
マネジメントフォーラム2019 in 広島の分科会にて、広島電鉄株式会社仮井氏よりご講演をいただきました。
広島電鉄株式会社 取締役 交通政策本部長 仮井 康裕 氏
●講師ご紹介
1983年に広島電鉄株式会社に入社
高速バスの新規路線開発に8年間従事したのち、広島市内フィーダーバス路線の子会社化(「ボン・バス」=エイチ・ディー西広島㈱)や、広島県交通系ICカード「PASPY」の導入、呉市交通局からの全バス路線移管といったプロジェクトに、準備段階から携わり事業を軌道に乗せる
2013年に取締役バス事業本部長に就任
2015年より現職
「わかりやすく利用しやすい」公共交通の実現を目指し、バス・電車を統括する
●広島のご紹介
広島の特色を表すものとして、7つの「B」があります。まず1番目に「Bridge(ブリッジ)」で、広島市内には71か所の橋が存在します。2番目に「Branch(ブランチ)」で多くの大手企業の支店が集まっています。3番目に「Bus(バス)」で、バス会社が7社も存在します。4番目に「Baseball(ベースボール)」で、広島東洋カープに代表されます。5番目に「Bomb(原爆ドーム)」で、広島世界遺産に代表されるものです。6番目に「Bar(飲み屋)」で、広島ではスタンドと呼びますが、Barの密集度は日本一です。7番目に「Bank(バンク)」で、地銀・都銀合わせて多くの銀行が集まっています。
地形的には、広島市は平地が狭く土砂災害が多い地域です。これは花崗岩で出来た山が多く、土砂がすぐに流れ出てしまうためです。また橋が多いことも災害時の渋滞を引き起こしたりします。そのような状況にありながら、30~40数年前に山地を削って多数の団地をつくり、土地の有効活用を行ってきました。そのために坂道が多く、車は交通手段、また生活手段として欠かせないものになっています。
1945年、広島は原爆投下により街を壊滅状態にされましたが、1949年に制定された「平和記念都市建設法」に基づき、国有地を無償で払い下げてもらい、再開発を行って復興を果たしました。
●広島電鉄の歴史
広島は1894年の日清戦争時に大本営が置かれ、一時期軍都(軍事下の首都)と化していました。日本の主要な軍港であり、国の出先機関や物資が多く集まったためです。当時、大阪に本社を置いていた大林組が広島に軌道をつくろうとして広島電気軌道を設立し、大正元年に運行を開始しました。昭和初めに8社あったバス事業会社を併合し、バス事業も立ち上げました。1945年8月6日、原爆投下で街が燃えましたが、その3日後の8月9日には一部区間にて電車運行を再開させています。
広島電鉄の路面電車の特徴としては、全国及び海外からも不要となった車両を集め、走らせていることであり、まさに「動く電車の博物館」と称されています。
●広島電鉄の概要
広島電鉄は鉄軌道事業、自動車(バス)事業、不動産事業を3つの柱としています。
広島電鉄はこれまで、行政と一緒になって電車・バスの利便性向上を図ってきました。例えばJR駅や広島港との結節点となる駅の整備や、低床車両の導入、他のバス会社との調整でバスの渋滞解消を行い他地域へ配備する、などです。また、バス事業においてすでに電車で実施している均一運賃をバスにも設けました。定期券もバス事業7社で共通化し、特定のバスしか乗れないという不便さを解消しました。バスの乗継についても、一部路線では乗り継いで利用しても直通利用時と同じ運賃で利用できる方式にしました。バス停留所の切込みを無くす取り組みも進めています。これはバリアフリー対応で低床車両が増えてきたため、バスが道路上の切込みにうまく寄れなくなってきているためです。
●これからの広島~公共交通とまちづくり~
今後ますます高齢化社会になってくることが想定される中、65歳以上の方が利用できる交通ということに注力する必要があります。昨今、高齢者ドライバーの運転事故ニュースが散見されますが、高齢者の運転事故を無くすには運転する必要がない環境をつくること、即ち公共交通の利便性向上を図る必要があります。現在広島市中心部は都市再生緊急整備地域として指定されており、ひろしま都心活性化プランとして広島駅や紙屋町・八丁堀地区を中心としたまちづくりを目指しています。例えば駅前大橋ルートの新設や広島駅南口広場の再整備(電車が駅ビルの中まで入る)、宮島口地区整備事業(広島世界遺産の玄関口)、西広島駅周辺の再開発、広大跡地プロジェクトなどがそれにあたります。
観光事業では、来訪者数の割には経済効果が薄いといわれています。というのも広島までの交通の便が良いということから、京阪神で泊まって日帰りで広島へ出かけるというスタイルが多いためです。広島の観光事業としては、原爆ドーム・厳島神社の2つの世界遺産がありアジアよりも欧米の方に人気があります。次に、スポーツツーリズムについても広島東洋カープ・サンフレッチェ広島・広島ドラゴンフライズなどのスポーツチームの存在や、瀬戸内エリアでのサイクリングなど目玉はたくさんあります。また広島はB級グルメ(お好み焼き、あなご飯、牡蠣料理など)が有名でありますが、安く済んでしまうため、単価が高い夜の食事を広島で取っていただく方策が今後の課題となります。
観光事業において、いかに便利・快適に過ごしていただけるかが課題となり、MaaS(マース)というモビリティサービスが注目されています。MaaSとは「移動を一つのサービス」としてとらえ、自動車の代替手段として様々な公共交通の支払方法、運賃体系、行先表示、時刻表などを統一して便利かつ分かりやすくするものです。例えばヘルシンキ(フィンランド)では「Whim」というサービスがあり、タクシー・トラム・バスが定額で乗り放題となっており、大変便利です。広島版MaaSの検討を早急に進める必要があります。
広島の目指す姿として、①移動しやすい街、②住みやすい街、③(県外から)来て楽しい街にしていく必要があります。今後、これらの姿をどう実現していくかが広島電鉄の課題であり目標となります。