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学生のみなさんへ2019インタビュー:谷尾 真明

2019年2月4日

5Gを実用化させる低消費電力化技術

システムプラットフォーム研究所
谷尾 真明(たにお まさあき)

大学時代は数値計算を専攻し、修士課程を修了後2009年にNECへ入社。無線装置の低消費電力化研究において世界の第一線で活躍し、国際学会でも高い評価を得る技術を開発している。

無線装置の低消費電力化技術で世界をリード

私は入社以来、無線装置のハードウェア研究に取り組んでいます。より細かく言うと、無線装置の低消費電力化を実現するための信号処理技術が、私の研究テーマです。
たとえば地上デジタル放送の送信機では、消費電力がいかに小さいかどうかが競争面でも、環境面においても非常に重要なポイントになっています。しかし、従来は送信機の約80%もの消費電力を占める電力増幅器を効率的に動作させられないことが、技術的な障壁となっていました。高効率に動作させようとすると、信号に歪みが生じてしまうというジレンマを抱えていたからです。
そこで私が開発したのが、信号の歪みを取り除くアルゴリズムでした。2015年に開発した「歪み補償技術」は、電力増幅器を高い効率で動作させても歪みを打ち消すことができるもので、電力消費を大幅に改善することができます。本技術は、いま実際に製品に搭載されて世界10カ国以上に納品されています。2018年には、本技術の特許によって関東地方発明奨励賞を受賞することもできました。
また、これからの通信システムとして期待される5Gも、私の研究が大きく関わる分野です。5Gでは通信容量が増大して信号の帯域も広くなるぶん、デジタル-アナログ変換を高速で行う必要があります。そのため、変換にかかる電力が非常に大きくなってしまうことが一つの大きな課題になっていました。私が開発したのは、このデジタル-アナログ変換をまるっと省略できる1ビットデジタル送信技術です。高速かつ高い電圧の分解能を必要とする5Gのアナログ信号を、超高速な1ビットのデジタル信号のパターン(時間軸)に置き換えて生成する技術なのですが、これにより電力増幅器以外のアナログ無線回路の消費電力を約1/2に低減することに成功しました。本技術はマイクロ波技術のトップ学会であるIMS(International Microwave Symposium)をはじめとして国際学会7件で採択されたほか、5件の招待講演を依頼されるなど学術的にも高い評価を得ています。

会社のサポートを受けて海外へ留学

こうした研究に取り組んできたのですが、2017年には自分の研究に一区切りつけることができました。そこで、新しい研究テーマに挑戦したいと思って、2017年の10月から1年間、会社の制度を利用して海外へ留学させてもらいました。NECでは、会社がその意義を認めれば1年間の留学をサポートしてくれるというシステムがあるんです。
私は将来的に5Gの主流となるであろう「ミリ波」という非常に高い周波数帯におけるアナログ回路の設計技術を学びたいと考えていたんですね。ただ、その技術は習得までに5年かかると言われているものでした。これを1年間で習得してみせるからと上司を説き伏せて、アメリカへの留学を実現しました。
もちろん、留学はなかなか大変でした(笑) 覚えなければならないことが5年分あるわけですから。しかし、それまで製品と対峙するばかりで視野が狭まっていたなと思い直すようなことも多くて、すごく刺激になりました。この1年を通じて、より広い視野で考えられるようになったと思います。行く前は1年なんて勉強には短か過ぎるかなと思っていたんですけど、このくらいでちょうど良かったと思います。あまり長いと、だらけてしまいますからね。
また、会社からは学費はもちろん住居費などの補助も出ます。それとは別に給与も出ますから、金銭的な心配はすることなく研究に打ち込むことができました。この1年間の留学は、非常に良い経験になったと思います。

研究者一人ひとりのキャリアを考えてくれる環境

海外留学もそうですが、NECは研究者個人のキャリアをしっかりと考えてくれる会社だと思います。「この人はいま、こういう状況だから、こういうプロジェクトを割り当てよう」というように、育成の観点を踏まえながらプロジェクトを管理してくれる風土があります。
じつは私、入社してから3~4年間くらい、すごく苦労した時期があるんです(笑) 電力増幅器の開発を任されながら、何も成果を挙げられなくて。正直、無線についても入社するまではそれほど詳しくありませんでしたし、ハードウェアの扱いにも慣れていなかったので、いろんな装置を壊してしまったりもして。本当に、辞めるしかないんじゃないかと思ったこともありました(笑)
でも、上司はそんな私の状況を見ながらも、成功体験をつくるまでは研究をつづけさせるという教育的な視点からプロジェクトを続けさせてくれました。事実、この期間の蓄積があったからこそ、歪み補償技術や1ビットデジタル送信技術などの成果を生むことができたと思っています。きちんと研究者一人ひとりを見て、キャリアを考えてくれる環境だなということは強く感じています。
私もこれから、5Gの製品化など目の前に大きな課題を抱えています。まずはこの解決に向けて、留学で得た知識やネットワークも駆使しながら、研究を粘り強く進めていきたいと思っています。