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佐藤 敦

2018年9月28日

佐藤 敦
博士(理学)
NEC データサイエンス研究所
主席研究員

機械学習の先駆となった独自技術GLVQを開発

私はこれまでパターン認識や画像処理、機械学習を専門とした研究に取り組んできましたが、入社当初に携わったテーマは郵便区分機向けの文字認識技術の開発でした。その当時のシステムはまだ認識部がハードウェアでできていて、性能改善を進めるためには標準パターンの最適設計や学習方法の見直しが必要でした。学生時代は物理を専攻していたので、文字認識分野は専門外でわからないことも多く、はじめのうちは研究も思うように進まなかったことを覚えています。しかし、意欲を持って取り組み続けて開発に成功したGLVQ(一般化学習ベクトル量子化)によって、認識性能を飛躍的に向上させることに成功しました。本システムを納入した当時の郵政省のご担当者様からは、NECのものがナンバーワンだというお墨付きをいただいたこともあります。このGLVQをもとにした郵便区分機は、他のメンバーが海外向けのアルゴリズムを開発してくれたことにより、世界でも広く活用されました。これまでに50カ国で導入され、郵便物流通の効率化に貢献しています。また、このGLVQは、NECが世界に誇る顔認識技術のベースにもなりました。
こうした学習方法や画像処理技術を発展させて、現在はカメラ映像から人の動きを捉える研究を進めているところです。NECは世界中でパブリックセーフティ事業を展開しています。この技術の研究が進むことによって、空港や駅などのネットワークカメラ映像から危険な挙動をいち早く察知できますから、さらなる安心・安全の確保につなげていくことができるでしょう。さらに、私たちの開発する技術は、こうした監視用途だけでなく、人の流れを制御して会場運営を効率化するなど、私たちの普段の暮らしの役立つソリューションにも展開できる可能性があると考えています。

少量の情報(スモールデータ)で機械学習を実現させる

いま世界では、ディープラーニングや機械学習技術の進展に伴った人工知能のブームが起きています。技術進化のスピードはめざましく、10年後どうなるかという予想も難しいほどです。ただ、そう遠くない未来に、私たち人間の知的作業の多くを人工知能が代替し、より快適で効率的な社会を実現できることは確かではないかと考えています。
しかし、人工知能の性能改善にあたってボトルネックとなっているのが、実世界からのデータ収集です。現実的な問題を解くためには膨大なデータをもとに学習を進める必要があるのですが、実世界からは問題解決のために必要なデータを集めることが非常に難しいんですね。そのため、いま私たちは理研AIP(革新知能統合研究センター)と共同して、いかに少ないデータで性能を上げられるかという問題にチャレンジしているところです。不足している情報を全く違う情報からどう補っていけるかということが、一つの鍵になると考えています。この技術研究をさらに深め、社会での実用化に十分に耐え得る画像認識やパターン認識技術をつくりあげていきたいと思っています。

研究者にとって最も重要な資質は、本質に迫ろうとする意欲

残念なことに、機械学習研究に関しては、日本はアメリカや中国に対して周回遅れだともいわれています。だからこそ、いかに優秀な研究者を育成するかということは、私たちが直面する大きな課題の一つです。私自身も、その一端を担おうと東京大学の客員教授として学生の指導を行っています。
次世代の研究者に期待したいことは、問題の本質に迫るという姿勢です。物理の研究では、いかに問題の本質に迫るかということが問われます。いかに問題の本質に迫って、それを解けるように上手く定式化するか。こういうチャレンジに、意欲的に取り組める人になってほしいと思っています。結局、最も重要なことは問題を解きたいという意欲です。他の人とは違うもの、何か新しいものを創り出すという意欲を私は1番大切にしています。若い研究者の皆さんにも、ぜひそういった強い思いを期待したいと思います。