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学生のみなさんへ2018インタビュー:荒川 隆行

2018.2.2

荒川 隆行

NEC独自の生体認証技術「耳音響認証」

バイオメトリクス研究所 主任研究員
荒川 隆行(あらかわ たかゆき)

入社以来、機械学習を使った音声信号処理の研究を続ける。声認証や耳音響認証など、音と人間の可能性を掛け合わせることで、社会へ新しい価値を創り出しつづける研究者。

秘匿性や実世界との親和性が高い認証技術

私はいま「耳音響認証」という技術の研究に取り組んでいます。世界トップレベルの生体認証技術を数多くもつNECですが、そのなかでも耳音響認証はNEC独自の認証技術として注目を集めています。長岡工業高等専門学校の矢野昌平先生が、耳の穴の中の形状は一人ひとりで違うという点に着目し、共同研究を持ちかけてくださったのが始まりでした。いまでは、マイク付きのイヤホン型デバイスを耳に装着して信号を反響させることで個人の耳の穴の形状を解析し、高精度な認証を可能にする技術を完成させています。
なぜ耳を使うの? と思うかもしれませんが、耳を使った認証にはさまざまな長所があるんです。たとえば、耳の穴の中がどんな形をしているのかって、外からは見えませんよね。だから、盗用やなりすましの心配がほとんどありません。秘匿性が非常に高いという特長があります。また、マスクや手袋などの装着が必要な病院などの場所でも、問題なく認証することが可能です。さらに、これは将来的な展望としての話になりますが、耳にデバイスを装着するということは、心臓の音や呼吸の音など、さまざまな音をセンシングできるようになるわけです。認証だけでなく、人間や社会の生活をさらに豊かにするツールとして、大きな可能性がある技術だと考えて研究を続けています。
それに、ウェアラブルデバイスとして活用した場合を考えても、視界をさえぎらないぶん、実世界との親和性がとても高いというメリットもあります。「歩きスマホ」のように、サイバーな世界がリアルな世界を侵食して問題を起こしてしまう事例もありますが、耳音響認証ではその心配はありません。普段の生活なかで特別な動作をしなくても自然な認証ができるうえに、人と話すときも、きちんと目を見て話せますよね。

人の可能性をエンハンスするヒアラブルデバイス

ユースシーンとしても、さまざまな展望を考えています。一つは、機密性の高い通信への利用です。たとえば、もし仮に警備員同士で通信に利用しているトランシーバーが誰かに盗まれてしまったとしたら、どこで誰がどのように警備をしているかという重要な機密情報を傍受されてしまうことになるでしょう。しかし、耳音響認証を使ったイヤホン型デバイスであれば、万が一悪意のある誰かが盗んで耳に装着したとしても、本来の所持者とは認証されないため通信を聞くことができません。通信の秘匿性を守るという機能が期待できるわけですね。また、企業で使っているIDパスもイヤホン型デバイスに置き換えることも可能です。わざわざタッチしなくても、ウォークスルーでゲートを通過できるようになります。
2017年には、実際にイヤホン型デバイスのプロトタイプを作成しました。このデバイスには認証用のマイクとスピーカーの他に、地磁気センサとモーションセンサを組み込んでいます。地磁気を使うことでGPSでは測位が難しい屋内であっても、その人が今どこにいるのか測位できるようになります。さらに、モーションセンサからは、その人の姿勢を読み取ることが可能です。認証と測位、そして姿勢によって、「誰が」「どこで」「どういう状態でいるか」を判定できるデバイスをつくりました。
この情報をビジネスへ活用すれば、たとえば工場で何か緊急の問題が発生したときには、一番近くにいる最適な方に早急な対応をお願いできるようになります。危険の未然防止や業務の効率化、働き方改革にも貢献できるかもしれませんよね。
また、この技術は補聴器とも相性が良いんです。耳の不自由な方がストレスを感じにくくようになるお手伝いや、目の不自由な方に音声でナビすることができるようなシステムにも応用できると考えて研究を進めています。
ヒアラブルデバイスは、実生活に溶け込みやすいデバイスです。あらゆる人の可能性をエンハンスする技術として活用されることをめざして、研究を続けています。

新しい分野へのチャレンジが新しい価値を生み出す

私はもともと、物性物理を専攻していました。当時はスーパーコンピュータを使って物質の構造をシミュレーションするという学術寄りの研究をしていたんですが、ちょうど人工知能や機械学習が流行り始めていた頃ということもあり、もう少し実際の社会に役立つことをやってみたいと考えてNECへ入社しました。じつはNECには、物理出身で機械学習や人工知能の研究で大きな成果を上げている人がとても多いんです。物理で培った知識や数学的なセンスは、この分野ではすごくフィットするんですね。ぜひ物理のバックグラウンドがある方には、NECへ興味をもってチャレンジしてもらえたらと思います。
意欲さえあれば、若い研究者を必ずバックアップしてくれるのがNECです。じつは私も、2012年から1年間、カーネギーメロン大学へ社費留学し、人とコンピュータのコミュニケーションインターフェースにつて研究をしてきました。研究所から毎年数人は、必ず海外へ留学しています。NECは、研究の幅を広げることに対して、積極的に支援してくれる会社です。
この「研究の幅を広げる」というのは、実はとても重要なことだと考えています。私自身も物性物理の研究から、音声認識や雑音除去などの新しい研究分野に取り組み研究の幅を広げるチャレンジをしました。こうして違う世界をまたいだ研究をしてきたからこそ、耳音響認証という新しいコア技術を完成させることができたと思っています。自分の知識や強みをあえて別の分野へ持っていくという勇気とチャレンジは、必ず成功につながるはずです。
そもそも、新しい分野を勉強するって、ワクワクしませんか(笑) 研究者ってやっぱり、ワクワクするからこそ、この驚きや面白さを実際に世の中に届けたいと思って、研究し続ける存在なのだと思います。だからこそ、ずっと専門を極めることも重要ですけど、ちょっと方向性を変えてみて、また新しいことを始めてワクワクするというのも、研究者の進む道として面白いと思いますよ。私も、さまざまなことにチャレンジしながら、音と人間を掛け合わせたところにある新たな可能性を追求してきたいと思います。