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バイオメトリクス研究所

2018.5.21

「人の理解」をめざしたバイオメトリクス研究
バイオメトリクス研究所 所長
水野 正之

認識・認証による人の理解を通じ安全・安心・効率・公平を誰もが手軽に享受できる社会を実現

― バイオメトリクス研究所ではどんな研究をしていますか?

バイオメトリクス研究所は、バイオメトリクス認証(生体認証)を中心とした研究を行う専門組織として2018年度に新設された研究所です。これまでNEC内の各研究所でバイオメトリクス研究に従事していたメンバーを招集して設立されました。指紋認証、顔認証、声認証をはじめとするバイオメトリクス認証は、実世界とデジタル世界をつなぐ安全な「チャネル」をつくり出す重要な技術です。AIやIoTの導入が本格的に進み、膨大なセンサと実世界データに溢れるこれからの世界では、なおさら重要になるでしょう。1970年代からいち早くこの分野での研究を進めてきたNECでは、より迅速で思い切った判断ができるようにバイオメトリクス専門の研究所を起ち上げました。
バイオメトリクスの強みは、「自分自身」が鍵となることで、より自然な形で実世界とデジタル世界をつなぐチャネルをつくれるという点です。たとえばスマートフォンやPCなどで、別々のパスワードを用意しなくてもいいわけですよね。自分自身の顔や指紋などを鍵にすることで、パスを共通化することができます。また、IDカードやチケットが必要なゲートでは、何も持たなくてもスムーズに入場することもできます。でも、こういったソリューションはまだまだ入り口の話です。バイオメトリクスは、いわば生物が個体ごとに持つ外面および内面の固有情報をデータ化する技術なので、さらに大きな可能性にあふれています。私たちの研究所ではいま、さまざまな事業領域において、この技術の可能性を追求する研究を進めているところです。

― バイオメトリクスにおけるNECの強みは何でしょう?

長い研究にもとづいた世界トップレベルの精度と豊富な技術群ですね。NECのバイオメトリクス研究には40年以上にわたる長い歴史があります。1971年には世界に先駆けて指紋認証技術研究に着手し、顔認証技術にも1989年から取り組んできました。いわばバイオメトリクスのパイオニア企業として市場をリードしてきた実績があります。
なかでも指紋認証と顔認証は、第三者機関による審査でも世界No.1の精度であることが実証された技術です。指紋認証では、米国政府機関が開催するベンチマークコンテストにおいて、2004年からの13年間でのべ8回のNo.1を獲得しています。*1 また、顔認証では米国国立標準技術研究所(NIST)が主催する静止画照合における性能評価で3回連続No.1を獲得しました。さらに、2017年には動画での照合精度を測定するコンテストでも圧倒的な精度の高さでNo.1の評価を得ています(技術紹介ページへのリンク:https://jpn.nec.com/rd/technologies/face/index.html)。*2 精度の高さは「自然な認証」の実現にもつながります。たとえば、ゲート入場時にわざわざ立ち止まってカメラの前に顔を向けて認証するのでは時間がかかってしまいますよね。しかし、横顔でも高精度にカメラからリアルタイムに認証できるのであれば、立ち止まる必要もなくスムーズな認証が可能です。こうした「ウォークスルー認証」もNECの得意とするところですね。
もちろん、NECが世界トップレベルを誇る認証技術は、指紋認証と顔認証だけではありません。NECではこれ以外にも、指静脈認証、虹彩認証、声認証や耳音響認証(技術紹介ページへのリンク:https://jpn.nec.com/rd/technologies/earrecognition/index.html)など多数の認証技術を保有しています。一つひとつの認証にはそれぞれ長所・短所がありますから、課題に応じて最適な認証を提示できるというのも、私たちの強みです。こうしたバイオメトリクス技術群はBio-IDiom(Bio-IDiomサイトへのリンク:https://jpn.nec.com/ad/bio-idiom/)としてブランド化され、皆さまに認知いただいています。
さらに、複数の認証技術を組み合わせれば、より堅固なセキュリティを生み出すことも可能です。実際に、インドの国民IDシステムでは、指紋認証、顔認証と虹彩認証を組み合わせた管理サービスを納入し、ご活用いただいています。
こうした導入実績は、すでに世界のべ約70カ国以上、700システム以上に及んでいます。使用用途も空港、スタジアム、会社でのゲートなど多岐にわたります。各方面での豊富なノウハウがあるので、各シーンの実情に応じた細かいサポートができるのも特長ですね。

― どんなビジョンを描いていますか?

私は、バイオメトリクスがめざす究極的なビジョンとは「人を理解する」ことだと考えています。それは、人が人を理解することに似た、より高位で人間的な技術です。たとえば、私たち人間がある人の顔を見たときには、ただその人が誰であると認識するだけでは終わらないはずです。その人の表情を見て、気分が良さそうだなと思ったり、何か疲れているそうだなと感じた場合には声をかけたりすることもあるでしょう。生体をデータ化し、分析するバイオメトリクスは、こういった私たちと同じような認識をすることができる技術なんです。さらに言えば、デジタル化されることでより高度な「人の理解」を得られる可能性にも満ちています。
こうした見地のもとに、2018年4月にはリストバンド型ウェアラブルセンサから長期的なストレスを把握する技術の開発にも成功しました(プレスリリースへリンク:https://jpn.nec.com/press/201804/20180406_02.html)。心理学の知見も踏まえた生体情報を用いることで、人が常に見ていなければわからなかったストレスの兆候だけでなく、見ていても気づきにくかった兆候を発見することができます。
このように、バイオメトリクスが活躍できる分野は社会の安心・安全を加速させるセキュリティ面だけではありません。ヒューマンセンシングによる健康の促進や作業の効率化、さらにはマーケティングなど多彩な活用が考えられると考えています。
私たちはこれからも、安全・安心・効率・公平という社会価値を誰もが手軽に享受できる技術をめざし、研究を続けていきたいと考えています。

  • *1
    FpVTE 2003 (Fingerprint Vendor Technology Evaluation)
    Slap Fingerprint Segmentation Evaluation 2004
    ELFT 2007 (Evaluation of Latent Fingerprint Technologies)
    PFT 2009 (NIST Proprietary Fingerprint Template Testing)
    FpVTE 2012
    PFT II 2013
    MINEX 2016 (Minutiae Interoperbility EXchange Test)
    MINEX III 2016
  • *2
    MBGC 2009 (Multiple Biometric Grand Challenge)
    MBE 2010 (Multiple Biometrics Evaluation)
    FRVT 2013 (Face Recognition Vendor Test)
    FIVE 2017 (Face In Video Evaluation)