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AIを活用したリアルタイム内視鏡診断サポートシステム開発
大腸内視鏡検査での見逃し回避を目指す

2017年7月10日
国立研究開発法人国立がん研究センター
日本電気株式会社
国立研究開発法人科学技術振興機構
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、所在地:東京都中央区)と日本電気株式会社(代表取締役 執行役員社長 兼 CEO:新野 隆、本社:東京都港区)は、人工知能(AI)を用い、大腸がんおよび前がん病変(大腸腫瘍性ポリープ)を内視鏡検査時にリアルタイムに発見するシステムの開発に成功しました。
このリアルタイム内視鏡診断サポートシステムは、大腸の内視鏡検査時に撮影される画像で大腸がんおよび前がん病変をリアルタイムに自動検知し、内視鏡医の病変の発見をサポートします。また、臨床現場でリアルタイムに医師にフィードバックするため、画像解析に適した深層学習を活用したAI技術と独自の高速処理アルゴリズム、画像処理に適した高度な画像処理装置(GPU:Graphics Processing Unit)を用いて、1台のPCで動作するプロトタイプを開発しました。

大腸腫瘍性ポリープは、大腸がんの前がん病変であるため、内視鏡検査時に見つけ出し摘除することにより大腸がんへの進行を抑制します。ポリープは内視鏡医が肉眼で見つけますが、サイズが小さい、形状が認識しにくいなどの場合は、見逃されることもあります。
本システムでは、国立がん研究センター中央病院 内視鏡科(科長:斎藤 豊、プロジェクト担当:山田真善)による所見が付けられた約5,000例の内視鏡画像をNECのAI技術に学習させました。本AI技術を用いて新たな内視鏡画像を解析したところ、前がん病変としてのポリープと早期がんの発見率は98%という結果となりました。今後さらに、国立がん研究センター中央病院と研究所が連携し、肉眼での認識が困難な平坦・陥凹病変をAIに学習させシステムの精度を上げ、臨床試験を行った後、日本のみならずグローバルでの実用化を目指します。

システム概要図

研究背景

大腸の場合、通常"がん"は前がん病変であるポリープから発生することが明らかとなっており、人間ドックや大腸がん検診で発見された場合は、積極的に内視鏡的摘除が行われています。実際に米国では、1993年に報告されたNational Polyp Studyと2012年に報告されたそのコホート研究の結果から、大腸腺腫性ポリープを内視鏡的に摘除することが大腸がんの罹患率を76%~90%抑制し、死亡率を53%抑制したことが明らかにされています。
従って、このポリープを内視鏡検査時に見逃さないことが重要ですが、肉眼での認識が困難な病変や発生部位、医師の技術格差により24%が見逃されているという報告もあります。また別の報告では、大腸内視鏡検査を受けていたにもかかわらず、後に大腸がんに至るケースが約6%あり、その原因は内視鏡検査時の見逃し(58%)、来院しない(20%)、新規発生(13%)、不十分な内視鏡治療による遺残(9%)が挙げられています。
大腸内視鏡検査時の病変見逃しを改善し、前がん病変発見率を向上させることが、大腸がんの予防、早期発見に大きく寄与します。

研究成果-リアルタイム内視鏡診断サポートシステムの特徴


  • 内視鏡動画は国立がん研究センター様よりご提供いただきました。
  • 大腸がんおよび前がん病変の内視鏡の静止画像および動画を対象として解析を行いました。これまでに約5,000例の大腸がんおよび前がん病変の内視鏡画像を学習データとして、NECの最先端AI技術群「NEC the WISE」(注1)を用いて解析を行いました。
  • 内視鏡医の観点から内視鏡所見を教示し、画像解析に適した深層学習を活用したAI技術、独自の高速処理アルゴリズム、画像処理に適したGPUを用いて、1台のPCで動作するプロトタイプを開発しました。
  • システムの性能
    • ポリープ検出
      今回開発したプロトタイプを使用して、新たな約5,000枚の内視鏡画像を評価したところ、前がん病変としてのポリープと早期がんの発見率98%という高い認識性能を有することが明らかになりました(偽陽性率は1%に抑えられています)。
    • 処理時間の高速化
      動画各フレームにおける検知と結果表示を約33ミリ秒以内(30 フレーム / 秒)で行うリアルタイム化に成功しました。これにより、開発したプロトタイプを用いて、実際の診療にてリアルタイムで医師にフィードバックすることが可能となります。

