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データサイエンス研究所

2019年5月23日

AIを拡張し社会へ浸透させる研究開発
データサイエンス研究所 所長
広明 敏彦

社会で活用され、現場で実際に役立つAIの開発をスピーディに実現

― データサイエンス研究所ではどんな研究をしていますか?

データサイエンス研究所では、AIの研究開発に取り組んでいます。「見える化」「分析」「処方・制御」というAIにおける3工程の全てを研究対象としており、これらが三位一体となって機能するのが私たちのAIの特長です。3工程のサイクルを繰り返し循環させることでデータを蓄積し、さらに新しい価値を生み出すという持続的なモデルでAIをとらえ、研究開発に取り組んでいます。NECは文字認識技術をはじめとして、半世紀以上も前から世界に先駆けてAI技術研究に取り組んできた企業です。その優位性は、現在も変わりがありません。特に、いま世界で最も苛烈な競争が行われているスモールデータ分析は、NECが世界に先行している分野だと言えるでしょう。
このスモールデータ分析のなかで鍵となるのが少データ学習です。少データ学習とは、少ないデータでも実用レベルの性能を発揮させるための機械学習の技術です。たとえば、工場内での様々な異常を発見するシステムを考えてみてください。従来の一般的な機械学習では、異常をモデル化するために、まず異常を示すデータをたくさん集めることが必要不可欠でした。しかし、異常なデータには、そもそも数が少なく簡単には手に入らないというジレンマが存在します。そこで現在は、より少ないデータでいかに実用レベルの性能を実現するかが非常に重要な課題となっています。
データサイエンス研究所ではこの少データの問題に対して、この研究の日本における第一人者である理化学研究所の杉山先生と共に、ブレークスルー技術の実現に取組んでいます。最近では、画像や映像の認識において、従来の10分の1程度の学習データでもほぼ同じ性能が出せるような世界をリードする技術が実現しつつあり、実ビジネスのスモールデータ分析における強力な武器になると期待されています。

― データサイエンス研究におけるNECの強みは何でしょう?

一つ間違いなく言えることは、私たちNECには様々なお客様と共に問題を理解し、価値を生み出すための「現場」があるということです。私たちは、ユーザのデータがひとりでにサーバへ集まってくるようなITサービスを展開しているわけではありません。私たち自身が現場に行って、お客様との対話を重ねながらデータそのものを形づくっていきます。もちろん、ここには苦労も生じるわけですが、それを乗り越えられてこそ私たちの価値があると言えますし、提案や効率的な進め方に関する独自のノウハウも生まれます。また、お客様に密着して、お客様の事業を効率化し、お客様のプレステージを上げていくというスタンスは、私たち自身の研究をより具体化し、加速させるうえでも非常に大きな意味があると考えています。
さらに、技術の活用先を考える際も、NECがあらゆる業種のお客様とつながりがあるお陰で、発想がほとんど制約を受けないことも大きな強みですね。NECは海底ケーブルから食品、流通や金融、さらには人工衛星に至るまで、幅広い産業に対して事業を展開し、実にさまざまな種類のソリューションをお客様といっしょにつくりあげてきました。こうして積み上げてきた顧客との信頼のネットワークのおかげで、あらゆる業種の「現場」に入っていくことができます。研究者としても、非常にやりがいのある環境だと思います。
実際、こうした視点に基づいてたくさんの研究成果が生まれています。たとえば、光ファイバーを利用したセンシング技術は、最近のユニークな成果の一つです。本技術では、振動や温度によって光の散乱が変化する光ファイバーの特性を利用し、周囲の状況を分析します。活用先の一つとして考えているのは高速道路です。あまり知られていないかもしれませんが、高速道路の道路脇には通信用の光ファイバーが敷かれています。この光ファイバーに本技術を活用すれば、道路に何台車が走っているかを分析したり、道路の穴などの異常を検知したりすることができるようになります。高速道路にネットワークカメラを何台も設置するとなると膨大な費用がかかりますし、すべてのエリアを死角なく「見える化」することも難しいでしょう。しかし、本技術を使えば、高速道路上で起こるさまざまなリスクを漏れなく高い精度で検知し、しかも低コストに運用できるようになります。
また、高速に動いている物体をそのままリアルタイムで認識することのできる「高速カメラ物体認識技術」も注目株の研究成果ですね。この技術を使えば、例えば工場の生産ライン上を高速かつ大量に流れる製品であっても、その流れを止めずに良品 / 不良品を判断できるようになります。動きだけでなく、振動する様子などもカメラで撮影するだけで調べる事ができるので、まだまだ新しい応用先や可能性に満ちた技術だと考えています。
このように、実際の社会価値や応用先を想定し、お客様とお話をしながら現場で役立つ成果を生み出すという研究開発のスタイルが、私たちの大きな強みになっています。

― どんなビジョンを描いていますか?

いま、さらに強化しようとしているのはウェルネス分野とロボディクスです。医療は従来から医療機関様と連携しながら研究をつづけてきた分野ですが、これからは、病気の検知や治療だけにとどまらず、体や心も含め、社会的にもっと活き活きとした生活を送ることを考える時代だと思います。そして、そこにはきっと、AIが大きく貢献できるはずです。私たちも、人や社会に対する提供価値をもう一段高いレベルからとらえ直して研究に取り組むように心掛けています。
また、ロボティクスでは「自ら成長していくロボット」を実現させたいと考えています。たとえば、工場でいまロボットを導入しようとすると、現在の技術では設計と調整を何度も繰り返して仕様を完成させる必要があり、導入までの間に膨大な時間とコストがかかってしまいます。しかし、何度も調整を重ねて完成させた動作手順をロボットに読み込ませるのではなく、ロボット自身が現場で学習することができたとしたらどうでしょうか。ロボット自身がさまざまなことを理解したり、人から指示を受けたりしながら「自ら成長していく」ことができれば、コスト面でもスピード面でも、導入は一気に現実的なものになります。
さらに、このロボットの話を俯瞰してみると、機械が「学習」するための技術は、総じて、こうしたスピーディな導入を実現するために開発されてきたと見ることもできます。少しずつ学びながらデータがたまっていって、精度が上がっていくというのは、まさに冒頭で申し上げた「見える化」「分析」「処方・制御」のスパイラル・モデルですね。こうしてお客様といっしょにスピーディで効率的な導入を促進していくというのは、わたしたちの研究における変わらない姿勢です。また、このときに重要となるものこそが、スモールデータ分析や予測、最適化技術です。最初から必要なデータや分析モデルがないなかで、どうソリューションを立ち上げていくか。限られた条件下でもきちんと機能する技術こそ、まさに現場で必要とされている技術なのです。
このようにお客様とともに、社会をさらに前へ進める新しいソリューションを開発していくことが私たちのミッションです。しかし、お客様と同じスピードでは、お客様の事業を加速させることはできません。お客様が考えるよりも、一歩前にいくということが、私たちがつづけるチャレンジなのだと考えています。これからも、新たなAI技術の研究開発を通じて、明るい未来社会の実現に大きく貢献していきたいですね。