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佐古 和恵

2018年9月28日

佐古 和恵
博士(工学)
NEC セキュリティ研究所
特別技術主幹

ブロックチェーン技術のもつ可能性を追求

私はNECのセキュリティ研究所で、安心・安全で公平な社会をつくるための暗号プロトコル研究を続けてきました。いま最も力を入れて取り組んでいる領域は、ビットコインという暗号通貨に使われているブロックチェーン技術の応用です。ビットコインはお金ですから、信頼できるものでなければ安心して使えないですよね。この信頼を構築するために、ブロックチェーン技術は大きく役立ってきました。安全性や公平性をつくりだすことのできるブロックチェーンを他の分野にどう展開すれば、より安全な社会をつくっていけるか。このチャレンジングな課題に取り組んでいます。
実際、ブロックチェーンが活躍するシーンはたくさんあると考えています。現在の社会は、さまざまなシステムがブラックボックスになっていて、どのような仕組みで処理されているかわからないという場面が少なくありません。たとえば、インターネットにアクセスしたとき、サーバ上ではどのような仕組みで、どのようなアルゴリズムが動いているのかというのは一般のユーザーには見えにくいですよね。こうした状況では、仮にサーバの運営者が特定のグループにえこひいきをしたとしても、一般ユーザーには把握することができません。このようなブラックボックスに対してもブロックチェーンは有効で、公平性・透明性を確保することができます。一般のユーザーでも、公平な運営がされていることを確信し、サーバ側を信頼することができるようになるわけですね。
日本では昔から、安心・安全は水と同じようにタダだというふうに言われてきました。そのため、私たちの研究領域は必ずしも大きなインパクトを実感していただけるようなものではないかもしれません。しかし、少しずつでも良いので、安心や信頼が社会に広がって、私たちの行動範囲が広がること。それがブロックチェーン技術の持つ公平性、透明性で担保されるものだと思っています。

弱い者を助け、生活者に寄り添う暗号技術

暗号プロトコル技術というと、離散数学などの難しい数学を使ったものですし、なんだか縁遠いものに感じてしまうかもしれません。しかし、私は暗号技術というのは「弱い者の味方」なのだと思っています。
考えてみてください。一般の生活者が持っているコンピュータというと、どんなものでしょうか。家庭用のパソコンやスマートフォンですから、それほど大きな計算能力はありません。一方で、大企業や国家となると、巨大なデータストレージや計算能力を持ったスーパーコンピュータを所有しているわけです。このように、実はコンピュータというのは、とても非対称な状態のままインターネット上で結びついているものなんですね。しかし、ここで暗号技術を活用すれば、一般の生活者のデータも安心・安全に守り抜くことができるようになります。一方で、大企業や国家にとっても、みんなのデータを誠実に処理していると身の潔白を示す手段にもなるのです。
だからこそ私は、暗号技術というのは、生活者に寄り添うようなシステムにしていかなくてはいけないと考えています。ブロックチェーンなどの暗号プロトコル技術を使って安心・安全な社会づくりに貢献するのはもちろん、ユーザーインターフェースでも分かりやすさを提供して、どなたにも使いこなせるような公平なシステムをつくっていきたいですね。

世界中の研究者と手を組んで社会をより安心・安全に

これから世の中をさらに安心・安全なものにしていくためには、世界中の研究者が手を組んで研究成果をあげていくことが重要だと考えています。そのために、私も微力ながら、いくつかの国際会議でプログラム委員長も務めてきました。2018年には、ファイナンシャル・クリプトグラフィという国際会議でのプログラム委員長を務めました。これは、電子マネーや暗号通貨などビットコインのもとになるような研究を20年以上前から続けている国際会議です。また、2019年には公開鍵暗号をテーマにしたPKCという国際会議でもプログラム委員長を務める予定です。世界中の研究者が手を取り合って、社会の安心・安全を高めていこうという取り組みは、これからも応援しつづけていきたいと考えています。
また、こうした思いは日本においても同様です。日本にも優秀な数学者の方々がたくさんいらっしゃいます。研究者の力をあわせて、産業に活かしていかなければなりません。おかげさまで2017年には日本応用数理学会の会長を務めることになり、現在まさに、こうした動きを加速させているところです。2023年には、4年に1度の国際応用数理学会を日本で初めて開催することになりました。世界中の数学研究者が集まって応用数理を議論できることを、いまから非常に楽しみにしているところです。社会がこれからデジタルトランスフォーメーションを進めていくにあたって、数学という要素はより一層重要性を増し、必要不可欠なものになっています。この社会変化を安心・安全・公平に進めていくためにも、興味を持ってくださった研究者の方々にはぜひ、この国際応用数理学会に参加いただきたいと思っています。

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