ポリープ検出の例

今後の展望

大腸がんの撲滅へ寄与

病変の見逃しの回避
  • 大腸内視鏡検査に今回新たに開発したシステムを活用することにより、従来は認識することが困難であった病変を発見しやすくなることが期待されます。特に平坦な病変発見が困難な口側の大腸において効果が見込めます。
検査の質の向上
  • AIが人間の視覚をサポートすることにより、より多くの大腸腫瘍性ポリープを発見し、発見率が従来より向上することが期待されます。このポリープ発見率は大腸内視鏡検査の質を示すパラメーターの一つとして知られており、内視鏡医の検査の質を向上させることが期待できます。
  • このAIは内視鏡から映し出される画像全体を解析します。より広い画像空間を瞬時に解析することができ、人間の視野の限界を補いポリープの見逃し率が減少することが期待されます。

内視鏡医の負担の軽減

  • 大腸内視鏡検査の経験が浅い医師なども、肉眼で発見したポリープ以外に、AIが指し示す部位があればその部位をよく観察することができます。

今後の目標

  • 国立がん研究センター中央病院内視鏡科(科長:斎藤豊)に蓄積される1,600例以上の肉眼では認識が困難な平坦・陥凹性病変をAIに学習させ、プロトタイプの精度を上げます。
  • 画像強調内視鏡に代表される新しい内視鏡を利用することにより、大腸ポリープの表面の微細構造や模様を学習し、大腸ポリープの質的診断や大腸がんのリンパ節転移の予測への対応も目指します。
  • CT画像や分子生物学的情報などの情報とリンクさせ、より利用価値の高いマルチモダリティなリアルタイム内視鏡画像診断補助システムを目指します。
  • 国立がん研究センター研究所・新研究棟4階に設置されたAI解析エリア(GPGPUクラスタ、注2)と中央病院内視鏡科の録画サーバーを、隔絶された閉鎖系VLAN(注3)で接続し研究を加速させます。

中央病院・研究所が一体化し研究を加速

以上

  • (注1)「NEC the WISE」(エヌイーシー ザ ワイズ)は、NECの最先端AI技術群です。
    http://jpn.nec.com/press/201607/20160719_01.html
    NECのAI技術 http://jpn.nec.com/bigdata/ai/
  • (注2)GPGPUクラスタ:GPGPUとはGeneral Purpose of computing on GPUの略で、本来グラフィック処理目的の演算に使用されるGPU (graphics processing unit)をグラフィック処理以外の別の演算に使用することを指す。GPGPUクラスタは機械学習・深層学習に繁用される。
  • (注3)VLAN: VLAN (Virtual LAN)とは、物理的な接続形態とは独立して、仮想的なLANセグメントを作る技術を意味する。

研究費

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)
研究領域名:イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化(研究総括:栄藤稔)※
人工知能を用いた統合的ながん医療システムの開発
研究代表者:国立がん研究センター研究所 がん分子修飾制御学分野 分野長 浜本隆二

  • 文部科学省の人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト(AIPプロジェクト)の一環として運営
日本医療研究開発機構(AMED) 革新的がん医療実用化研究事業
消化管がんに対する特異的蛍光内視鏡の開発とその臨床応用に向けた研究
研究代表者:国立がん研究センター中央病院 内視鏡科 科長 斎藤豊

日本電気株式会社(NEC)
共同研究「形態情報定量化を基盤とした革新的解析アルゴリズムを用いた大腸がんおよび前がん病変発見のためのリアルタイム内視鏡画像自動解析システム」

学会発表(予定)

日本内視鏡学会総会(2017年10月)
演題名:形態情報定量化を基盤とする人工知能システムを活用した大腸がんおよび前がん病変発見のためのリアルタイム内視鏡画像自動解析システムの開発

研究開発支援事業のお問い合わせ先

戦略的創造研究推進事業(CREST)に関するお問合せ
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K'S五番町
TEL:03-3512-3525
E-Mail:crest@jst.go.jp

革新的がん医療実用化研究事業に関するお問い合わせ
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町一丁目7番1号
TEL:03-6870-2221
E-Mail:cancer@amed.go.jp

リアルタイム内視鏡診断サポートシステムに関する技術的なお問い合わせ
日本電気株式会社
医療ソリューション事業部
〒108-8001 東京都港区芝五丁目 7-1
TEL:03-3798-6353
E-Mail:ee_press@med.jp.nec.com

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様々な課題解決や社会価値創造に貢献していきます。
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