現在の実務にも役立っているようだ。

AI人材の母数を増やし、豊かな社会を実現

NECアカデミー for AIを通して「AI人材の母数を増やしたい」と孝忠学長は意気込む。「少ないAI人材を取り合っても仕方ないので、AIを社会実装できる人をどんどん増やしたいと思っています」(孝忠学長)

また、2020年には今まで社内向けに行っていた分析コンテストを、データサイエンス学部を設置している滋賀大学と共同で開催し、コミュニティー内で活発に交流できる仕掛けを作ろうとしている。

一方で社員を送り出す企業側は、1年後に戻ってきた社員を生かせるようなポジションを用意しておくことが大切だという。今後デジタルトランスフォーメーションを推進するコアメンバーを育成することが、企業の競争力につながると考える孝忠学長は、「デジタル専門組織の方に来てほしい」と話す。

「AIを社会実装できる人を育てることで、誰もがAIを使えるような豊かな社会を実現していきたいです」(孝忠学長)

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