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調達活動における人権への取り組みのさらなる発展に向けて
※本ダイアログは2024年2月に実施しました。
NECは、「サプライチェーンサステナビリティ」をマテリアリティに特定し、協働・共創によるお取引先との連携を強化しています。本ダイアログでは、2022~2023年のNECのサステナブル調達活動状況について振り返り、人権に関する取り組みでの課題について外部有識者の方々と対話を行いました。グローバルで人権に関する法制化が進み企業への要請がますます強まるなか、今後の調達活動において求められる取り組みやNECへの期待、さらには、中長期的に検討していくべき取り組みの方向性など専門的な見地からアドバイスをいただきました。
これまでの「責任ある調達活動」の取り組みを振り返って
中村 この2年間で人権デュー・ディリジェンス(以下、人権DD)を深化させてきた。「サプライチェーンにおける責任ある企業行動ガイドライン」を遵守する旨の宣言書への署名取得率をマテリアリティのKPIに設定しており、2023年度は連結調達金額の85%をカバーするお取引先から宣言書を取得した。サステナブル調達に関する書類点検(以下、SAQ)については、二次お取引先(以下、Tier2)や海外拠点のお取引先にも点検範囲を拡大し、高リスクと特定したお取引先には是正の必要性を説明し、是正すべきポイントを提案してエンゲージメントを行っている。また、OECDのガイドラインに沿ったリスクベースアプローチをもとにリスク領域を特定し、これまでに13社に対して第三者監査を行ってきた。ほかには苦情処理の海外お取引先への拡充、さらに購入先選定におけるESG観点での評価の拡充など、歩みを進めてきた。
永井氏 初期の頃から比べると活動が飛躍的に進んでいる。さまざまなステークホルダーの意見を受け入れ進展していると感じた。
田中氏 人権DDについては、単にガイドラインで求められている内容に対してチェック項目を埋めていくというのではなく、お取引先と共創・協働し、目的の共有を図ったうえで進めていると感じられた。人権DDとエンゲージメントが相互補完になっている点が注目される。このように社会からの期待に応えることを価値としてバリューチェーン全体で共有していくことが今の時代には重要だ。人権DDでリーチアウトできていない声を拾うために、苦情処理メカニズムの海外拡充、多言語対応を行っている点も聞くことができた。加えて、人権DDにおけるPDCAサイクルの中で位置づけられる情報開示を適切に行い、外部からのフィードバックを受けるという部分も進化している。「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って取り組みの方向性が基礎づけられている点も評価できる。
高橋氏 対応できていない企業も多い中、サプライチェーンの人権DDが一巡した点は評価できるが、一般的に、お取引先に対する影響力の行使には限界がある。特に、中小企業、新興国、インフォーマルエコノミーなどについては、情報を取ることも働きかけも難しい。今後、もう一巡人権DDを進める際の課題だ。企業としては、サプライチェーンだけでなく広告やマーケティングなど、対象範囲をバリューチェーン全体に拡げたうえで人権のリスク評価が必要になる。
永井氏 人権DDでは、モノの調達だけではなく、役務提供、コンサルなどビジネスパートナーも含めなければいけない。また、バリューチェーン全体で考え、バリューチェーンの下流でお客さまがNECの製品を人権侵害に使っていないかなども見ていく必要がある。人権DDの深化について考えていくなら、今後はリソース配分に関する経営判断が必要となる。例えば、SAQを複数回実施したということで、次回はメリハリを考えて既に実施した会社や課題が見られない会社をいったん対象から外すなど、リソースとのバランスを取って優先順位を考える。また、第三者監査はまだ実施数が少ない状況。SAQのみではリスクの可視化の点で限界もある。SAQから監査にリソースシフトしていく方がリスク低減のインパクトが大きい。
高橋氏 優先順位をつけるなら人権侵害の深刻度が高いリスクからとなる。深刻性の把握については、NECの事業のどの部分がステークホルダーから懸念を持たれているのか、適宜意見を聞いてみることが重要。
中村 Tier2以降の可視化は当社だけではなく各社相当苦労されていると聞く。またNECの事業も変わってきていることを鑑みて、あらためて重点的に取り組んでいく必要性を再認識した。
山本 人権DDについてSAQ、監査の不完全さをいかにカバーしていくべきか?カバーするものとしてホットラインの担う役割の重要性は理解しているが、それ以外にも方法はあるか?
