スパコンで設計や現場を支えて30余年
~NECのベクトル機を選び続けた理由と、最新機種に期待すること

NUA-SP研究会会員のみなさまにインタビューし、スパコンの利用目的やスパコンへの思いなどを伺います。第8回にご登場いただいたのは、大林組の片岡浩人様。大林組に初めてスパコンが導入された1988年から現在までずっとNECのスパコンを利用した流体解析を行ってきたという片岡様。これまでのスパコンとの関わりや思い出、大林組の取り組みなどについておうかがいしました。
*本インタビューは新型コロナウィルス感染症予防対策を行いながら実施いたしました。

SP研究会
株式会社大林組 技術研究所
片岡 浩人 氏

(プロフィール)
1984年大阪大学大学院環境工学専攻修士卒。同年株式会社大林組入社。1986年同社技術研究所に異動。以降、1993年から1995年の2年間のアーヘン工科大学への留学期間を挟んで技術研究所に所属。1999年大阪大学で博士(工学)学位取得。現在、技術研究所都市環境技術研究部長。

社長の一声でスパコンを導入。空調のシミュレーションからスタートした

――片岡様のご経歴をお聞かせください。

大学では新しいことを学びたいと思い、1978年当時、設立されてまだ10年ほどだった大阪大学工学部の環境工学科に入学しました。もともとは航空工学の勉強をしたかったのですが、高校の先生に志望していた大学は地域性が強いからと止められて(笑)。代わりに勧められた阪大には航空工学科がなかったので、それなら一番新しい学科に入ろうといういい加減な理由で決めました。でも、気が付けば現在に至るまでずっと環境という名の付く分野にいますね。

大学では空調をテーマにしている研究室に入り、吹き出し口から出てくる空気の流れを研究しました。それが私の流体計算の始まりで、当時はまだスパコンがなく、大阪大学にあったNEC ACOSシステム1000という汎用機を使っていました。大学院でも火災旋風をテーマに、流体計算を手掛けました。

1984年に大林組に就職し、1988年に初めてスパコンに触れました。バブル経済のピークが88~89年でしたが、その少し前の87年末ごろに、社長が突然NECさんのスパコンを買うと言い出したんです。それがSX-1EAなのですが、それを誰が使うんだという話になり、当時屋根開閉式の野球場における温度や空気の流れを計算していた私に声がかかりました。そこから設計や現場の依頼に応える形で、室内の温度や空調がどのように変化するのかというシミュレーションを、スパコンで片っ端からやっていきましたね。その中で特に印象に残っている案件が二つあります。一つ目は、北海道で雪景色を見ながら泳げるプールを作りたいが、ガラスが結露しないようにするにはどうしたらいいか、という相談があり計算しました。無事にできているようですが、本人は行ったことがありません。もう一つは別のリゾート会社ですけど、自然換気の計算をしていて、もうすこしで計算が終わるという頃にその会社の倒産が新聞記事に載り、慌てて計算を止めた、ということがありました。

屋根開閉式野球場周りの気流分布
(SX-1EA, 1991年)
ガラス屋根を持つ屋内プールの空調時の温度分布
(SX-1EA, 1989年)

ただ、建築物ができても検証のための測定をする機会がなかなかありません。シミュレーションがやりっ放しで論文にもならず、次第に飽きていきました。そのタイミングで桑原邦郎先生の研究室に学びに行くことになり、桑原先生の勧めがあったアーヘン工科大学に留学したのち、大阪大学大学院で博士号を取得しました。いろいろな流体計算を手掛けましたが、そのころからどっぷりと流体計算の世界に嵌っていきましたね。

――現在の片岡様のお仕事や、研究所で行っている研究についてお聞かせください。

今はもう管理職になりましたので、自分自身で手を動かすことは少なくなりました。研究所では、設計や現場から調べてほしいと依頼される内容に加えて、最先端技術の研究も行っています。

たとえば、建物に対する竜巻の影響評価というテーマ。日本のある種の建物は海辺に建っていて、背後に山が迫っていたり、周囲を半島に囲まれていたりします。そういった地形の中に立つ建物に、竜巻が来ればどうなるのかということも研究しました。これは学生時代に研究していた火災旋風のテーマにもつながっています。火災旋風というのは一種の竜巻ですが、学生時代は要素を非常にシンプルにして、コンピュータで計算していました。時を経てより複雑なシミュレーションがスパコンでできるようになったということですね。

――片岡様の休日の楽しみは何ですか。

蝶を集めて標本をつくることです。コロナ禍になる前は海外まで行って蝶を捕まえていましたが、最近は秩父の山に入り浸っていますね。中高生のころから蝶を捕り始めて、留学という名目で行った(笑)ドイツでもそこからアマゾンに行くなど、ずっと続けてきました。上を見ると私よりもすごい人はたくさんいますが、私は自分で捕れる範囲で楽しみながら、これからも続けていきたいと思っています。

数年おきに機種を更新。SX-ACEでのスピードアップが印象的

――1988年に初めて大林組でスパコンを導入したとのことでしたが、その理由は何だったのでしょうか。

大きな計算をしたいと思ってもコンピュータの能力には限界がありましたし、もっと早く計算したいという思いはみんな持っていたと思います。流体解析という私自身の立場から言えば、三次元で複雑な形状をきちんと解きたいという思いもありましたし、構造解析の人たちにとっても、建物全体の非線形構造解析を行いたいという思いがあったと思います。

