サイト内の現在位置

漆ブラック調バイオプラスチック

NECの最先端技術

2018.2.6

伝統工芸の漆器がもつ美しさと環境調和性を実現

NECの高機能バイオプラスチック

近年、温暖化の主因と指摘される大気中CO₂濃度の増大が深刻化しており、2015年に採択されたSDGsやパリ協定に明記されたように、人の活動に伴うCO₂排出量の抑制は世界的な社会課題となっています。このような中、全世界で年間約3億トンも生産されているプラスチックは、そのほとんどが石油由来の原料を高温・高圧条件下で反応させて作っているため、プラスチック生産過程で発生する膨大なCO₂量や製造に要する消費エネルギーが課題です。これに対して、再生可能、かつCO₂を固定化できる植物資源を原料に使用したバイオプラスチックは、低炭素化社会に大きく貢献できる材料として、大きな期待をもって開発と利用が進められています。

NECでは、CO₂排出量の抑制に寄与する植物由来の高機能なバイオプラスチック「NeCycle(R)」を開発しています。例えば植物原料率75%以上の難燃性バイオプラスチックで、パソコンやプロジェクタや、POS、携帯用業務端末、決済用端末、固定電話機、など、幅広い製品に採用されてきました。さらには将来の食料枯渇に対する懸念にも対応すべく、セルロースなどの非食用植物資源を原料利用した、高植物原料率と耐久性を両立させた新しいタイプのバイオプラスチックも世界で初めて開発に成功しました。

伝統工芸の漆器がもつ美しさを実現した漆ブラック調バイオプラスチック

非食用植物原料由来のセルロース系バイオプラスチックの製品価値を高める一貫として、NECでは、機能性に加え、装飾性(デザイン性)という新たな価値創造にも挑戦しています。NECでは、国際的に高い評価を得ている日本を代表する伝統工芸である漆器(注1)がもつ独特の美しい漆黒(漆ブラック)を初めて具現した非食用植物原料のセルロース系バイオプラスチック(注2)を開発しています。漆器の制作は、基材の表面に下地層と漆層を塗って磨く工程を何度も繰り返すため、量産は困難でした。本バイオプラチックは、通常のプラスチックと同様な射出成形(注3)によって、さまざまな形状の製品を量産することが可能であり、自動車内装、建材、日用品など、様々な製品分野のお客様から高い関心を頂いています。

そして2018年、多くのお客様から要望を頂いていた、美しい外観を保つ高度な耐傷性と、装飾性を格段に向上させる蒔絵調印刷の実現に成功しました(著名な漆芸家の下出祐太郎氏(注4)との共同研究)。

この新しいバイオプラスチックでは、独自の着色用添加成分の配合技術を開発し、高級な漆器がもつ深く艶のある漆ブラックと同等の光学特性(低明度や高光沢度など)を実現するとともに、布や紙などとの摩擦による摩耗を防ぐ特有な添加成分の配合技術によって、高級漆器の高度な光学特性(低い明度、高い光沢度、漆特有の深さと温かさ)と耐傷性の両立を実現しました。この漆ブラックの光学特性を保持しながら、装飾性重視のプラスチックの中で最高レベル、すなわち、ガーゼなどで百回程度擦っても光沢度を高く維持できるレベルの耐傷性を実現しました。

<ガーゼで擦った後の表面顕微鏡写真>
左:従来漆ブラック、右:耐傷性改良品

さらに、下出氏により描かれた、精緻かつ立体感のある最高級の蒔絵をモデルとしてデジタル画像処理を行い、特殊印刷に強い印刷メーカーなどの協力を得て、インク組成、着色成分や印刷条件を最適化しました。これにより実物をほぼ忠実に再現できる高度な蒔絵調印刷に成功しました。

これら装飾性と耐傷性という価値の実現によって、非食用植物原料を用いたバイオプラスチックの実用化を加速していきます。

蒔絵調印刷を施した漆ブラック調バイオプラスチック
<蒔絵調印刷を施した漆ブラック調バイオプラスチック>
  • (注1)
    漆器:通常は、木製製品の表面に下地工程を施したのち、漆(天然の漆成分と着色剤の組成物)を塗布してから硬化させ、これを手作業で研磨する工程を繰り返して作製する。我が国独自の伝統工芸製品のため、小文字のjapanが蒔絵漆器を表すことがあったなど、国際的に高い評価を得ている。しかし、高級漆器になるほど製造工程に非常に手間がかかるため、工業製品としての量産は難しかった。
  • (注2)
    セルロース系バイオプラスチック(セルロース樹脂): 草やわら、木材の主成分であり、人間の食用にも適さないセルロースを使った樹脂。セルロースに対して、酢酸、プロピオン酸等の短鎖脂肪酸や長鎖脂肪酸などを結合させることで、加熱(200℃程度)によって溶融が可能なったもの。今回は、酢酸とプロピオン酸をセルロースに結合させた短鎖脂肪酸付加セルロース樹脂を使用。
  • (注3)
    射出成形:プラスチックを熱溶融させて金型に流し込み成形する、一般的なプラスチックの成形方法。金型の構造を変えることで、様ざまな形の製品を量産することが可能。今回のバイオプラスチックでは、鏡面仕上げの金型を使用。
  • (注4)
    漆芸家 下出祐太郎氏:下出蒔絵司所三代目として,伊勢神宮式年遷宮御神宝平文や京都迎賓館の飾り台の蒔絵の制作、高台寺蒔絵の復元的制作などで知られる、我が国を代表する漆芸家。京都産業大学文化学部教授。大学での学術調査や後継者指導も積極的に行い,伝統的な技術を守るだけでなく,発展させる活動を行っている。特に最近は、外務省の依頼で、欧州諸国での講演や著名博物館での招待展示など、国際的にも広く活躍している。
    (*外務省HPでの紹介:PDFhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000158375.pdf