永井氏 監査だけでは実態としてサプライチェーンの取り組みが進まないこともあるので、お取引先のキャパシティビルディングに軸足を置いていくのも良い。また、国際NGOがESG面でのアラートをあげている会社群の中に、NECのお取引先が入ってないか確認していくことも必要。NGOやメディアのレポートなどから情報収集しリスクを把握することも重要だ。
田中氏 企業も社会の一員として、社会全体で人権課題を見つけて改善するために貢献する姿勢が重要である。法制度が未整備でガバナンスギャップがある地域では、お取引先に対して監査だけではなく積極的支援を行い、人権に関わる現場からの声の拾い上げの促進など、グローバルリーディングカンパニーであるNECに求められる役割は多い。
清水 ここ数年、お取引先を訪問した時に工場長といった立場の方が自社の活動について説明される中で人権のテーマが自然と話題に上ってくるようになるなど、現場の理解も深化してきたように感じる。一方で、リソースの確保や、活動の優先順位づけには課題がある。一つの考え方として、事業が変化してきている中で、戦略事業などに紐づいたサプライチェーンやバリューチェーンにフォーカスしていくことで説明責任を果たせるのではないか。
「責任ある調達活動」のさらなる発展に向けて
永井氏 欧米を中心に関連法規制が強化され、Tier2より上流に対しても企業の対応強化が求められている。また、最近注目が集まっている環境面、特に自然資本とサプライチェーンの人権の関わりについてもご意見をいただきたい。
高橋氏 国際規範がすべて法規制に落とし込まれているわけではない。まず法規制の対応はしっかりすること。同時に、国ごとに法整備状況のギャップがあるため、国際規範をふまえた対応を示していくことが重要だ。自然資本については、例えば生物多様性のおかげで自然の恵みを得ている人たちの生活を守ることが人権の尊重に繋がっていくように、多元的な見方が求められる。一方、生物多様性の影響があるからビジネスをしないとなると、地域の人々に経済的な悪影響を与える可能性があるので、注意が必要。これは気候変動のJust Transition(公正な移行)に通じる。
田中氏 法規制ありきではなく、企業としてグローバルで求められる行動を考える。サステナブルな社会を創るという本来の目的を外さないことが重要。自社とサプライチェーン上の人権尊重が目的で、人権リスクはゼロにはならないことをトップがあらためて理解し、ステークホルダーと協調して関係者を巻き込みながらリスク低減を目指していくことが大切だ。
永井氏 これらの活動は、どこまでやったら合格ということはない。本質をとらえ法令動向に踊らされず、しっかりベースとなる活動に取り組み、PDCAサイクルをスパイラルアップさせていくことで、法令にも対応できるようにするのが望ましい。また、現状では各国の労働法のギャップが大きく、このような状態だとグローバルな観点でフェアなビジネス環境とはいえない。人の権利を守るためにフェアトレードや公正な競争を創っていくと考えた時に自分達はどこに向かっていくのかを継続的に考えてほしい。発展途上国のお取引先において国際規範に基づいた人権尊重の取り組みを進めるために、現地の労働法とのギャップを自社のオペレーションで埋められるかを考えていかなければならない。
山本 法規制を守るという考えではなく法規制の本質をとらえる、また国の壁を超えて企業が公正な競争を作っていくことが重要と理解した。
中村 昨今、零細事業者、個人事業者、フリーランスなどが増えてきている。フリーランスは企業とは異なるため、どう対応すればよいのか?