SX-1EAを最初に導入したあとは、4年後の92年にSX-3、97年にSX-4と、数年おきに更新していきました。2002年に導入したSX-6iで、大きく小型化したことを覚えています。2007年に導入したSX-8Rはいいマシンでしたね、これで竜巻をたくさん計算しました。2015年に導入したSX-ACEでは、複雑な形状をした建物に作用する風の荷重が計算できるようになりました。4コアになり、並列計算もできるようになったので、段違いに速くなったという実感がありましたね。そして今年(2021年)10月にSX-Aurora TSUBASAを導入しました。

単体角柱周りの流れと振動
(SX-4/4C, 1999年)
平板状建物周辺の地上付近の気流
(SX-6i, 2003年)
東京湾から北上する海風 東西2km×南北19.5km (SX-8R/8A, 2012年)
移動する竜巻状旋回気流の建築物への影響
(SX-ACE, 2015年)
超高層集合住宅に作用する風圧
(SX-ACE, 2016年)
――機種を更新しながら、ずっとNECのベクトル機を使われてきた理由は何でしょうか。

別に、ベクトル機にこだわっているわけではありません。更新を考えるたびに複数の会社にベンチマークとなるプログラムをお渡しして、スピードや性能、予算などを比較するのですが、毎回NECが勝つんです。

一番は、やはり速さですね。ベンチマークをお願いしている会社には各社の強みを生かしてチューニングしてほしいと言うのですが、ベンチマークとしているプログラムが流体計算の、それも自前のコードなので、ベクトル化しやすいということもあり、比較するとやはり性能の差が出ます。性能を同じにすることもできますが、そうすると今度は値段が倍以上にもなるんですよ。

――今回新たに導入したSX-Aurora TSUBASAに、何を期待していますか。

最も期待しているのは、ノード数が128であること。風荷重の計算では、建物が360度どこからの風でも耐えられるように、風向きを変えながら計算していかなければなりません。たとえば10度ごとに計算するのであれば36風向、つまり36通りの計算が必要になります。実際には5度ピッチで実験しているので72通りの計算が必要なのですが、一つ前のSX-ACEは32ノードだったので、36風向の計算すら一気にできませんでした。その点SX-Aurora TSUBASAは128ノードということで、どんと一気に計算できることを期待しています。計算だけなら、半分くらいの時間に縮小できるのではないかと思いますね。

2021年10月導入 SX-Aurora TSUBASA

シミュレーションと風洞実験で、設計と現場をバックアップ

――大林組の研究環境についてもお聞かせください。大林組技術研究所は、社内でどのような位置づけの組織でしょうか。

技術研究所の役割は主に3つ。最大のミッションは、設計や現場に依頼される内容に基づいてシミュレーションや実験を行い、技術的にバックアップすることです。その次のミッションが、未来に必要となるだろう技術を研究し、周知していくこと。そして3つ目は、技術のショールームとして、お客さんに最新技術や訴求したい技術を見せること。テクノステーションと呼ばれる本館は、この3つ目の役割を主に担っています。

――技術研究所には、風洞実験用の施設もありますね。こちらはどのような役割を担っているのでしょうか。

今のところ、風荷重は最終的に実験で確認しています。シミュレーションでは建物の設計の初期段階で様々な検討を行い、風洞実験は建物の詳細な形状が決まったあとに検討を行うというように使い分けています。

最近、設計や現場からよく依頼されるのは、風切り音の調査です。建物の表面にフィンのようなものを付けるデザインが流行っているのですが、そうすると、風でフィンからピーピーという風切り音が鳴る可能性がある。そこで風洞の中にフィンを持ち込み、風向きや風速を変えながら音をチェックしたり、音を消す方法を探ったりします。本当はこういったこともシミュレーションでできればいいのですが、実際に音を聞いてもらわなければならないので、この先も風洞実験は欠かせないものだと思います。

窓口となり、SP研の意見をNECに伝えていきたい

――SP研の活動についてもお伺いします。これまでを振り返り、印象に残っていることは何ですか。

SP研には、2006年頃から参加しています。委員長がちょうど桑原先生から藤井孝蔵先生に代わったタイミングで、SXのユーザーということで声を掛けてもらいました。

やはり、懇親会などでキヤノンさんや本田技研工業さんなど、他社の研究の話を聞くのは刺激になります。大学の電算センターのマシンがそろそろ切り替え時だという情報もSP研から得ていますね(笑)。

――今後、SP研に期待することは何でしょうか。

SXの開発予算を増やすためにも、SP研を通じてSXのメリットをアピールし、ユーザーを増やしていきたいですね。それと同時に、SXをもっと有効に使うために何が足りないのかといった意見をSP研から集め、我々が窓口になってNECに伝えていきたいと思っています。
SX-Aurora TSUBASAで動かしたいプログラムの移植やチューニングについて議論するワーキンググループ活動にも参加していますが、そういった活動を通してSXでサポートしてもらいたいプログラムの要望をNECへ伝える場にもなっていますね。

――最後に、SP研のみなさまにメッセージをお願いします。

この計算は大きすぎる、時間がかかりすぎるということもあるかもしれませんが、計算してみなければ見えないことが必ずあります。ツールはあるのだから、みんなで大きな計算にがんばって挑戦していきましょう。