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第4回SP研コラム
「HPCの拡がりに向けて」

最初に、前回のSP研コラムの発行から、長らく期間があいたことを、深くお詫び申し上げます。
さて来年のことを話すと鬼が笑うとはよく申しますが、来年どころか半世紀も先のことを語る場があり、参加しました。「2050年の社会はどうなるか?」 − これは、5年ほど前、会社の研修の一環で、ある経営スクールのコースを受講した際の所属チームの検討テーマです。当時の修了生の集まりがあり、最近その全体幹事役が回ってきた折に、このテーマをあらためて振り返ってみました。異業種のメンバが、財界キーパーソンとの面談や合宿を経て、30〜40年以上も先の社会の価値観、経済、科学技術/IT、ライフスタイルなどを議論したものです。
翻って、私たちの取組んでいるHPCの世界も、これだけの期間に、科学技術計算やグラフィックスを離れて、画期的に新しい応用や、技術転用の可能性がありえるのだろうか? 思いをめぐらせてみました。もとより科学技術については、およそ私たちの想像の域を超えるものです。「世界のコンピュータ需要は高々5台」と1943年に語った当時のIBM会長トーマス・ワトソン、また「空気より重い飛行装置などありえない」と1895年に断言した物理学者ロード・ケルビン、さらには20世紀中盤に、50年先にブレークすることになるインターネットを、真の意味では予測しえなかったのであろう点を引合いに出すまでもなく。
以下、5年前のチームでの発想の一端を列記するに、この5年間で、すでに実現可能性が浮上したものも結構ありそうです(一方で半世紀を経ても、なかなか夢物語の域を出ないであろうものも)。また利便性の追求もさることながら、ある種の技術の発達は、過度の個人情報の表出などのネガティブ・インパクトも想定され、必ずしも良い話ばかりではありません。最近も、個人によるネット利用履歴を活用したマーケティングを許容する動きが、話題になっていますが。
通信手段の変化
携帯端末が進化して、腕時計ほどのユビキタス機器として、通信手段に。太陽電池をエネルギー源とし、また都市域では成層圏プラットフォームが衛星を補完
移動手段の変化
原油など資源が枯渇する中、燃料電池を用いる自動車が普及。一方で、移動体の普及に対して、路面電車の復権と高性能なスマート自転車の登場。地球の裏側まで数時間以内に行けるスペースプレイン型の往還機の開発。最適な航空路の設定と機体操縦を、リアルタイムに制御。一方で、高速なリニアモーターカー「マグレブ(Magnetic Levitation)」が進化
スマートハウス
家庭における情報化の究極としての一種のセンサーフュージョン。人間活動と連動した自動的な温度/湿度などの制御。冷蔵庫中の食料の自動的な賞味期限チェック、外出先からの家電操作(すでにある程度、現実になっていますが)とホームセキュリティの実現
バイオインフォマテクス/医療
人工網膜、完全埋込型人工腎臓、がんの発生を予防するバイオインフォマテクス、血栓治療等のための遠隔操作可能な超小型医用デバイス、組織工学により再生された人工組織/臓器。また微細なナノ・ロボットが毛細血管や細胞にまで入り込み、脂肪やコレステロールを除去し、さらには癌細胞を除去。ネットワークを介したオンライン医療 −モバイル式のホームドクターが、携帯型のユビキタス・センサー/端末として、健康状態を計測してデータを転送。異常時には緊急医療センターへ通報。一方で、脳の活動のモニタリングとヒューマン・インタラクションに関する応用が、萌芽段階に
商取引の変化
電子マネー/ショッピングの発達にともなう流通業界の変化。取引決済はRFIDなどの発展形態を利用して、各人のユビキタス端末で。POS連携のセンサーフージョンによる大量データ収集/データマイニングによる消費パターン分析とマーケティングが進化。そもそも通貨に対するコンセプトが変化する可能性も
地球規模の環境モニタリング
成層圏オゾンや温暖化ガスの3次元の時空間変動傾向が、全地球上でリアルタイムに求められる高精度、高密度の観測システムが実現。また陸域における土壌水分、析出塩濃度、氷雪分布等を高分解能で計測する飛翔体搭載用マイクロ波放射計などを併用した環境モニタリングにより、ポストIPCCにおける目標達成度合いを評価
未来学的な予想での2050年はともかく。いずれにせよ、大規模演算の世界から、多量データのリアルタイムな収集・分析・判断、さらにはより人間の活動に近い領域でのHPCの活用も行われるのかもしれません。ハイエンドHPCの世界では、Peta、Exaを越えて、2030年頃にZetta scale(10の21乗)、さらにYotta scale(10の24乗)といった想定(いわゆるLotta-scale computing)もありますが、一方でHPCで形成された技術の適用場面を、様々なライフシーンにまで見出せるのか、課題でしょう。
NECでは、ここ数年の近未来のHPCロードマップとして、これまで培ってきたベクトル/SIMD技術を継承したSX-9後継のプラットフォームを計画しております。このような基幹技術の活用/発展形も視野に入れつつ、一方でより将来のHPC活用シーンと市場を見据えて、ソフトウェアや応用を含めた幅広い発想が必要であると痛感しております。
是非、皆様からのご見識も賜りつつ、お役に立ちたいと考える次第です。
