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学生のみなさんへ2019インタビュー:山道 智博

2019年2月4日

量子アニーリングマシンの実用化をめざす

システムプラットフォーム研究所
山道 智博(やまじ ともひろ)

大学では物理学を専攻し、素粒子実験で博士号を取得。2018年にNECへ入社後は、量子アニーリングマシンの研究・開発に従事。2023年までの実用化をめざして、超伝導回路の設計や測定・解析に取り組んでいる。

2023年までに量子アニーリングマシンの実用化をめざす

私は現在、筑波にあるシステムプラットフォーム研究所で、量子コンピュータに使う素子の研究開発を行っています。量子コンピュータには、昔からよく研究されている「量子ゲート方式」と最近注目されている「量子アニーリング方式」という2種類がありますが、いま私たちのチームで取り組んでいるのは「量子アニーリング方式」のコンピュータです。
私自身は、このマシンに使用するハードウェアの担当で、超伝導体を使った回路の設計、理論計算、測定、解析などを行っています。NECでは現在、この超伝導回路を使った量子アニーリングマシンを2023年までに実用化することをめざして、体制を拡大して取り組んでいるところです。
量子コンピュータは、AIと非常に親和性の高い技術です。AIには膨大な計算量が必要になりますが、従来方式のコンピュータはいま、近い将来には計算処理能力が頭打ちになってしまうと予想されています。これに対し、量子コンピュータはAIで必要とされる組み合わせ最適化問題などにおいて、非常に高い計算能力を発揮できます。このことから、2000年代頃から大きな注目を集め、世界中の研究機関や企業が開発に取り組んできました。
組み合わせ最適化問題が高速に処理できるようになれば、たとえば運送会社がどういう順序でトラックに積み込み、どのように配達するのが最も効率がよいかなどの答えを高速で提示できるようになるので、ロジスティクス分野で大きな効率化をもたらすことができるでしょう。もちろん、これはほんの一例です。量子アニーリングマシンが完成すれば、機械学習や人工知能をさらに社会へ浸透させる大きなインパクトを創り出せると考えています。

量子効果持続時間が長く、スケーラブルに設計可能

NECはもともと、量子ゲート方式のコンピュータの研究・開発で先陣を切ってきた企業です。この研究で培った資産は、量子アニーリング研究でも大いに活かされています。研究ノウハウはもちろんですが、量子ゲート方式で最初の量子ビットをつくった有名な先生をはじめとするアカデミアとの強いネットワークがあることも大きな資産です。他にも、経産省やNEDOのサポートを受けながら、産業技術総合研究所や理化学研究所などとコラボレーションして最先端の実験や理論計算ができることは、私たちの研究を前に進める大きな力となっています。
また、私が開発を担当しているNEC独自の超伝導回路を使ったマシンでは、量子的な効果(コヒーレント状態)の持続時間が長いという特長があります。従来、量子アニーリング方式が抱えてきた問題はまさにここで、量子ゲート方式に比べても、効果の持続時間が短いという技術的障壁がありました。そのため、計算が完了するまで量子効果が続かないことも多く、量子コンピュータとしてのメリットを十分に引き出すことができていなかったのです。これに対し、私たちの超伝導回路を使った量子アニーリングマシンでは、量子状態を長く維持できるため、計算時に必要な量子効果を適切に使うことができるというメドがたっています。
加えて、私たちのマシンはスケーラブルに設計可能だということが、もう一つの大きな特長ですね。物理量子ビットを冗長化して、論理量子ビット間をすべてつなげるというアイデアを採用しているので、量子ビット間の配線の問題もなくなり大規模に応用することが可能になります。
現在私たちは、開発する量子コンピュータが新しいスタンダードとなるように、チーム一丸となって取り組んでいるところです。世の中を変えるようなイノベーティブなマシンを完成させることに、大きなやりがいを感じています。

自由に取り組める研究環境

私自身の話をすれば、博士まで物理学を専攻し、素粒子実験に取り組んでいました。素粒子物理は、理論が非常にクリアなんです。そこに魅入られて研究に取り組んでいました。理論があって、実験があって、それを検証できるというのがとても好きなんですね。研究分野という面から考えると、現在の研究は少し領域が異なるかもしれませんが、超伝導回路も計算して理論どおりにつくれば、そのとおりに挙動してくれるというのは同じです。とても楽しく研究をつづけられています。
NECを選んだのは、幅広い事業領域に興味を持ったことがきっかけでした。海底ケーブルから衛星までやっているので、何か面白いことができるんじゃないかなと思ったんです。そうしたら、面接時に「量子コンピュータのシミュレーションとかもできるかな」って聞かれたんですよね。なんだか楽しそうだなと思って「できるんじゃないでしょうか」って答えた結果、現在に至っています。
入社してから約1年が経とうとしていますが、すごく自由で研究がやりやすい環境だなと感じています。研究のだいたい15%であれば、自分の好きなテーマに取り組んでいいというルールがあったりもするので、自分のやりたいこともできます。先日も、ちょっと息抜きにPythonをいじって、ソフトウェアのチームと組み合わせ最適化問題についていっしょに考えたりしていました。ハードウェア担当ですが、プログラムをいじるのも好きなんです。
あと、最近取り組んでいるのは有給の消化です。前期には研究に集中しすぎてしまっていたせいか、気づいたら取得しなければいけない有給が溜まってしまっていたんですね。自分の仕事を効率化させるためにも休暇は大切だと思いますので、積極的に取得していきたいと思っています。