高橋氏 やはり対話を受け入れる姿勢、仕組みを作っていくことが重要だ。インフォーマルエコノミーと言われる労働者の方々には、状況に応じてキャパシティビルティングの支援も考えることだ。
田中氏 巨大IT企業でプラットフォームエコノミーの労働者が団結するのを阻害したことが批判される事例があった。取引関係を持つ個人事業者の脆弱性を増加させるような行動は人権尊重とは逆行するものである。フリーランスの方々も含め、NECが関わる会社や個人ひとりひとりが置かれている状況を知る努力や対話が必要。
永井氏 再委託先となると労働時間、最低賃金も分からない状況が想定される。世界的に非正規雇用も増えている。従業員は手厚く管理し、それ以外は管理しないということは、国際社会では受け入れられなくなってきている。業務委託時に結社の自由や最低賃金などを管理していくことが必要。また、そのような対応をしないと優秀な個人事業者、人材を確保できなくなる。
中村 発注先が会社でも個人でも、関係性を構築し、それぞれの状況を把握していくことが、人材の確保や企業の競争力維持の観点からも重要であると理解した。一方で、弊社の現状の取り組みレベルを鑑みると、ハードルが高いことも事実であり、中長期的な課題として受け止めた。
清水 NECグループのみでなく、直接関係性のあるお取引先のリテラシーを上げていくことも重要。ICT企業の経営者として、人材確保という共通の課題認識はある。人権尊重の取り組みを怠ると、人材を確保できずに事業の機会まで失うかもしれない。
高橋氏 中小企業の方々ともどう人権DDを進めるか議論しているが、一方で、日々の経営で精一杯という現実もある。人権が重要だ、と言うだけでは伝わらない。認識をどう共有していくのかについては、人的資本管理(例えば従業員満足度向上)のエンゲージメントと人権DDにおける労働者へのエンゲージメントとは相通じるものがあり、一緒に考えて対応していくことが重要。
中村 SAQのみでなく、監査や直接現場で対話をすることが重要だとあらためて理解した。お取引先とのタッチポイントを増やしていくことが大事で、メリハリをつけながら工夫していく必要がある。
田中氏 Tier1お取引先の悩みに寄り添い、人権に関する共通のリスクを抱えているというメッセージを投げかけ、リスクの把握と改善にお互いのリソースを出し合いながら協力すると上手く行くのではないか。
永井氏 活動は従前と比べ圧倒的に内容が濃く、かつ難易度も上がり、高度化していると感じた。終わりがない活動なので、難しい要望をお伝えし続ける形になるが引き続き頑張ってほしい。
清水 社内ではコンプライアンスリスク、コンダクトリスク、ビジネスリスクと3つに分けて議論している。今日の議論も3つのリスクを行き来し、相互関連している。ますます視座を上げ、企業価値を生み出すための活動という考えを持つことが重要と再認識した。お取引先にサステナビリティについて話す際にこの図をいつも使っている。5年ほど前に考えた。今日の皆様のお話をお伺いして、事業、そして企業価値拡大に向け、協働・共創の取り組みと責任ある調達活動をさらに統合させて進めていきたい。
最後に
以上、有識者との対話を通じて、現状のNECの立ち位置を客観的に振り返り、今後の取り組みの方向性について多くの示唆を得ることができました。
今後ますます高度化する人権対応への要請事項について、NECはお取引先と連携し、優先順位をつけながら、サプライチェーン上の人権尊重に向けた活動を前に進めていきます。
ゲストメンバー(社外有識者)
永井 朝子氏(ファシリテータ)
下記をご参照ください。
高橋 大祐氏
真和総合法律事務所 パートナー弁護士(日本)
法学修士(米・仏・独・伊)
企業に対し、サプライチェーン DD を含む、グローバルコンプライアンス・サステナビリティに関する法的助言を担当。日本弁護士連合会弁護士業務改革委員会 CSRPT 副座長として、「人権 DD ガイダンス」「ESG 関連リスク対応ガイダンス」の策定に関与。2020年10月に発表された日本政府の「ビジネスと人権」に関する行動計画の策定に作業部会構成員として参加。国際法曹協会ビジネスと人権委員会 Vice Chair、ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク運営委員、OECD 責任ある企業行動センターコンサルタントも務める。
田中 竜介氏
国際労働機関(ILO)駐日事務所 プログラムオフィサー(渉外・労働基準専門官)
SDGsやビジネスと人権などの文脈において国際労働基準の普及活動に従事、日本の政労使団体との連絡窓口の役割も担う。グローバルサプライチェーンとCSR/RBCに関するプロジェクトを担当。外務省「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)に係る作業部会」委員。前職では弁護士として主に労働事案に関する国内および渉外法務を経験。慶應義塾大学、米国ニューヨーク大学ロー・スクール卒。